ランキングサイトがあまり選ばない“
桜ソング”俺的名曲5選

卒業、進学、就職と出会いと別れの季節である春を華やかに彩ってくれる“桜ソング”。2000年発表、福山雅治の「桜坂」をきっかけに、桜を題材とした“桜ソング”に注目が集まるようになり、森山直太朗の「さくら(独唱)」やケツメイシの「さくら」、コブクロの「桜」と名曲が出揃った2003~2005年あたりから、毎年春になると多数のアーティストが競うように桜ソングをリリース。2008年発売の「桜の花びらたち2008」に始まり、6年連続で桜にまつわる春シングルをリリースしたAKB48(2014年は桜ソングでなく、大島優子をセンターに迎えた「前しか向かねぇ」だった)のように、恒例行事的な感じで生まれる桜ソングもあるが。日本を象徴する花であり、日本人ならではの情緒や美意識をくすぐり、それぞれに思い出す出来事や風景があって、切り口によってさまざまな感情や情景を想起させてくれる桜ソングからは、数多くの名曲が生まれている。ここではそんな中から、ネットによくあるランキングサイトの『桜ソングベスト10』みたいな情報に踊らされることのない、“桜ソング”俺的名曲5選を紹介。燃えて泣ける桜ソングで春を彩れ!

「Sakura」Allister

J-POP贔屓で知られるスコット・マーフィーが在籍する、シカゴのメロディックパンクバンド・Allisterが、ランキングサイトが選ぶ“桜ソング”の定番曲、森山直太朗の「さくら(独唱)」をパンクアレンジ&英詞でカバー。“日本人だからこその情緒や美意識を~”といった、上記の文章をいきなり覆す選曲だが(笑)。日本やJ-POPをよく学び、理解した上での邦洋チャンポンぶりのカッコ良さ(クウェンティン・タランティーノ監督作品『キル・ビル』的な)や、原曲のメロディーの良さに改めて気付かせてくれるバンドアレンジは一聴の価値あり。その他、「さくら(独唱)」はGILLEが英詞でカバー(これもカッコ良い!)している他、キンモクセイ、夏川りみ、クリス・ハートなど、多くのアーティストがカバー。世にどれだけ多くの桜ソングが増え続けても、この曲は10年後20年後もさまざまなかたちで歌い継がれていくんだろう。ちなみに徳永英明は「さくら(独唱)」をカバーしていない。

「ガチ桜」湘南乃風

タイトルだけで大絶賛したくなる湘南乃風による桜ソングは2010年2月発売、10枚目となるシングル曲。初めて聴いた時、若旦那の汗臭いラップに“こんなアツすぎる桜ソングありかよ!?”とビビらされたこの曲。自身の経験や体験を反映したであろう、ドデカイ夢を追う主人公を描いた歌詞がリアルに響く。夏のイメージが強い彼らだが、温かさを感じさせるミディアムなテンポ感やトラックの印象、キュンと胸を締め付けるサビメロはしっかり春をイメージさせ、《俺らは行く 風に吹かれ》と4人が男臭くユニゾンする、前向きでドラマチックな後半の展開は胸熱くなること間違いナシ! ちなみに湘南乃風には、「さくら ~卒業~ feat.MINMI」という美しい桜ソングもアリ。卒業から始まることもある。

「CHERRY BLOSSOM」10-FEET

ライヴでも定番となっている、10-FEETの名曲。《さくら舞う さくらが咲く 過去は現在のために》と始まる、勢いあふれるアッパーなこの曲。ライヴではフロアいっぱいにタオルが舞うハイライト的な曲になっているが、歌詞をよく読むと、そこに綴られたテーマは“人生”や“生と死”、“輪廻転生”といった実に深いもの。このへんが実に10-FEETらしいし、《せめて今は あざやかにここに咲け》というフレーズも、だからこその異常な説得力を持って胸に迫る。考えてみると、《櫻の樹の下には屍体が埋まつてゐる!》と始まる梶井基次郎の小説「櫻の樹の下には」のような作品もあれば、《4月は花見で酒が飲めるぞ》と歌うバラクーダの「全日本酒飲み音頭」があるように、生と死にも通ずる華やかさと儚さの両面を持つのも桜の不思議。そしてそのどちらもをしみじみ感じることができる、日本人の繊細な感覚や豊かな感受性こそが“桜ソング”というジャンルを生み出した理由だろう。ちなみに10-FEETがさまざまなアーティストとコラボレーションした、セルフカバーのみで構成されたミニアルバム『6-FEET』には、MINMIとコラボレーションした「CHERRY BLOSSOM(feat.MINMI)」が収録。こちらもしみじみ良い。

「sakura」NIRGILIS

2006年3月リリース、NIRGILISの通算8枚目のシングル。僕が以前から、評価が低すぎると思ってるバンドのひとつがNIRGIRIS。当時、あまり知られていなかった“マッシュアップ”という手法を一般化し、“日本唯一のマッシュアップバンド”などと言われていた彼女ら。アニメ『交響詩篇エウレカセブン』のOPテーマでもあったこの曲は、堀澤麻衣子の「アメイジング・グレイス」をマッシュアップした、壮大な桜ソング。アニメファンも“こんなのアリ?”と驚いたこの曲。仰々しいイントロで始まり、アメージング岩田アッチュのタフなヴォーカルと軽快なギターとビート感で聴かせるオリジナル曲に、オペラ・ヴォーカルが重なっていく美しさと雄大さは本当に素晴らしい! この曲が収録されたアルバム『BOY』にはNIRGILISの名前を世に広めた、渡辺美里の「マイレボリューション」をマッシュアップした「コモンガール」も収録。さらに『BOY』と対を成すリミックスアルバム『GIRL』もすごく良い。こういう遊び心あるバンド、最近あんまりいないよね? また、同じ時代にリリースされたNIRGILIS以外のマッシュアップ楽曲には、HOTEI vs RIP SLYME「BATTLE FUNKASTIC」(2006年発表)なんて曲もある。

「梅は咲いたか」江戸端唄

《梅は咲いたか 桜はまだかいな》と始まるこの曲は、三味線の調べに乗せて江戸時代から歌い継がれてきた江戸端唄。“江戸端唄”とは、江戸時代中期に歌われた短い歌謡の総称。つまり歌謡曲、J-POPのルーツと言え、桜ソングの元祖と言える(笑)。“しょんがえ節”というタイトルもあって、江戸~明治~大正・昭和と時代によってだんだん歌詞を変えながら歌い継がれてきたらしいが。歌詞を追っていくと、《山吹ャ浮気で色ばっかり》とか、《吉原へ御案内》なんてフレーズが出てきて、色恋を歌った艶っぽい歌だったことも分かって面白い。“桜ソングが流行る中、誰かカバーすればいいのに”と思ったら、レゲエシンガーのMetisが2007年1月にリリースした「梅は咲いたか 桜はまだかいな」という曲で、そのフレーズを使用していたことも分かった。当時は《桜は咲くのさ》というフレーズから、“合格ソング”として受験生を中心に口コミで広まり、湯島天神で合格祈願ライヴも行なわれたそう。へ~、知らなかった! ただ、ここまで書いて気付いたのだが、この曲は桜ソングじゃなくて、梅ソングだった(笑)。

著者:フジジュン

OKMusic編集部

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