【ENTHRALLS】ひと皮剥けたいという
想いが可能性を広げた多彩な曲の数々
劇場型ピアノロックバンドENTHRALLSが満を持して1stフルアルバム『TEXTURE, MOISTURE』をリリースする。ただポップなだけではない、深い世界観を持つ楽曲は、これまでよりもさらに多くの人にアピールできるものに進化を遂げている。バンドはここから飛躍を目指す!
取材:山口智男
曲そのものはJ-POPのシーンでも勝負できるポップなものながら、その聴かせ方というか、バンドの演奏はエキセントリックだったりマニアックだったりしているところがユニークで、ENTHRALLSの楽曲をただポップなだけではない、より深いものにしていると思いました。
中井
マニアックなところからポップに寄せていっているという発想なんですよ。
青木
井上さんはJ-POPや歌謡曲をずっと聴いていたんですけど、中井くんと僕は洋楽ばかり聴いていたから、井上さんが持ってきた曲に僕らが聴いてきた洋楽の影響をぶつけた感じなんです
井上
でも、今回は私たちがリリースしてきた作品の中でも、一番キャッチーというか、ポップというか、そういう感じかなと思っています。
エキセントリックあるいはマニアックな魅力を残しながら、アダルトオリエンテッドな魅力もアピールしているという印象でしたが、今回、キャッチーでポップな作品を作るというテーマがあったのですか?
井上
もともとノスタルジックな感じが好きで、歌詞も暗くなりがちなんですけど、前作の『ねむれない夜に』で暗いゾーンは終わりにしようと。だから、前作はセンチメンタルにやりたいようにやって、次からは明るくなる!と決めていました。ひと皮剥けたいという気持ちもあって。もちろん、そこまで計算しながら曲を作ったわけではないんですけど、言葉は明るい方向に向いていったと思います。「あたらしい女の子」という、これまでなかったリスナーを元気付けるような曲もあるんです。
中井
幅広い人に聴いてほしいアルバムになったと思います。
青木
これまでは女の子目線の感情的かつ心情的な歌詞が多かったと思うんですけど、今回初めて、最初に聴いた時に“あれ? 僕のことかな?”かなと思える曲があって、“これはいい曲にしなきゃ”って思いました(笑)。
青木
これまでは尖ってたのかな。とりあえず奇をてらうと言うか、“この曲をどうぶっ壊してやろうか”ってところがあったんですけど、作品の枚数を重ねながら引き算を覚えていって、今回はそこで自分らしさを出すことに挑戦したところはあると思います。なるべく気持ち悪い音を入れないように、でも、耳にひっかかるところは残すという。それでだいぶポップになったと思います。
青木さんが“自分のことかな”と思った曲というのは?
井上
情景が今までよりもイメージしやすくなったと思うんですよ。
他の曲も、不器用だけど精いっぱい生きている主人公がどんな暮らしをしているのか浮かぶような歌詞が多いですよね。
井上
今までだったら絶対使わなかった言葉…例えば“スマホ”とか“終電”とかも使うしかないと思って使いました。今までは使いたくなかったんですよ。でも、伝えるためには使うしかないなって。歌詞は曲を作る時、イメージしている映像から膨らませていくんです。これまでは抽象的な歌詞が多かったんですけど、自分が見ている映像は聴いている人にも見えたほうがいいのかなと思ったんです。前作の歌詞のある部分を指して、“ここって、どういう映像だと思う?”って聞いたら、尋ねた人それぞれに違う答えが返ってきて…それはそれで構わないんですけど、でも、分かってほしいところは分かりやすくしたほうがいいのかな。全部は分からなくてもいいんですけど、ここは分かる!というところを頑張って作らないとなって今回は思ったんです。
ところで、「きょうは休みます」という90年代のFMラジオで流れていそうなポップソングもあれば、「センセーショナル」のようなバンドの演奏が大暴れしている曲から、「レプリカ」のようにいかにもDTMで作ったようないわゆるトラックっぽい曲もあって、楽曲はかなりバラエティーに富んでいますよね。
しかも、ピアノバラードなのかなと思ってたら、バンドの演奏が加わって、終いにはホーンも鳴り始める「誓いのとき」をはじめ、どの曲もアレンジはそれぞれに趣向を凝らしたものになっているし。
井上
「誓いのとき」は弾き語りで持っていった曲なんです。その時はもっとシンプルで、こんなにサビで広がる曲ではなかったんですけど、ホーンが入って広がりが出ましたね。大人っぽい演奏が苦手なせいか、バラードがお蔵入りしちゃうことが多いんですよ。だから、「誓いのとき」は入れられて良かったです。
ジャズ・ファンク調の「マジックアワー」も結構大人っぽい魅力がありますよ。今回、キャッチーでポップな作品になると同時に、楽曲や演奏の幅も広がったという実感もあるのではないでしょうか?
井上
今までできなかったことができるようになったという手応えはありますね。
中井
“これもやっていいんだ! それもいいんだ!”って。
それがミュージシャンとして独りよがりなものにならずに、リスナーにとってより共感できるものになったというところは、今回の大きな収穫かもしれませんね。
井上
曲作りもレコーディングも本当に楽しみながらできたんですけど、自分たちの可能性は広がったと感じていて、このアルバムをきっかけにこれからもっと自由になれるんじゃないかなって。そんな飛躍の作品になればいいと思っているんです。
新作を多くの人に届けるためにリリース後はライヴも精力的にやっていくのでしょうか?
井上
はい。年内は私のソロやアコースティック編成で、インストアライヴを中心にいろいろなところに出かけていって、できるだけ多くの人に曲を聴いてもらおうと考えています。ちゃんとしたツアーは来年からで、長期間のツアーになりますが、そちらはサポートドラマーを迎えて、音源にできるだけ近いかたちで新曲を披露したいと考えています。
- 『TEXTURE, MOISTURE』
- ELEN-1005
- 2016.11.02
- 2500円
エンソロールズ:2013年5月に結成されたピアノロックバンド。結成直後の5月に1stミニアルバム『PASSAGE』をリリース。『FUJI ROCK FESTIVAL’13』『SUMMER SONIC 2013』に新人枠で出演を果たすなど注目を集める。16年1月に自身初となるワンマンライヴを東名阪で開催し、11月には1stフルアルバム『TEXTURE,MOISTURE』をリリースする。ENTHRALLS オフィシャルHP