デヴィッド・ボウイの協力を得て
ロック界屈指の都会派詩人の
名声を確立した
ルー・リードの歴史的名盤
『トランスフォーマー』
緩急をつけた曲の配分からも、
ルー・リードの
作曲能力の高さがうかがえる
必然的にアルバム中でロック色の強い「ヴィシャス(背徳)」「ハンギン・ラウンド」「ワゴンの車輪 (原題:Wagon Wheel)」「アイム・ソー・フリー」といった曲はボウイのアルバムに通じるグラムロック的なサウンドにまとめられているが、それ以外の「パーフェクト・デイ」「メイキャップ」「サテライト・オブ・ラヴ」のスローテンポでグッと聴かせる曲の出来がいい。そして、もちろん「ワイルドサイドを歩け」の突出した素晴らしさには唸らされる。前述のように、歌われている内容は悩ましいものの、ビルボードチャートで16位、全英チャートで10位にまで上るヒットとなっている。ちなみに、この曲は日本でも放送禁止にはなっていない。当然だとは思うものの、英語で歌われている外国の音楽ということでチェックをすり抜けているのかもしれず、LGBTQが語られる昨今であっても、諸外国に比べて公民における意識の低さを思うと、この曲がなんの問題もなくオンエアされていることに、かえってドキドキしてしまう。考えすぎだとは思うが。
あと、リードの音楽はロックンロール、あるいはビートミュージックとの関係で語られることが多いと思うが、久しぶりに聴き込んでみると、簡素なギター、抑揚を抑え、呟くような歌声など、案外フォーキーなものを感じるところがあった。試しにアコースティックギターを取り出してきて「ワイルドサイドを歩け」のさわりを弾いてみたのだが(C→ F→ C→ F→ C→ Dm→ C→ F →C→ Fの循環)、弾き語りでも合いそうな気がした。ディランと1歳違い、と冒頭のほうで書いたが、ルーツミュージックをベースにオリジナルを作っていったディランと違い、もしかするとニューフォークとも言うべきデヴィッド・ブルーやエリック・アンダースン、ティム・ハーディン、レナード・コーエンなんかと案外近いものがあるかもしれない。なんて言うと、またまた天上のリードに「他人を引き合いに出して俺の音楽を語るな」と叱られるかもしれない。
最後に「ワイルドサイドを歩け」での印象的なベースを弾いたのはハービー・フラワーズという腕達者な人。彼は500のヒットに関わったプレイヤーと言われ、セッションで関わったアーティストは有名どころだけでもエルトン・ジョンからボウイ、ジョン以外の元ビートルズ、ブライアン・フェリー、他、錚々たる名前が並ぶ。そして、T-Rexのメンバーだった時期もある。「ワイルドサイドを歩け」では、ウッドベースにエレキベースを重ねて録音しているのだそうだ。
脳内にストックされた音楽が、ふいに再生される…というような話は誰にも覚えがあるし、意想外の曲が流れ我ながら困惑したというような話は以前にも書いた覚えがある。初めてニューヨークを訪れた時、意図せずとも自然に「ワイルドサイドを歩け」が流れたものだ。それくらい、自分にとってニューヨークを象徴するような曲だった。と、こうして書いているだけで、あの街の映像を伴って脳内にウッドベースとギター、ドラムのブラシだけの印象的なイントロが聴こえてくる。もう彼はいないけれど、今でもあの街を歩けば、この曲が流れ出すだろうか。それはもう間違いない…それぐらい永遠の名曲なのだ。
TEXT:片山 明