青嵐吹き抜ける初夏に向かって、気持ちのいいスタートを切る5曲

青嵐吹き抜ける初夏に向かって、気持ちのいいスタートを切る5曲

青嵐吹き抜ける初夏に向かって、
気持ちのいいスタートを切る5曲

花見も行事も叶わない憂鬱な春の再来。一進一退どころか後退してばかりのような日々に苛まれても季節は足を止めてくれず、足元を見下ろせば灰色のアスファルトに桜の赤い骨が転がり、顔を上げれば淀みない蒼天が広がる。マスクもトイレットペーパーも消毒液も見つからず、一人泣き濡れる夜を過ごすばかりだった昨年と比べればそれでもずっと幸せなはずで。今日はきっと昨日よりも、明日はもっと今日よりも大丈夫でありますようにと手を重ね、指を絡めながら、胸の中で鳴らし続ける音楽を。
配信楽曲「ウイスキーが、お好きでしょ」/折坂悠太
「Cheat on Me」収録アルバム『Lulu』/Lou Reed & Metallica
「闖入者」収録EP『WHERE, WHO, WHAT IS PETROLZ??』/中村佳穂
「静かな空」収録アルバム『ひかるゆめ』/穂高亜希子

「ウイスキーが、お好きでしょ」
(’21)/折坂悠太

配信楽曲「ウイスキーが、お好きでしょ」/折坂悠太

配信楽曲「ウイスキーが、お好きでしょ」/折坂悠太

これまで数多のミュージシャンがカバーしてきたサントリーウイスキー角瓶の定番CMソング。知名度の高さから曲そのものとアーティストの記名性のバランスが難しくなるこの曲に挑んだのは、シンガーソングライターの折坂悠太。ムーディーなボサノバ調のアレンジと紫煙のように漂うコーラスワークの中で、煽情的に色付くことなく、平熱を保って抑えられているがために凛としたヴォーカルが際立つ。ガラス越しの夜景に溶け込んでしまいそうな儚い恋を綴った歌詞のささくれが刺さる痛み、テレビやスマートフォンの画面からさらりと耳に馴染む柔らかさ。聴き込むことも聴き流すこともできるポケットサイズの贅沢が2分半に詰まっている。

サントリーウイスキー角瓶
『聞きたかったこと』篇 30秒
角ハイボールCM

「Cheat on Me」(’11)
/Lou Reed & Metallica

「Cheat on Me」収録アルバム『Lulu』/Lou Reed & Metallica

「Cheat on Me」収録アルバム『Lulu』/Lou Reed & Metallica

2011年に発表され、賛否両論を巻きこしたというルー・リードとメタリカのコラボレーションアルバム『Lulu』から。荒凉とした風景のイメージが当てどなく展開される序章で幕を開け、ルー・リードの禅問答を思わせる歌声と雷鳴のごときギターが共振するドラマチックでダイナミックな11分超。メタルの骨太な描線と壮大なスケール感、The Velvet Underground時代の渇き切ったサイケデリアの融合と居合切りの疾風怒濤が目まぐるしく荒れ狂う。異彩と異色の狭間で交わされる濃密で重厚な交信から生まれたキメラのような一曲。

「Cheat On Me」

「闖入者」(’17)/中村佳穂

「闖入者」収録EP『WHERE, WHO, WHAT IS PETROLZ??』/中村佳穂

「闖入者」収録EP『WHERE, WHO, WHAT IS PETROLZ??』/中村佳穂

4組のアーティストによるペトロールズのカバー曲を収録したEP『WHERE, WHO, WHAT IS PETROLZ??』から中村佳穂の「闖入者」を。ともすれば言葉遊びの歌詞の中に紛れてしまいそうな本心をか細いビブラートとファルセットで剥き出しされ、立体的に放出されては伸びる影のごとく加速するコーラスワークで羽を生やして飛び立つ怒涛のカタルシスが凄まじい。含み笑いと空元気にも似た“叫び”のヴォーカリゼーション、雲のように膨れ上がるベースシンセとキーボードの和音のしなやかさ、精妙巧緻であればあるほどネイキッドなまま伝播する“歌”の力がただそこにあるという強さは何にも変えがたい。

「闖入者」 (WWW IS PETROLZ??)
- kawazuo trailer

「静かな空」(’11)/穂高亜希子

「静かな空」収録アルバム『ひかるゆめ』/穂高亜希子

「静かな空」収録アルバム『ひかるゆめ』/穂高亜希子

北海道・室蘭の人々の実話をベースにした映画『モルエラニの霧の中』のエンディングテーマに起用された同曲は、2011年リリースのアルバム『ひかるゆめ』に収録。洗いざらしの真っ赤な傷を想起させる切迫感が揺れる歌声を月のように追いかけて弧を描く二胡、光る粒子を放散させては消えるピアノは、“物悲しい”という思いが辿り着く前にするりと指の隙間を抜けて、自由で孤独な旅に出てしまう。言葉の、詩の一片に心を丸ごと預けて無防備に放つ穂高亜希子という人の歌声に内包されたパンクネスの、ふとした弾みで容易に砕け散ってしまいそうな危うさが、美しく、ぴかぴかのまま結晶されたこの曲は、まるでエンドロールの余韻と余白に沈めるために作られたようだ。

「うえからしたからZZZoo♪」('20)
/ZZZoo

ヤマジカズヒデ、森川誠一郎、田畑満、若林一也、DEN、KAZIからなるスーパーバンド。初期衝動に原点回帰するパンクナンバーひとつにも、個々の小宇宙がぶつかりあって絶え間なく発光し続ける多幸感がたまらない。音の点描や光線で「ここにあるべき音楽を構築」するのではなく、あとはただ名前を付けられることを待つだけの音楽がフィジカルとメンタルから瞬時に掘り起こされては弾け飛ぶ贅沢さ。ステージで遊ぶことにもライヴハウスのフロアーを遊ばせることにも神経が焦げ付きそうな地力と鼻歌交じり浮揚させるユーモアが必要なのだと思い知る強さ。濃度と彩度と深度が千変万化する、子供の悪巧みと大人のロックの集合体。

「うえからしたからZZZoo♪」

TEXT:町田ノイズ

町田ノイズ プロフィール:VV magazine、ねとらぼ、M-ON!MUSIC、T-SITE等に寄稿し、東高円寺U.F.O.CLUB、新宿LOFT、下北沢THREE等に通い、末廣亭の桟敷席でおにぎりを頬張り、ホラー漫画と「パタリロ!」を読む。サイケデリックロック、ノーウェーブが好き。

OKMusic編集部

全ての音楽情報がここに、ファンから評論家まで、誰もが「アーティスト」、「音楽」がもつ可能性を最大限に発信できる音楽情報メディアです。

新着