まさに英国の華と言いたくなる、
レスリー・ダンカンの
珠玉の歌を覚えていてほしい

『MOON BATHING』(’75)、『Lesley Step Lightly: GM Recordings Plus 1974-1982』(‘19)

『MOON BATHING』(’75)、『Lesley Step Lightly: GM Recordings Plus 1974-1982』(‘19)

前回このコラムでバッキングヴォーカリストからソロアーティストに転じ、名盤を残したヴァレリー・カーターを紹介した。その記事を書いている途中、同じようにバッキングヴォーカリスト出身で、活動時期もほぼ同じ、今なお忘れがたいシンガーとしてアルバム、佳曲を残し、それら旧作のリイシューが続く英国の女性シンガー、レスリー・ダンカンを思い出した。この機会に彼女のことも紹介しておきたいと思う。ピックアップしたのは彼女の代表作『ムーン・ベイジング』 (‘75)と、そのリマスターを含む、旧盤に未発表とライヴ音源を加えたCD3枚組『レスリー・ステップ・ライトリー:GMレコーディング・プラス1974-1982』(’19)。

本国イギリスはともかく、日本のラジオでかかるようなヒット曲はこの人にはない。というわけで一般にはアピール度が低いものの、英国を代表する女性シンガーソングライターのひとり、しかも、その第一人者であり、一方でバッキングヴォーカルの仕事によってブリティッシュロック好きにも知られる存在である。

ピンク・フロイドや
エルトン・ジョンのバックで

私が彼女の名前を初めて知ったのは、あのピンクフロイドの『狂気(原題:The Dark Side of the Moon)』(‘73)にバッキングヴォーカルで参加していたことだったかと思う。「タイム」のコーラスがそれだとされているのだが、ドリス・トロイ、レスリー・ダンカン、ライザ・ストライク、バリー・セント・ジョンの4人からなるハーモニーなので、どれがレスリーなのか特定できない。実は他の曲でもコーラスをつけているという噂もある。

あのジェフ・ベック(グループ)がバックを務めていることでも話題になったドノバンの『バラバジャガ(原題:Barabajagal)』(‘69)にもレスリーは参加している。ジェフの鋭角的なギターがキマるタイトルトトラックがそれなのだが、こちらも単独ではなく、レスリーのほかにマデリン・ベル、そしてあのスージー・クアトロとの3声コーラスなので、これまた彼女の声のみを特定することはできない。

最も多く彼女がバッキングヴォーカルで起用されたのは“英国のアレサ”とも言われたダスティ・スプリングフィールドとの仕事で、64年から72年までの長きにわたってスプリングフィールドはレコーディング、ショー、テレビ出演の際にレスリーを伴っている(BBC放送のものなどでレスリーの姿を見ることができる)。他にもウォーカー・ブラザーズ、意外なところでティム・ハーディン…と、判明しているもの以外に、コーラスで参加しているものは、きっと枚挙にいとまがない、というところだろう。

彼女の名前が大きくクローズアップされることになるのは、やはりエルトン・ジョンとの仕事によってだろう。エルトンはきっとスプリングフィールドとの仕事や長くコーヒーショップやバーで歌っていたレスリーの、歌唱力とソングライティングに注目していたのに違いない。セルフタイトルを冠した2作目『僕の歌は君の歌(原題:Elton John)』(‘70)ではじめて彼はレスリーを起用する。その時にレスリーのオリジナル曲を聴いたのだろうか。続く『エルトン・ジョン3(原題:Tumbleweed Connection)』ではレスリーのオリジナル曲「ラヴ・ソング」がカバーされ、同曲でレスリーがコーラスをつけている。この曲は最もよく知られるレスリーの曲で、先にエルトンに発表の機会を譲ったものの、彼女も翌年の1971年に初のソロデビュー作『シング・チルドレン・シング』にこの曲を収録している。エルトンはコーラス等の御礼の気持ちもあったのだろうか。アルバムのレコーディングにピアノで客演している。

エルトンとの仕事の話に戻ると、彼ほどのソングライターが他人の曲をカバーするのは異例中の異例で、それだけレスリーの曲、とりわけ「ラヴ・ソング」には惚れ込んでいたのだろう。エルトンとレスリーの共演は次作『マッドマン(原題:Madman Across the Water)』でもみられ、さらにライヴ作『ヒア・アンド・ゼア〜ライヴ・イン・ロンドン&N.Y.(原題:Here and There)』ではレスリーと共演する「ラヴ・ソング」が収録されている。
※NYライヴ・サイドではなんとジョン・レノンとエルトンの共演があり、発表当時、大変な話題になった。

ちなみに「ラヴ・ソング」に惹かれたのはエルトン以外にもいて、100を超えるシンガーがカバーしているそうだ。中でも意外なところでデヴィッド・ボウイが取り上げていて、初期のデモ音源を集めた編集盤『The 'Mercury' Demo』に収められている(動画サイトでも視聴可能)。

OKMusic編集部

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