水カンさんへ、大森さんへ、カミンさ
んへ! 2016年の案件総決算

師走ですね。「鰍沢」は打って付けの季節ですが、先月に続いてやっぱり落語しか聴いていないことが編集部にバレる前に本題に入ります。手前味噌ですが、今年はライター歴4年目にしてようやっと恵比寿リキッドルームやTSUTAYA O-Eastや新木場STUDIO COASTのライヴレポート等を任せていただけるようになりまして、物書きとしてちょっとだけ前進できたような気がします。もちろん、このコラムコーナーを担当していらっしゃる諸先輩方に比べたらまだまだですし、自分がではなくて依頼してくださった編集さんがすごいのですが、ほんの数カ月前まで同じフロアでモッシュに突入してボコボコになっていたことを思い出すと、なんだか感慨深くなるものです。そういうわけで今回は、自分の2016年の案件の一部を振り返ります。「てめえのことなんざ知らねえ」という方は、この記事の左隣あたりに掲載されているアーティストさんのインタビューをどうぞ。

1. 「普通の女の子」(’16)/白波多
カミン with Placebo Foxe

白波多カミン with Placebo Foxes名義の作品『空席のサーカス』でメジャーデビューを果たした白波多カミンさんのインタビューをやらせていただいた時は、お互い関西ゼロ世代の音楽が大好きなので、あふりらんぽやオシリペンペンズやギューンカセットの話題で盛り上がりました。白波多さんは全収録楽曲を丁寧に解説してくださったのですが、「実際のところ女子ってこんなもんですよね!」と共感したのがこの曲です。オルタナ、サイケ、パンク、ディスコとやりたい放題の今作の中で、フォークギターの単音に乗せて語られる“女子対女子”という構図のなかでこそ残酷なほど明瞭に浮かび上がる諦観と情愛の構図は、“女子対女子”のなかでだけの秘密のままでいいのです。

2. 「ミッドナイト清純異性交遊」(’
13)/大森靖子

大森靖子さんは妻であり、母であり、どこまでも女の子で、途方もなくシンガーソングライターの大森靖子でした。肌寒い歌舞伎町のビルの地下、裸電球のぶらさがったコンクリートの部屋で、すべての観客の眼球という眼球と自分の視線を縫い付けるように歌い上げる大森さんの姿は、何年も前に小さなライヴハウスで目撃した時と何ひとつ変わらず、アコースティックギターを彩るアイボリーのバラやピンクのワンピースの可憐さと相まって、規格外のヒーローの気迫に息をのみました。本当は最新楽曲を紹介しようと思っていたのですが、道重さゆみさんの再生を祝して、こちらのむせ返りそうなほどの愛に満ちたラブレターを。

3. 「雪男イエティ」(’16)/水曜日
のカンパネラ

長年続くアイドルブームで「かつて挫折を経験した男性の代演としてのアイドル」として瞬く間に消費されていく少女たちを目の当たりにする一方で、水カンさんのワンマンでは「コムアイ自身がコムアイのホログラムである」という紛うことなき事実に落涙したものです。夜ごと刷新されるクラブミュージックを貪欲に飲み込んではポップネスに落とし込む胆力、冴え冴えとしたメンタルとフィジカルなステージングの目まぐるしさに、メモを取ることすら忘れてしまいそうになりました。あまりに情報量が多すぎてこちらも何を選ぶべきか迷ったのですが、雪が降る演出と胸が締め付けられた、オリエンタルなムードが匂い立つ「雪男イエティ」をどうぞ!

4. 「反逆のマーチ」(’15)/9mm Pa
rabellum Bullet

先に紹介した3組と異なり、9mm Parabellum Bulletさんのライヴはまったくの未体験で、ライヴレポートのご依頼をいただいた時が正真正銘の初見だったのですが、あんなににぎやかな地獄が存在するとは思いませんでした。惜しみなく放出される外連味もたっぷりのテクニック、初っぱなから残りゲージも本日の演奏時間も無視してフルスロットルで楽器をぶん回すメンバー、地鳴りようなエモーショナルハードコア。高速で回転し続けたあげくに崩落したメリーゴーランドがごとく騒々しい悪夢のようなあの一夜を思い出すだけで笑いと興奮が止まりません。滝さん、ぜひまたもう一度お仕事したいので、じっくりゆっくり治療なさって戻ってきてくださいね。

5. 「Departures」(’96)/globe

まさか自分と小室哲哉さんの人生の汽水域が存在するなんて思いもよらなかったです、本当に。その日はオールナイトイベントだったので12時間近く現場にいたのですが、祭壇のようなシンセサイザーとデスクトップのMacで1時間半も濃密なレイヴ感に満ちたインプロヴィゼーションには肉体の疲労感も吹き飛びそうになりました。不勉強で申し訳ないのですが、幼少時にそれこそいわゆるTKサウンドに浸かりに浸かって、出もしない高音ヴォーカルを真似した世代ですので、氏の果てのない才覚に改めて震えたものです。iTunesにはソロの楽曲ももちろんあるのですが、季節感とノスタルジーと重視し、KEIKOさんの復活を祈って、globeの「Departures」を!

著者:町田ノイズ

OKMusic編集部

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