堤 有加

堤 有加

【堤 有加 インタビュー】
自分の音楽人生を
ちゃんとかたちにしたい

どの曲も私の曲と分かるような
インストアルバムを残したかった

話を「misora」に戻しますが、この曲はメロディーを奏でているアコーディオンとハーモニカの中間のような音も絶妙です。

これは鍵盤ハーモニカです。鍵盤ハーモニカも鍵盤楽器ではありますけど、ちょっと別物なんですよね。キーボードは鍵盤を叩けば鳴るので、だからこそ感情を込めるのがちょっと難しかったりしますけど、変な話めっちゃ眠くても弾けるんですよ(笑)。なので、私はサックスとか歌といった息遣いを活かせるものにすごく憧れがあるんです。それで、20歳くらいから密かに練習していたのが鍵盤ハーモニカでした。鍵盤ハーモニカは全然違う感情が乗るし、一本の旋律にこれだけ想いを込められるというのはピアノにはない感覚というか。ピアノは基本的に5個も6個も一気に弾く楽器なので、鍵盤ハーモニカの一音に入魂するみたいな感じにはすごく惹かれる。それで、この曲は鍵盤ハーモニカを使いました。

他にもファンキーな「Serval」や、“夜感”を湛えたアダルトな雰囲気の「mimosa」なども聴き逃せません。

「Serval」は博物館のサーバルキャットのはく製を見て作った曲です(笑)。カッコ良いけど、可愛いらしさもある動物っているじゃないですか。ライオンだとか、虎とか、豹がいる中で、なぜかサーバルキャットに惹かれたんです。ちょっと勉強して、サバンナを走っているサーバルキャットをイメージして、ファンキーな曲が書けそうだと思って作りました。

猫からファンクにいくというのが、ちょっと不思議なのですが…。

そうですか? サーバルキャットは癒し系ではなくて、動きが素早くて、わりと気性も荒いんですよ。それを曲にするとちょっと激しめな感じだというところで、ファンクにいきました。

個人的なイメージですが、ライオンや虎などというとハードロック系にいくような気がするんですよね。

確かにハードロックもありですね。でも、サーバルキャットが走っている姿は弾力感があって、私の中ではファンクにつながりました。あと、ちょうどその時期にライヴで初めての人と私のオリジナルを演奏する機会があって、ちょっと小難しい曲だったり、大作が多かったので、当日のリハーサルでは消化しきれなかったんです。それで、もっとセッション曲……Em一発で、ソロを回すような曲が欲しくて「Serval」を作ったというのもありました。

確かに「Serval」の間奏はベースソロ、オルガンソロ、サックスソロという構成になっていますね。

そうです、そうです。どこで誰がソロをとってもいいし、メロディーもキャッチーで覚えやすい。いわゆるセッション曲ですよね。

「Serval」は出だしのベースリフから超絶的にカッコ良いですが、あのリフも堤さんが考えられたのでしょうか?

はい、一応。いつもベーシストには“もっとカッコ良くしていいよ”と言っていますけど(笑)。

やりますね。リズムアプローチなども自身で考えるタイプでしょうか?

考えます。それでビートパターンとか、“ここからハーフビートで”とか、“ここはこういうキメで”といったことを伝えて。私はアレンジャーは立てていなくて、ほぼ出来上がるところまで自分で作るんです。この曲はホーンを入れるとか、バイオリンを入れるいったことも全部自分で決めています。サウンド面に関しては篠田元一さんというキーボーディスト/作曲家の方にレコーディングに立ち会っていただいて、細かいところのアドバイスをいただきました。私の中からは出てこない第三者の意見も欲しくて、ずっと憧れていた篠田さんにお願いしたんです。私は楽曲に思い入れがありすぎるから分からなくなっちゃうところもあるんですよね。そういう意味で、篠田さんの最後の磨きかけはすごく大きかったと思います。

アレンジャーに丸投げしたりするのではなく、堤さんの美学やこだわりが反映されているというのはリスナーにとって嬉しいことです。「mimosa」についても話していただけますか。

これはカクテルのミモザをイメージして作りました。お花のミモザではなくて、カクテルの。この曲を作ったのは23歳くらいの時で…。

23歳! おしゃまさんですね。

おしゃまさんです、今考えると本当に(笑)。カクテルを飲んでいる大人の女性に憧れるみたいな(笑)。そういうイメージで作ったら、すごくディープな曲になりました。

70年代初頭の音楽に通じる匂いもあって、“おおっ!”と思いました。

そういう音楽も大好きなんです。私は昔から年齢に関係なく、“あっ、いいな”と思えばなんでも聴くタイプで、逆に言えばカッコ良いと思って聴いていて、気づいたら古くからある音楽だったということが結構あるんです。高校生くらいの頃は図書館の視聴覚室のCDをずっと漁っていました。なので、「mimosa」のテイストは、たまたま自分のライブラリーにあったという感じですね。

『RADIATION』は子供の頃に影響を受けたものも反映されているんですね。続いて、演奏面について話しましょう。本作を録るにあたって、プレイヤーとしてこだわったことや大事にされたことは?

どの曲も私の曲と分かるようなインストアルバムを残したいというのはありましたね。

いろいろな楽器を演奏されていますが、アルバムを通して堤さんの個性が出ていることは感じました。ひとつは特にピアノがそうですが、音色に柔らかみがあることが特色になっています。

それはさっき話した“メロを歌う”みたいなところから来ているんじゃないかと思います。うるさいと感じるのは、めっちゃ弾きすぎていることが多いんですよね。私はずっと歌っているから弾きすぎにならずに、いいところにまとまっている気がする。ちょっと外れた音とか、突拍子もないオカズとかも歌っていれば楽曲に溶け込むし。柔らかみがあるのは、それが理由だと思います。

OKMusic編集部

全ての音楽情報がここに、ファンから評論家まで、誰もが「アーティスト」、「音楽」がもつ可能性を最大限に発信できる音楽情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着