この原稿がアップされる頃にはSlapp HappyやThe DamnedやTeenage Fanclubが来日しているはずなのですが、おそらく他のライターさんがもう触れていると思うのですっ飛ばします。さて、「願はくは花の下にて春死なんそのきさらぎの望月のころ」と詠んだのは西行法師ですが、ご案内の通り、この場合の“春”は旧暦の2月、すなわち新暦の2月下旬から4月上旬を指します。メールの返信すませるだけで日が暮れた、請求書出してない、確定申告終わらない、支払い調書届かない、オレ税金嫌イ還付金好キ。そういったよしなしごとに急かされるように掛け布団を蹴飛ばさなければいけない時分ですが、どうか皆様は決算に追われながら今からご紹介する5曲を聴いてください。何がプレミアムフライデーだ。

1.「東京寒い」(’15)/坂本真綾 コ
ーネリアス

小沢健二の本格的な復活劇の反響の大きさに“渋谷系”というシーンが今も形を変えて脈動している事実に驚愕しつつ、かつてフリッパーズ・ギターでともに活動していたコーネリアスと坂本真綾のコラボ作「あなたを保つもの」のカップリング曲を。坂本慎太郎が手がけた歌詞の押韻の心地良さ、“東京”という街のうつろな賑やかさを諦観とも悟りともとれる平熱の温度で描写する歌、球体の電子音が緩慢に飛び交うようなトラックは、寒暖差の激しい今の季節こそ聴きたくなります。余談ですが、昨年急逝されたライターの大塚幸代さんに小沢健二の新曲を評してほしかったなあ。

2.「雨模様です」(’16)/クウチュウ

青田買い枠と紹介しようにも3〜4年前からすでにあらゆる媒体で賞賛され尽くしてしまっているし、“プログレッシブロックの超絶技巧に歌謡曲の歌心を交合させたバンドです”という紹介文ももはや手垢が付いて埃をかぶっているのですが。それにしても、デジタルネイティブ世代以降特有のクレバーさや遊び心を包み隠さず曝け出すハイブリッド感、クールさやふてぶてしさもひっくるめてキュートに感じられるキャラクター性もさることながら、“ネオソウルの潮流から外れたシティポップ”を求める層への訴求力も抜きん出たポップネスがあふれるこの曲を前にすると、いろいろ放棄して眠りこけてしまいたくなります。

「おやすみ よそもの」(’90)/BARB
EE BOYS

椿鬼奴とレイザーラモンRGによるバディ芸効果なのか、若いリスナーにも人気の高いBARBEE BOYSの6thアルバム『eeney meeney barbee moe』より、終幕を飾るマイナーコードのバラードを。杏子とKONTAのつばぜり合いがごとく挑発的でソウルフルなデュオ、ギラギラと放出されるテクニックが縦のビートに収斂されていくスポーティーな演奏が印象的ですが、シンプルなアコギのリフにベースシンセ、時折亡霊のようにゆらりと立ち寄るエレキギターの音の中で交わされるモノローグ同士の会話のような歌声に目を閉じて体ごと委ねて聴き入った挙げ句にそのまま寝入ってしまいそうな、こんな曲もあるのです。

4.「SAD VACATION」(’96)/Johnny
Thunders

中性的なビジュアルと破滅的な経歴でパンクロックの系譜に燦然と輝く、元NEWYORK DOLLSのジョニー・サンダースが生み出した名曲です。歌詞中の《flower of romance》《Belsen was a gas》というワードからシド・ヴィシャスに捧げた歌と言われていますが、ジョニーは本当にしかたのない人で、ライヴ盤ではヘナヘナのチューニングのギターと管を巻くような声で歌い上げたりもしています。それでも破綻することなく“ジョニーだから”と許容され、ディレイで加工されたヴォーカルが逆に生々しく突き刺さって涙してしまうのは、彼ならではの愛嬌ゆえでしょうか。今回はキュートなウィスパーヴォイスと怠惰にたゆたうアコギの音色と、申し訳程度に鳴り響くエレキの音が意識をまっさらにしてくれる『Hurt me』収録バージョンを。

5.「DREAM BABY DREAM」(’99)/SUI
CIDE

なぜ眠れない日に羊を数えるのか? それは簡単な入力作業ばかり繰り返していると居眠りしてしまうのと同じです。要は反復運動です。行為そのものから刺激が消失して麻痺してしまうのを待つのです。これはそんな理屈を立証するのに最適の一曲で、規則正しく星の瞬きのように響く鉄琴の音と、段々と人の声ともシンセともつかなくなっていく和音のカーテンと、アラン・ヴェガが終止熱っぽく呟く《dream baby dream》のリフレイン。これだけ揃うとどれほどスケジュールが差し迫っていてもまんまと寝てしまうので、なかなか寝付けないという方はSUICIDEの2枚組アルバムを買ってください。

著者:町田ノイズ

OKMusic編集部

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