エイジア来日直前! 聴いておきたい
5曲がこれ!

来日間近のエイジア。昨年、オリジナルメンバーのスティーブ・ハウが脱退し、新たに加入したサム・クールソンは、今回が初来日公演となる。若い彼がグループ内に新風を呼ぶかどうかが、今回の見どころのひとつだろう。

1970年代初頭、イエス、キング・クリムゾン、ピンク・フロイド、EL&Pなど、一世を風靡したプログレのグループたちは、パンクロックやAOEが登場する70年代中期になると人気に陰りが見え始め、活動の縮小や解散を繰り返すようになっていく。そんな中、かつてのプログレ人気を取り戻そうと、82年にジョン・ウェットン(元キング・クリムゾン)、ジェフリー・ダウンズとスティーブ・ハウ(両者とも元イエス)、カール・パーマー(元EL&P)の4人を擁したスーパー・グループ、エイジアがデビューする。プログレの特徴でもある“難解”“曲が長い”など、短所と言われた部分を80年代に合うスタイルにアレンジし、世界レベルの人気を勝ち得たのが彼らであり、デビューから現在まで、その活動は長期(途中、解散したこともあるが)に及ぶ。
ここでは、彼らの長い歴史の中でも、特に聴いておきたい初期の5曲をセレクトしてみた。

1.「Heat Of The Moment」-『ASIA』
(’82)収録

エイジアのデビューアルバム『ASIA(邦題:詠時感~時へのロマン)』は、1500万枚以上を売り上げ全世界で大ヒット、一躍エイジアの名前を知らしめることとなった。本作はシングルカットされ、全米ロックチャートで1位を獲得している。高度なテクニックを持ちながら、ポップスとしての分かりやすさをベースにした彼らのスタイルは、かつての硬派プログレファンからは非難されたものだが、彼らは“一般大衆にプログレを理解してもらう”ことをテーマに活動していたので、以降もぶれることなくこのスタイルを貫き通している。本作はプログレの特徴となるキーボードやシンセの多重録音などを見せつつも、歌とコーラスを前面に押し出し、覚えやすいメロディーで聴く者の心を捉えた。彼らを語る上で絶対にはずせない一曲がこれ。

2.「Only Time Will Tell」-『ASIA』
(’82)収録

前述の「Heat Of The Moment」と同じく、デビュー盤に収録された曲で、これもエイジアを代表するナンバーとして知られる。“この曲が最高だ!”と言うファンは多いのではないか。単純すぎず、かといって難解でもないドラマティックな展開とメロディーの美しさ、そして演奏の熱さという点で、エイジアの楽曲の中でも最高位にランクされる秀作だろう。それにしても、この頃のジョン・ウェットンの圧倒的なヴォーカル表現は、芸術の域にまで到達していると思えるほど充実している。全米チャートでは8位となったが、それが低すぎると思えるぐらいの完成度だ。この曲を聴くと、同時代に人気を博したジャーニー、フォーリナー、スティクス、ボストン、TOTOなどに与えたサウンド面での影響は計り知れないと思う。

3.「Don't Cry」-『ALPHA』(’83)
収録

2ndアルバムの1曲目がこれ。デビューアルバムが完璧な仕上がりであっただけに、2ndを聴くのが怖かった人は少なくないはずだ。しかし、本作の壮大なイントロ~Aメロを聴くだけで引き込まれてしまい、要らぬ心配をしたことに気付くのだ。そんなことはともかく、この曲は軽いプログレ・ハードロックをベースに、胸キュンのメロディーが炸裂するというスタイルで、昔はディスコでも大いにかかっていたほどダンサブルだ。プロフェッショナルな音楽職人の、緻密な思考によって組み立てられた曲だと思う。ただ、分かりやすさを狙うあまり単調になってしまうリズムなど、ある種の“軽さ”があるがゆえに、エイジアは産業ロックだとかイージーリスニングロックなどと揶揄され続けている。非の打ち所がないプロフェッショナルな演奏家というのは、いつも同じテンションの演奏をするだけに、その指摘は当たらずとも遠からずかもしれない。本作もシングルカットされ、全米ロックチャートでは1位(ポップチャートでも10位)を獲得している名曲。

4.「The Heat Goes On」-『ALPHA』(
’83)収録

非の打ち所がない演奏をしているところがエイジアのマイナス点だと言ったが、それは言い方を換えれば“スリリングさがない”ことである。ロックの醍醐味のひとつは、持っている技術の100パーセントに近いものを演奏で出そうとした時、演奏者に真剣さが生まれ、緊迫感やスリル感などがリスナーに伝わるところにある。ところが、エイジアぐらいの演奏家になると、自分たちの50パーセント程度の力で、他のロッカーの120パーセントぐらいの力になってしまうのだ。要するに演奏が巧すぎて、リスナーはスリルを感じないのである…と、長い前置きになってしまったが、この曲の後半で、ジェフ・ダウンズはオルガンのソロを弾いている。それが珍しく結構長いアドリブで、かなり楽しみながら弾いているのが分かる。本作はエイジアの楽曲の中でも、奏者の額に汗のにじんでいる姿が想像できる、数少ないスリリングなナンバーだと思う。全米5位。

5.「Go」-『ASTRA』(’85)収録

オリジナルメンバーのスティーブ・ハウ(元イエス)が脱退した後にリリースされた3rdアルバム『ASTRA』に収録のナンバー。アルバムの完成度は高かったにもかかわらず、セールス的にふるわなかった『ALPHA』の反省があったのか、本作はこれまでよりもハードな印象はあるものの、キャッチーなメロディーとダンサブルなリズムの組み合わせはこれまでのシングル作と変わらず、全米7位まで上昇している。しかし、アルバムはアメリカで67位、イギリスで68位止まりだった。これはエイジアの音楽性が変わったからではなく、80年代中期にはワールド・ミュージックやマイケル・ジャクソンなど、新しいロックの波が世界中に押し寄せていたからである。この後ウェットンが脱退し、エイジアは空中分解してしまう。
エイジアはジョン・ウェットンのヴォーカルと、ジェフ・ダウンズの曲という2本柱で成り立っているグループなので、『ASIA』『ALPHA』『ASTRA』の3枚あれば、このグループの全貌はほぼ捉えられるはずだ。そして、エイジアを聴いて気に入ったなら、冒頭に挙げたイエス、キング・クリムゾン、ピンク・フロイド、EL&Pなど、プログレの名選手たちの演奏にもふれてみてほしい。それが、エイジアというグループの意図したことなのだから…。

著者:河崎直人

OKMusic編集部

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