マイルス五重奏団で聴く
「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」
を通して激動の
50年代〜60年代の音楽シーンを想う
ヴァレンタイン・デイに引っ掛けた名盤はないかと思い巡らせ、真っ先に浮かんだのがアルバムというよりは曲で、まさにタイトルもズバリ「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」。この曲が収録され、タイトルチューンになっているマイルスのライヴ作『マイ・ファニー・ヴァレンタイン』(’65)をまず棚から選びました。また、マイルスが同曲を最初に録音したのがアルバム『クッキン』(’57)なので、こちらも外せません。どちらの盤に収められたバージョンも甲乙つけがたい、息が止まりそうなくらい凄い演奏が収められているのですが、同時に「こうも違うのか!」と言いたくなるくらい、トーンもアドリブも、テンポもパッションも違います。そのマイルスの変化、表現の違いを、楽しんでみるのも一興かと。
1956年発表:
『マイ・ファニー・ヴァレンタイン』、
ジャズを牽引するマイルス
アルバム『クッキン』の冒頭を飾るのが「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」。レコーディング・パーソナルはマイルス(トランペット)以下、ジョン・コルトレーン(テナー・サックス)、レッド・ガーランド (ピアノ)、ポール・チェンバース (ベース)、フィリー・ジョー・ジョーンズ (ドラム)という、なんとも豪華なクインテット。リリカルなガーランドのピアノのイントロに続き、厳かにベース、ドラムが合わせ、物悲しく響くマイルスのミュート・トランペットが物語を紡ぐようにメロディーを描き、バンドを引っ張っていく。美しい。約6分間、金縛りにあったように身じろぎもせずに聴き入ってしまう。これ以上の何も望むまい、と思ってしまうほど見事な表現、演奏にしびれます。