L→R 三輪幸宏(Dr)、森 彩乃(Vo&Key)、内田旭彦(Ba&Cho&Programming)

L→R 三輪幸宏(Dr)、森 彩乃(Vo&Key)、内田旭彦(Ba&Cho&Programming)

【Qaijff】僕らにしか描けない景色が
絶対にある

前作『クアイフ』から1年3カ月振りのリリースとなるミニアルバム『organism』は“生命”をテーマにさまざまな物語りを描いた一枚。また、前作から今作までの期間による、サウンド面での変化も大きいと言える。
取材:高良美咲

本誌初登場のため、まずは結成のきっかけについて教えてください。

もともと私はギターヴォーカルで初めてバンドを組んだのですが、そのバンドが解散してからはシンガーソングライターとしてピアノの弾き語りで活動していたんです。そのバックバンドで内田にベースを弾いてもらったのがきっかけで、内田から“バンドを組まないか”と誘われました。内田とドラムの三輪が当時一緒に組んでいたギターロックのバンドの解散が決まっていたため、内田が三輪を連れてきて今の3人が揃いました。
内田
バックバンドで弾いている時から森の才能を感じていて。ドラムの三輪も長年一緒にバンドをやっているのですが、彼のドラムが純粋に好きだったので、この3人なら面白いことができるんじゃないかと思って誘いました。

結成からはどのような活動をしようと?

それぞれバンドの解散などを経験してきたので、このバンドは結成当初から計画性をしっかり持って活動していこうと。結成半年で初企画スリーマン、1年で初ワンマン、その後6カ月連続企画、CDの全国リリース、名古屋CLUB QUATTROでワンマンなど…その都度、目標や計画を立ててそこに向かってやってきました。あと、もともとメンバーそれぞれ好きな音楽のジャンルがさまざまで、例えば三輪はハードロック、メタル出身だったりするから、それぞれの持ち味、個性を活かそうと。最初は今よりもみんな好き放題やっていました(笑)。それを面白がってくれる人もいましたが、当然賛否両論ありました。今は何より歌の大切さ、歌が届く演奏を大前提に考えていて、その上で好き放題やろうと(笑)。
内田
プレイで面白いことをやるというのは、あくまで歌や曲の景色に対しての手段にすぎないというか。その辺りの、曲の設計図への理解度の高さと共通意識が結成当初と大きく違う部分だと思います。聴いている人に感動を与えるためには、最終的に僕らの場合は“歌”なので。
三輪
結成当初よりもドラムのプレイが落ち着いたねとか、こぢんまりしたねとか、ごく稀に言われることもあるのですが、あくまで曲に対しての意識や考え方が変わった結果なので、バンドとしてはとてもいい方向に進んでいると感じています。

そんな中、2014年3月に前作アルバム『クアイフ』をリリースしましたが、リスナーからの反響や、ライヴを行なってみてどのような手応えを感じましたか?

初のアルバム全国リリースだったので、行ったことのない土地の人がCDを買ってくれていたり、私たちのことを知ってくれているということが、すごく嬉しく思いました。でも、まだまだスタート地点に立ったにすぎないなと。
内田
良い意味でも悪い意味でも、バンドの“勢い”“初期衝動”を大切にした一枚でした。当時の僕らにとってのベストを尽くしたし大切な一枚であることは変わらないですが、それを経て、今、自分たちの本当に鳴らしたい音楽や、“何で音楽をやっているんだろう?”という精神的な部分を、より明確に自覚することができたと思っています。そんな自分たちの指針になるような曲たちが、今作ではしっかりパッケージングできました。
内田
前作の制作の時はピアノ、ベース、ドラムの3つの楽器でどれだけ表現ができるのか?という部分にこだわっていましたね。だから、逆に言うと曲作りの段階で頭の中でストリングスなどの同期音が鳴っていても、その音を排除してなんとかこの3パートで再現しようとしていました。ただ、活動をしていく中でいろいろ感じることがあって、僕らがこだわっているのは“3つの楽器”ではなくて、“この3人”で作り出すことなんだなと気付きました。そういう意味で、サウンド面では今回初めてストリングスやシンセ音などの同期を取り入れています。ですが、実は新しい挑戦という意識はあまりなくて、“自分たちのイメージにより素直になった”という感覚です。

そして、1年3カ月振りのリリースとなる『organism』ですが、収録されている6曲は他にも楽曲がある中での選曲ですか?

前回のリリースから1年3カ月も空いてしまったので、その間、新曲がものすごくたくさんできていたんです。だから、6曲に絞るのは大変でした。
内田
“生命”をテーマにしているアルバムなのですが、たくさんある候補曲の中で曲を絞り込んでいき、結果的に決定した曲目を改めて見返したら、全曲根本的には同じことを伝えようとしているんだなという感じでした。なので、制作から選曲まであくまでもフラットな気持ちで取り組んでいる中で、純粋に僕らが“今、これを聴いてほしい!”っていう6曲が集まった作品ですね。

テーマが“生命”ということで、1曲目を飾るタイトル曲の「organism」では誕生を描いていますね。

正確に言うと、母親のお腹の中から物語がスタートします。お腹の中にいる頃の記憶ってないじゃないですか。今の自分から生まれる前の自分に向けて、そしてこれから生まれてくる命、すでに今この世界で生きている全ての人に向かって歌っています。
内田
この曲もそうだし、このアルバム通してのメッセージでもあるけれど、人間も、他の生物も、星も、誕生していつかは消えるじゃないですか。僕らの未来において確実なことって“いつか消える”ことだけ。だから、僕らの命は“決して幸せな道のりではない”という大前提があるんです。でも、全然ネガティブな気持ちではなく、だからこそ僕らは少しでも楽しいことや幸せなことを増やしていくことが大切なんだと。もともとマイナスから始まっている気持ちが、実は人生においてはすごく前向きというか。
曲の最後が《世界を裏切ってゆく》という歌詞なのですが、大前提で歪んでいるこの悲しい世界を裏切って、立ち向かって、それをどれだけの喜びに変換していけるか…っていうのが、この曲で一番伝えたいことです。リード曲にしたのは、それが今バンドにとってもっとも伝えたいメッセージだったし、そのストーリーが上手く表現できた曲だったので。

続く「hello world」では出会いを描いていて、世界を悲観しているようで希望がありますね。

「organism」が生まれる前、生命の誕生を歌っているならば、「hello world」はその後。この世界に生まれて、世界の美しさも醜さも知って、それでも生きていくっていう。決して後ろ向きではないんです。“光を見つけるのは自分だよ”っていう前向きです。ちなみに、「organism」にもこの曲にも出てくる“あなた”っていうのは自分を産んでくれた母親のことです。
内田
「organism」もそうだし、この「hello world」もアンサンブルが少し複雑なんですが、“闇から光へ”っていう部分を表現したく、結果的にそうなったという感じで。その辺りの音の絡み合いによる描写も、ぜひ注目して聴いてほしいです。

晴れない気持ちを吐き出すようなミドルテンポの「after rain」は、どのような気持ちから書かれた曲ですか?

内田
サビの《私がどんなに泣いたって 伝わらないメロディ》というフレーズを最初に思い付いて、これを森が歌ったらすごくいいだろうなって思って、そこからどんどんストーリーを作っていった感じです。“伝わらないメロディ”が存在することを認めている歌詞を歌うのはバンドマンとしてどうなんだろうかと少し思ったのですが、“伝わらないメロディ”があるから“伝わるメロディ”を歌おうと思えるんだよなって。それは「organism」で伝えたい“光と闇”の関係とも同様の関係だと思っているので、今回のアルバムの中では少し異質な曲ですが、根本的な部分は変わっていないと思っています。
森:この曲は作詞も含め内田がほとんど作っているんですが、その曲を自分がいざヴォーカルとして歌うにあたって、自分のものにする必要があるわけじゃないですか。《雨のち晴れの天気予報は こんな日に限って当たるもんだな》っていう部分は私が作ったんですが、この曲を聴いた時に、雨上がりの晴れた空に自分の心が取り残されるような感覚…ありませんか? それで、“after rain”というタイトルを付けました。

「lost world」は今作を締め括る壮大な楽曲で、力強い言葉、それを引き立てるメロディアスなサウンドが印象的でした。

内田
この曲は作曲からアレンジまでほとんど森が作ったのですが、最初にデモを持ってきた段階からほとんど変わっていません。もともとのアレンジがすごく良かったので、曲の持つ壮大さを活かすための音作りに一番試行錯誤しましたね。
アルバム最後の曲なんですが、最後の歌詞が《探しものはなんだった?》で終わるんです。“疑問系で終って解決しないのかよ”って。でも、そこが気に入っています(笑)。答えを言い切ってしまうことはできるけど、まだ答えを出したくないし出せないなって。

他にも「meaning of me」「along the coast」まで、今作の中には“誕生(産まれる、産声)”や“生きる”というワードが散りばめられていますね。

「meaning of me」「along the coast」は、「organism」や「hello world」の世界観に比べたらパーソナルではあるんですが、大前提にあるテーマ、“生命”“生きる”というのは変わらないです。コンセプトアルバムではないのですが、今考えていること、言いたいことは変わらなくて、それをいろいろな角度から切り取っているだけだなと思います。
内田
森の書いた「meaning of me」のラスサビの《なんのために生きてるとか 本当はどうでもいいのかもなぁ》っていう歌詞が気に入っています。悩んで悩んで辿り着いた答えが“どうでもいいのかもなぁ”って、逆に勇気のいる終着点だなって思ってます。

サウンド面で挑戦したことはどういったことでしたか?

内田
同期の導入、あとは1曲の分数もかなり意識して曲作りをしました。今まで1曲が長くなることが多かったのですが、ポップミュージックとして曲の長さっていうのも大切な要素だし、限られた時間の中でどれだけいい景色を作れるかっていう美学も、人生ともリンクしてるなと思って。
三輪
今回初めてドラムテックを付けてレコーディングを行なったのですが、爆発力のあるロックな音だったり、Qaijffらしい音だったり、曲によってはヒップホップサウンドに近いベシャッとした音だったり、今まで自分の頭の中のイメージだけで終わっていて到底実現できなかったであろう音作りをすることができました。

すごく統一感のあるアルバムですが、どのような一枚になったと思いますか?

コンセプトアルバムというわけではないのですが、アルバムを通して“生命、生きるということ”をテーマにしており、ミニアルバム6曲でストーリー性を持たせることができたかなと思っています。
内田
僕らにしか描けない景色が絶対にあると思っているし、そんな曲を6曲選びました。僕らのことを少しでも気になったら、ぜひ今回のアルバムを聴いてほしいです。

リリース後にはツアーを行ないますが、どのようなツアーにしたいですか?

CDは、バンドや、バンドをやっている人間の生き様を切り取ってパッケージしたものだと思っているんですが、切り取った“瞬間”でしかないんです。CDにパッケージした時点でもちろん完成形であるのは確かですが、ライヴは生もの。ライヴで曲たちが育っていくものだと思っているので、ライヴでぜひ体感してほしいです。
内田
7月中に15本以上ライヴをしますが、どれも二度とない1日だし、そう感じてもらえるようなライヴを各地でしようと思っているので、ぜひ遊びに来てください! 一緒に回ってくれる仲間も最高なので、ぜひ一緒にいい夜を作りましょう。
『organism』
    • 『organism』
    • KIRS-1001
    • 2015.06.03
    • 1800円
Qaijff プロフィール

クアイフ:2012年結成。14年3月にフルアルバム『クアイフ』をリリースして開催したツアーのファイナルの名古屋CLUB QUATTRO公演がソールドアウトとなった他、数々の大型イベントにも出演を果たす。さらに、リリースした作品がそれぞれオリコンインディーズウィークリーチャート上位にランクインするなど注目を集める。16年4月には初のタイアップ楽曲2曲を収録した2ndミニアルバム『Life is Wonderful』をリリースし、ツアーの東名ワンマンはソールドアウト。着実にその輪を広げる中、1st EP『snow traveler』を12月7日にリリース。 QaijffオフィシャルHP

OKMusic編集部

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