ジェニファー・ウォーンズの
圧倒的な歌唱力と
緻密なプロデュースワークから
生み出された名作
『ジェニファー・ウォーンズ』
アカデミー賞歌曲賞を3回獲得
これまでに彼女は3回のアカデミー賞歌曲賞を受賞している。最初の受賞は1979年、サリー・フィールド主演の『ノーマ・レイ』の主題歌「流されるままに(原題:It Goes Like It Goes)」で、静かな中に熱く秘めた想いを彼女は見事に表現し、シンガーとして世界的な評価を得る。この映画はブラック企業に搾取される女性たちの労働運動を描いたシリアスな作品で、残念なことに日本では話題を集めることもなく、短期間の公開で終わってしまったが、冒頭に流れるジェニファーの歌は素晴らしく、サリー・フィールドの名演(この作品でアカデミー主演女優賞を獲得)もあって、映画館ではすすり泣く人も少なくなかった。この映画がエンターテインメント作品であったなら、ジェニファー・ウォーンズの名は日本でもっと知られていたと思う。
そして、2回目の受賞がみなさんご存知の『愛と青春の旅だち(原題:An Officer and a Gentleman)』である。この曲に関しての説明はいらないだろう。ジョー・コッカーとのデュエット作品で、当時のMVでのふたりの対照的な動きに視聴者の笑いを誘っていたが、これも名曲かつ名演である。3回目のアカデミー受賞作となる映画『ダーティー・ダンシング』の挿入歌「タイム・オブ・マイ・ライフ(原題:(I’ve Had)The Time of My Life)」は、時代的な事情もあって、打ち込み中心のダンサブルなナンバーとなり、今聴くと古臭い感じが否めないし、楽曲自体たいした曲とは思えないのだが、ゴールデングローブ賞、アカデミー賞、グラミー賞の3冠に輝いた。映画のメガヒットに助けられたのかもしれない。
ジェニファー、
ジェニファー・ウォーレン、
ジェニファー・ウォーンズ
60年代末、ロサンジェルスのライヴハウスで人気を呼んでいたのがストーン・ポニーズのリードシンガー、リンダ・ロンシュタットである。その後、ロンシュタットは独立し、新しいタイプ(カントリー・フォークロック的なサウンド)のシンガーとして人気が急上昇していた。大手レコード会社は第2、第3のロンシュタットを探しており、リプリーズレコードが目をつけたのがジェニファーであった。彼女自身、パロットでの扱いには嫌気がさしていただけにこの移籍は渡りに船で、プロデューサーに元ベルベット・アンダーグラウンドのジョン・ケイルを迎えて、ジェニファー・ウォーレン名義で『ジェニファー』(‘72)をリリースする。バックを務めるのはウィルトン・フェルダー(クルセイダーズ)、リッチー・ヘイワード(リトル・フィート)、ラス・カンケル(セクション)、ジャクソン・ブラウン、スニーキー・ピート、スプーナー・オールダムら腕利きのセッションマンが参加、選曲もプロコル・ハルム、ドノヴァン、ジャクソン・ブラウン、ビージーズ、フリーなど幅広く、1曲ではあるがオリジナルも収録している。
このアルバムは、これまでで一番の出来とはなったが、よくある西海岸風フォークロック作品となり、ヴォーカリストとしての彼女の魅力は十分には引き出されないままであった。この作品、アメリカではすぐに廃盤となったが、ジャクソン・ブラウンやラス・カンケルらが参加していることから日本の熱心なSSWファンの間では少し話題となった。余談だが、このアルバムは2013年に日本でCD化(世界初CD化!)されている。そして、今回紹介する『ジェニファー・ウォーンズ』で、彼女は初めて本名での活動をスタートさせる。