マウンテンのデビューアルバム『勝利
への登攀』がアメリカンハードロック
の基礎を築き上げた!

レッド・ツェッペリンやブラック・サバスなど、重厚で湿り気のあるブリティッシュハードロックのグループと比べると、アメリカンハードロックのグループはシンプルで乾いたサウンドが特徴だと言える。中でもグランド・ファンク・レイルロードとマウンテンは、アメリカンハードロックの基礎を築いた2大グループだ。今回は1970年にリリースされたマウンテンの記念すべきデビューアルバム『勝利への登攀(原題:Climbing!)』を紹介する。

クリームのプロデューサー、フェリック
ス・パパラルディ

1969年に結成されたマウンテンには、ロック界で大きな功績を残したプロデューサーのフェリックス・パパラルディがベーシストとして在籍している。まずは、彼の仕事をチェックしてみよう。
パパラルディは大学でクラシック音楽を学び、卒業後はヴィオラの演奏者や作・編曲の道に進もうとしていたようだ。その頃アメリカではフォーク・リバイバルの真っ只中で、ブルースやジャグバンド、ブルーグラスなどのルーツ音楽に注目が集まっていて、パパラルディもすっかりその魅力にはまり、ギターを片手に路上などでフォークを歌っていたが、そのうちフォークシンガーたちのレコーディングに携わるようになる。この時代、譜面を読めるミュージシャンは少なく、パパラルディはとても重宝されていたようだ。トム・パクストン、フレッド・ニール、イアン&シルヴィアといった人気フォークシンガーのバックを務める中(時にはアレンジも手がける)、彼の仕事がレコード会社に認められることになる。
そして、新たに得た仕事がクリームのプロデューサーという運命的なものだった。彼はエリック・クラプトン、ジャック・ブルース、ジンジャー・ベーカーという協調性のない(笑)天才肌の3人をまとめ、プロデュースだけでなく、自作曲を提供したり、さまざまな楽器を演奏するなど、その才能を発揮していった。やがて自身のグループを持ちたいと考えるようになるのだが、パパラルディの考えるレベルのミュージシャンには出会えず、しばらくはセッションミュージシャンやプロデュースの仕事をこなしていくのである。

レスリー・ウエストのソロ『マウンテン

ようやく彼がプロデュースしたグループに在籍していたレスリー・ウエストというすごいギタープレーヤーと出会い、パパラルディはグループ結成へと動き出す。まずはレスリー・ウエストの名前を売るためにソロアルバムを制作、自身もプロデューサー兼ベースプレーヤーとして、スタジオでさまざまな試行錯誤を繰り返し、『マウンテン』というアルバムを69年にリリースする。レスリー・ウエストという無名の新人にもかかわらず、アルバムはビルボードチャートで72位まで上昇し、パパラルディは自分の考える方向性が間違っていないことを確信する。同年8月にはマウンテン名義でリハーサルを兼ねて『ウッドストック・フェス』(1)に参加し、よりグループに適した人選を行なうため、ライヴ後すぐにメンバーの入れ替えを実施している。

マウンテン始動

そして、レスリー・ウエスト(Gu)、フェリックス・パパラルディ(Ba)、コーキー・レイング(Dr)、スティーブ・ナイト(Key)というメンバーで、マウンテンは活動を開始する。パパラルディの目指すサウンドは、ドライブするハードロックとメロディアスなナンバーの同居で、どちらもウエストの情感あふれるギターを前面に据えたもので、クリーム+α的なイメージを狙っていたのだと思う。
1970年3月、マウンテンとしてのデビューアルバム『勝利への登攀』がリリースされると、ビルボードチャートで17位まで上昇! シングルカットされた「ミシシッピ・クイーン」も大ヒットするなど、新グループながら大きな成功を収めた。
この成功はもちろんパパラルディの種蒔き(レスリー・ウエストのソロ作品『マウンテン』リリース。ウッドストックに出演、演奏した2曲は『勝利への登攀』に収録された「Theme From An Imaginary Western」「For Yasugur’s Farm」)が効果的であったことは言うまでもない。

本作『勝利への登攀』について

アルバムに収録されているのは全9曲。それぞれ“A. ハードなもの”“B. メロディアスなもの”“C. サザンロックっぽいもの”“D. エスニックっぽいもの”の4パターンに分かれる。Aタイプには「Mississippi Queen」と「Never In My Life」「Sittin’ On A Rainbow」の3曲が、Bタイプには「Theme From An Imaginary Western」「For Yasugur’s Farm」「Boys In The Band」の3曲、Cタイプには「Silver Paper」が、Dタイプは「To My Friend」「The Laird」の2曲である。
これらのスタイルの中で、マウンテンの真骨頂といえばAタイプ(ヴォーカルはウエスト)とBタイプ(ヴォーカルはパパラルディ)だろう。中でもAタイプは、キレの良いギタープレイと歪んだ叫びのようなヴォーカルが印象的で、アメリカンハードロックのプロトタイプとして現在でも使われているが、これはマウンテンが生み出したスタイルである。
Bタイプの3曲は美しいメロディーとすすり泣くような情感たっぷりのギターが素晴らしく、個人的にはマウンテンの良さはこのBタイプにあると考えている。特に「Theme From An Imaginary Western」「For Yasugur’s Farm」の2曲は、ロック史上に残る名曲中の名曲だろう。
余談だが、僕が最初にマウンテンを知ったのは中学の時で、『ウッドストック・フェス』のサントラ盤『ウッドストック II』に収録されたライヴの「Theme From An Imaginary Western」だった。この曲ばかり何度も繰り返して聴き、多くの友達にも聴かせたこともあって、僕の通う中学ではマウンテンのファンが相当増えた。
Cタイプは1曲のみだが、おそらくウエストはオールマンブラザーズが好きだったのだろう。ヴォーカルもギターソロも、かなりオールマンを意識した演奏になっているのが面白い。
Dタイプはインドというか中東風というか、かなり無国籍な感じが漂っているのだが、ウエストのギターはとても繊細で、彼がさまざまな音楽的な背景を持っていることがよく分かる作品になっている。

最後に…

本作は間違いなく、これ以降のアメリカンハードロックのグループに大きな影響を与えた作品だ。残念ながら、日本ではすっかり忘れられてしまっているが、本作以降、3枚目の『悪の華』(‘71)あたりまでは名作揃いなので、どのアルバムでもいいからぜひ聴いてもらいたい。
ちなみに、マウンテンのアルバムアートワークを担当しているのは、パパラルディの妻のゲイル・コリンズ。彼女はアートワークのほかに作詞も行なうなど、その影響力を考えると5人目のメンバーと言ってもよい存在であった。しかし1983年、パパラルディはコリンズに射殺されこの世を去ることになる。いったいふたりの間に何があったのか、今となっては誰にも分からない…。

著者:河崎直人

OKMusic編集部

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