もがくひと

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【もがくひと インタビュー】
どんなに苦しくても
明日を見て歩いて行かなきゃ

激しくエモーショナルなヴォーカリゼーションと場所を選ばないライヴパフォーマンスが一部で話題を呼んでいるアーティスト、もがくひと。彼が5年をかけて完成させたという1stアルバム『ハイイロデイズ』について訊いた。

アルバム『ハイイロデイズ』を聴かせてもらいましたが、歌、ラップ、ポエトリーリーディングとヴォーカルのスタイルが多彩ですよね。

最初はラップをやりたいと思って活動していて、ヒップホップのルーツや文化を勉強したんですけど、そこで僕が興味を持ったのは、ヒップホップは抑圧された黒人たちが自己表現することで少しでも認めてもらおうとする文化だということだったんです。それがずっと頭にあったので、自分が言いたい言葉であったり、自分の現状や描いている未来であったり、そういうものを曲にしていこうという意識が芽生えて。“僕ができることは何だろう?”と考えた時に、ラップで目立つんじゃなくて、自分が言いたい言葉、言いたい世界で目立とうと思ったんです。あと、ライヴではバーカウンターで溜まっているような、自分のヒップホップに全然興味がない人たちにどうすれば観てもらえるんだろうとも考えて、ステージパフォーマンスの形態が変わっていって、今のもがくひとの形態ができた感じなんです。

サウンドも多岐に渡っていて簡単にジャンル分けできないと言いますか、もがくひとと同じような音楽は、ちょっと他には思い浮かばない感じです。

僕が思い描いている世界というのは、現実なのか非現実なのか分からない世界で、そこに自分の立ち位置があって、感覚的な話しかできないんですよ。これを説明すると、みんな“え!?”となっちゃうんですけど、僕は目の前で見ている光景が本当なのか夢の中なのか理解できてないし、自分が生きている世界が現実なのか非現実なのかって誰が分かるんだろうって思ってて。例えば、僕という存在は誰かの夢の中の登場人物かもしれないし、自分が夢だと思っている景色が実は現実かもしれないし、何が本当なのかは自分の中では分からないんですよ。だからこそ、自分の目で見たもの、自分の頭で考えたこと、見ている景色が全てだという想いが僕の中にあって。曲に込めたメッセージとしては、ちゃんと目で見えている光景、肌で感じている風、鼻で感じている匂い…そういった感覚を大事にしてほしいということがあるんです。どういう楽器が必要かとか、どういう音を使えばヒップホップになるかとかは関係なくて、あくまでも自分が感覚的に“あっ、この音、好きだな”とか、“このストーリーならこの音が合うだろう”とかで、音の形態としてはジャンルにこだわったことは一度もないです。

だからなのか、楽器だけでなく、街の雑踏や波の音、時計の音なども取り入れてますよね。

うちの親父がすごくThe Beatlesを好きで家でよく流していたんですけど、団地に住んでいたんで、周りから雑音もすごく入ってくるんですよ(笑)。だから、僕の中での音楽って、いろんな環境音が入っている中で鳴っている印象があって。学校の放課後、誰かがピアノを弾いている時って部活の音が聴こえてくるじゃないですか。それがたまらなく好きなんです(笑)。そんな似たような感覚を持っている人ってどこかにひとりはいると思っているので、“僕はこういうのが好きなんだよ”っていう意思表示になっていますね。僕の中で音というのはキャンバスでの絵具みたいなもので。絵具ってものすごい種類があるじゃないですか。ギターの音色、ピアノ、ベース、ドラムスの音色だけで割り切れないものって絶対にあって、時計の秒針の音も街の雑踏も波の音も、僕の中では音楽のひとつ、キャンバスの絵具のひとつで。例えば「ハジマリ」のドラムは夜中の公園で一斗缶をバンバン叩いた音をフィールドマイクで録って、それをキックとスネアにしているんです(笑)。あと、父が亡くなった時に作った曲もあって。それが2年前くらいだったんですけど、その時に出てきた言葉と音をまとめたものなんです。

M7「hands」には《生きて生きて生きて生きて》、そしてM14「命の花」には《重ねた思いを胸に抱いて 命の花を咲かそう》という歌詞があって、アルバム『ハイイロデイズ』には“生命”というキーワードが色濃く出ていると思うんですが、これは今言われたお父さんが亡くなったことと関係していますか?

「hands」は父が亡くなったその日にできた曲なんです。親父にその曲を聴いて何とか生き延びてほしいという気持ちで作ってたんですけど、ちょうどこの曲が完成した時に危篤になって。その曲を持って病院へ行って、間に合わなかったんですけど、枕元で聴かせて…。『ハイイロデイズ』を作るにあたって一番考えたのは、“じゃあ、自分はこれからどうしていこう?”ということだったんです。自分自身、“いつ死んでもいいや”って活動してきて、“明日のことなんかどうでもいい”って思ってたんですけど、親父が死んだり、他にも親しい人が亡くなられたり、あと東日本大震災の時もボランティアに行ったりして、いなくなった人たちの魂の重みが自分自身の肩にどんどんのしかかってきたというか。僕たちが見ているものは、他の人たちが見られなかった光景である可能性があるじゃないですか。だから、僕は“どうやって生きていこう?”と考えたし、“あの人たちが見られなかった景色を俺が見なくちゃいけないんだ”とも思ったんですね。『ハイイロデイズ』は「命の花」で終わってますけど、あそこで一度、旅が終わって、そのあとでまた新しい旅が続いていく…僕は人生って長い旅だと思っているので、その道半ばにして得た答えというか、“どんなに苦しくても明日を見て歩いていかなきゃ”という気持ちで作ったアルバムなんです。

『ハイイロデイズ』はM7「hands」まではふわふわしているというか、サウンドの不穏さを含めて主人公が彷徨っているような感じがありますが、そこから力強く展開していきますもんね。

二部構成になっていて。夢なのか現実なのか分からない導入から始まって、ずっと悪夢のような世界を彷徨っているんです。自分が生きるか死ぬか…極端なことを言えば、自分の死に場所を探しているような感じで。それが「hands」で一旦現実に引き戻されるんです。引き戻された上で、自分が失くしたものをどんどんと求めながら灰色の街を彷徨っている過程が描かれて、最終的に自分が物語を書いていくと決めて、最後はM14「命の花」で帰結するんです。

M11「だから僕は、これからも物語を書く」で文字通りの決意を示して、ストーリー性のあるM12「傷だらけの、球体。」とM13「toys」を経て、M14「命の花」に辿り着くという流れるような構成ですね。今その説明を聞いて、実に良よくできたアルバムであることを実感しましたよ。

ははは。まぁ、5年という時間をかけた分、こういうことができましたよね。プロのレコーディングスタジオでやったわけではないですし、自分の技術、スキルも売れているアーティストさんたちには適わない部分もあるんですけど、自分が見ているもの、自分が言いたいことに関しては、誰にも絶対に負けていないつもりで作ったのでグッと刺さるようなアルバムにはなっていると思います。

取材:帆苅智之

アルバム『ハイイロデイズ』2018年4月18日発売 RockFord Records
    • SMEG-3
    • ¥2,500(税込)
もがくひと プロフィール

もがくひと:2003年より活動を開始。首都圏のクラブやライヴハウスを中心に活動を行なう。感傷的なトラックに乗せたエモーショナルなラップとポエトリーリーディング、そして地べたを這い回るような激しいステージアクトは、一度観たら忘れられないほどの強烈なインパクトを残す。18年4月18日に1stアルバム『ハイイロデイズ』を発表。もがくひと オフィシャルHP

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アルバム『ハイイロデイズ』

『ハイイロデイズ』トレーラー映像

OKMusic編集部

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