【愛はズボーン インタビュー】
4枚目は“自分の中で認められる
一番いい駄作”にしたいと思った
美味しいものをいっぱい食べて、
また明日も頑張ろう!
インダストリアルな世界でいながら中間でダンサブルかつドリーミィーな世界に移行する「ヘルステロイド」も“おおっ!”と思いました。
あの展開はあり得ないですよね(笑)。僕とベースの白井はThe Chemical BrothersとかUnderworldが好きなんです。ビッグビートやブレークビーツといったものを使っている90年代後半とか00年代前半の音楽が好きで、それをバンドに落とし込んでみようということになったんです。展開に関しては、まったく違った2曲を混ぜて1曲にするくらいの勢いで混ぜた気がしますね。
パッと場面が切り替わるのではなく、スゥーッと変わっていくのがすごく心地良いです。
テクノ系のアルバムは曲の後半と次曲の頭をクロスさせて、シームレスに曲が変わっていったりするじゃないですか。あの気持ち良さってキーは変わっていないけど、Bメジャーの曲からBmに変わったりしていることで生まれるんですよね。そういう音楽を聴いているからそれが可能なことが分かっていて、愛はズボーンはテクノバンドではなくてロックバンドだけど、やってみました。あとは、この曲の歌詞は“ケミカル”に全振りです。魔法な世界というよりはステロイドという化学薬品を自分にぶち込んで、ひとりでトップを走り続けるしんどい人間というのを描いています。この曲はGIMAちゃんが歌っていて、GIMA☆KENTAという人間が常にGIMA☆KENTAのまま走るというのはどれだけしんどいかを想像しながら、GIMAちゃんと一緒に歌詞を書きました。
この曲も自分たちのことを歌っていながら普遍的な歌詞になっていますね。そして、EDMテイストをフィーチュアした「笑う光」も、アルバムのいいアクセントになっています。
これは僕がひとりで作った曲です。だから、作り方としては「ひっかきまわす」の真逆ですね。バンドが原点回帰したきっかけは僕がDTMで曲を作ることで見失ったものがあったからですけど、DTMを活かすことでできることが増えたという側面もあるんです。テクノだったり、アシッドハウス的な曲を作れるようになったのもそのひとつで、それを自分のバンドに落とし込まない手はないと思って、ちょっと挑戦してみたのが「笑う光」です。歌詞に関しては、《食う為に働くじゃなく/働く為に美味しいもんいっぱい食う》という言葉が入っているじゃないですか。もう世の中に名言として出回っている言葉だと思うけど、僕はこの言葉が大好きなんです。子供の頃に父親に言われて、それが自分の中で“どう頑張ればいいか”の哲学になっている。ただ、そのまま言ってしまうと説教くさくなってしまうので、ちょっとだけアレンジして“美味しいものを”というひと言をつけ加えました。“真面目に働け!”ということを言いたいわけではなくて、“美味しいものをいっぱい食べて、また明日も頑張ろう!”みたいなことを言いたいだけなんですよ。だけど、この言葉じゃないと伝わらないし…というところで、ニュアンスにすごく悩んだ気がしますね。
説教くさくならないように考える辺り、リスナーに対する愛を感じます。さらに、「笑う光」はスタイリッシュな楽曲にコンガの音を入れるというセンスの良さも光っています。
気づいてもらえて、すごく嬉しいです。僕はハウスとかテクノとかの歴史を調べていた時期があって、昔の人は…例えばジェームス・ブラウンとかのビートを切って貼ってサンプリングしたものをループさせて、そこからハウスが生まれてきたんですよね。そういう作り方をすると元曲にコンガが入っていたりする場合、どれだけEQをいじってもコンガが鳴ってしまうんです。そこで、だったらそれに合うようなシンセを考えようというアプローチのほうが、僕が憧れる90年代とか80年代のテクノやアシッドの世界に近づけると思って。それで、この曲はサンプルをそのまま活かしたんです。
コンガが鳴ることでネイティブな雰囲気が加味されて、独自の惹き込み力が生まれています。もうひとつ、『MIRACLE MILK』を聴かせていただいて、愛はズボーンはリズムに強いこだわりを持っている印象を受けました。
まさにそうで、ドラマーの富永は幼稚園から一緒なんですけど、富ちゃんじゃないとバンドはできないくらい僕はドラムにうるさいんです。レコーディングの時はもう本当に、傍から見たらいじめているように見えるくらい要求していて、富ちゃんがそれを受け入れてくれる状態になって本当にありがたいと思っています。たぶんめちゃくちゃなことを言っていますね。僕が“こういうビートだよ”と口で伝えて、“でも、これは俺が考えたやつやからなしで、自分で別のを考えてくれ”とか(笑)。そういうことをレコーディングの1週間前くらいでも、まだ言っていたりするんです(笑)。
うっ…でも、富永さんは大変だとは思いますが、『MIRACLE MILK』はリズムアプローチやビートセンスの良さも聴きどころになっています。そんな『MIRACLE MILK』は独自のエンターテメント性を備えた、とても良質な一作に仕上がりましたね。
『MIRACLE MILK』は10年経った2033年とか2034年に聴いても自分が恥ずかしくないんじゃないかなと思っています。できた瞬間にそう思ったし、何度聴き返してもそれは変わらないし。そう思えたのは初めてなんですよ。僕は2022年に子供が生まれたんですけど、その子が大人になった時に“父ちゃんはどんな音楽をやっていたん?”と訊いてきたら、このアルバムを聴いてもらいたいと思いますね。そんなふうに恥ずかしくないものができたと感じていて、自信を持って出していける気がしています。
愛はズボーンを“イケイケ・アッパーなバンド”というイメージでとらえている方も多い気がしますが、『MIRACLE MILK』がきっかけになって知的だったり、お洒落だったりすることがより広く伝わるといいなと思います。そして、本作を携えた全国ツアーを行なう予定だとうかがいました。
今、スケジュールを組んでいるところです。愛はズボーンは10年近くライヴハウスでライヴをすることを活動の核にしてきているんです。自分たちのステータスはライヴに振りきってきたバンドなんですよ。なので、そこはもうどれだけ過酷な状況だろうが、いいライヴができるという自信しかなくて。面白くなかったという人が絶対にひとりもいないようにライヴは作っているので、音源だけ聴いて終わるんじゃなくて、ぜひライヴ会場にも足を運んでほしいですね。
取材:村上孝之
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アルバム『MIRACLE MILK』2024年2月7日発売
TOUGH&GUY RECORDS
- 【通常盤】(CD)
- TGUY-018/¥2,750(税込)
- 【タワレコ限定パック】(CD+Tシャツ)
- TGUY-019/¥5,500(税込)
『愛はズボーン4th ALBUM『MIRACLE MILK』release tour
<MAGICAL CHEMICAL MIRACLE TOUR>』
3/17(日) 京都・nano
4/06(土) 広島・4.14
4/07(日) 岡山・ペパーランド
4/14(日) 北海道・札幌カウンターアクション
4/19(金) 茨城・水戸ライトハウス
4/20(土) 宮城・仙台FLYING SUN
4/21(日) 千葉・LOOK
4/26(金) 兵庫・神戸太陽と虎
4/28(日) 岐阜・ants
4/29(月) 静岡・UMBER
5/05(日) 香川・高松TOONICE
5/06(月) 愛媛・松山Double-u studio
5/11(土) 福岡・キューブリック
5/12(日) 大分・SPOT
5/25(土) 愛知・名古屋HUCK FINN
6/02(日) 東京・下北沢SHELTER
6/09(日) 大阪・心斎橋Pangea
※対バンアーティストは後日発表
アイハズボーン:2011年7月に結成、大阪・アメリカ村を中心に活動。高揚感を生み出すシーケンサーによるトランストラックと、ディストーションギターのロックサウンドによるアッパーなサウンドを奏でる。結成10周年を迎えた21年5月に2ndアルバム『TECHNO BLUES』をリリースし、24年1月には4thアルバム『MIRACLE MILK』を発表。また、メンバーは音楽のみならず、アート、ファッション、ゲーム配信など多岐にわたる発信をしている。 愛はズボーン オフィシャルHP
「NEW SNEAKER MEMORIES」MV
「ケミカルカルマ」MV
「まじかるむじか」MV