アレサ・フランクリンの『アレサ・
ライヴ・アット・フィルモア』は
地球史上最高のシンガーが
リリースした究極のライヴ盤だ!

『Aretha Live at Fillmore West』(’71)/Aretha Franklin

『Aretha Live at Fillmore West』(’71)/Aretha Franklin

みなさんもご存知だと思うが、この8月16日にアレサ・フランクリンが亡くなった。洋楽(特に黒人音楽)が好きな人間にとって、アレサは格別の存在である。彼女はポピュラー音楽史上…というか、地球史上において間違いなく最高の歌手であり、彼女がいなかったら人類の進歩も変わっていたのではないかと思うほどの圧倒的なインパクトを持つ人物だ。そんな彼女が亡くなったのだから、世界中で大騒ぎになっているだろう。「追悼として聴くのに相応しい彼女のアルバムは?」と訊かれたら、ぜひ聴いてもらいたいのが本作『アレサ・ライヴ・アット・フィルモア』だ。数多あるポピュラー音楽のライヴ作品の中でも、これほど傑出したアルバムにはそうそう出会えるものではない。というわけで、今回は熱いパフォーマンスが詰まった『アレサ・ライヴ・アット・フィルモア(原題:Live At Fillmore West)』を紹介する。

アレサのアトランティック時代を
代表する作品は…

2年以上前のこと、このコーナーでアレサの『貴方だけを愛して(原題:I Never Loved a Man the Way I Love You)』(’67)を取り上げた時、僕はこう書いた。
 〜本作に収録された楽曲は全てが名曲で、アレサの熱い歌唱ぶりに、アルバムを通して聴くだけでドッと疲れるほどだ。僕がこのアルバムと出会ったのは、中学3年生の頃。当時人気のあったマッスルショールズ録音のひとつとして知ったのだが、それから40年程度経つが、未だに愛聴盤である。何百回聴いたのか分からないぐらい聴いた。これだけの作品と出会えることは、人生の中でもそう多くはない。〜

「これだけの作品と出会えることは、人生の中でもそう多くはない」という言葉は嘘ではない。しかし、アレサは長いキャリアの中で、他にも素晴らしい作品を何枚も残している。特に、67〜79年まで在籍したアトランティック時代に素晴らしい作品は多い。1作目と同様に南部ソウルを極めた3作目の『レディ・ソウル』(’68)や、ニューソウルに目覚めた10作目の『黒人讃歌(原題:Young, Gifted and Black)』(’72)も甲乙付けがたい名盤だと思う。そして、アトランティック時代の極め付きの作品が本作『アレサ・ライヴ・アット・フィルモア』なのである。

ニューヨークを中心に活躍する
バックミュージシャンたち

本作の前にリリースされたアトランティックでの8作目『スピリット・イン・ザ・ダーク』(’70)では、それまでのマッスルショールズの面々に加えて、同じく南部を中心に活躍するディキシー・フライヤーズ(白人)や、ニューヨークのスタジオミュージシャン(黒人)なども新たに起用し、それまでの南部っぽい作風から都会的に洗練されたサウンドも聴かせるようになったことは驚きであった。制作者側からするとマーヴィン・ゲイやカーティス・メイフィールドらに代表されるニューソウルの台頭に向き合うために必要な措置であったのだろうが、この試みは成功し、これ以降アレサのサウンドはニューソウル的なアプローチへと変わっていく。

彼女のヴォーカルの背景には
常にゴスペルがある

荒々しく突き抜けるような部分と繊細にコントロールされた部分の両方を持つアレサのヴォーカルは、アトランティック初期のマッスルショールズ録音で既に完成されていたわけだが、単にゴスペル的だというだけでなく、アトランティックより前に在籍したコロンビア時代に学んだジャズやポップスのヴォーカル手法を自分のものにしていたから、ポップ曲もちゃんと歌えるのである。しかし、やはり彼女を支えているのはゴスペルであり、それは著名な説教師であった父親(C.L.フランクリン)の存在が大きかったのであろう。だから、ニューソウル的なアプローチをしてはいてもゴスペルに対する敬意を忘れることはなく、教会でのライヴ2枚組『至上の愛〜チャーチ・コンサート(原題:Amazing Grace)』(’72)ではゴスペルを歌いまくっている。

本作『アレサ・ライヴ・アット・
フィルモア』について

話を元に戻す。『スピリット・イン・ザ・ダーク』でニューヨークのスタジオミュージシャンとの相性が良かったので、ライヴ盤(本作のこと)をリリースするためのコンサートでもニューヨークで活躍するミュージシャンを起用することが決まった。それがキング・カーティス&ザ・キングピンズで、このアルバムには黒人ミュージシャンの中でも最高位にランクされる面々が参加している。

ギターはコーネル・デュプリー、ベースにはジェリー・ジェモット、ドラムはバーナード・パーディー、キーボードにアレサ(ピアニストとしてのアレサも素晴らしい)、トゥルーマン・トーマス、ビリー・プレストン、パーカッションにパンチョ・モラレス、ホーンにはキング・カーティスとメンフィス・ホーンズというミュージシャンを得て、サンフランシスコのフィルモア・ウエストで3日間のコンサートが行なわれた。その中から厳選された10曲が本作に収録されているのだ。

アルバムの1曲目は『貴方だけを愛して』の1曲目でもあった、彼女の名を全世界に知らしめたオーティス・レディングの名曲「リスペクト」で始まる。スタジオ録音と違って、彼女のヴォーカルにしても演奏にしても神がかっていると思えるほどの名演だ。普段のキングピンズは白人黒人を問わずヒット曲をインストで演奏する地方営業的なスタンスなのだが、アレサのヴォーカルが鼓舞しているからか、ここでは本気度100パーセントで鬼気迫る演奏を披露している。これでぶっ飛ばない音楽ファンはいないと思う…。

続いて、ステファン・スティルス(CSN&Y)の名曲「愛への讃歌」、サイモンとガーファンクルの「明日に架ける橋」、ビートルズの「エリナー・リグビー」、ブレッドの「二人の架け橋」と白人ファンへのサービスと思われるナンバーは続く(場所がロックファンのメッカ、フィルモア・ウエストだから)が、どれもアレサならではのゴスペルフィールにあふれたアレンジになっていて、原曲をなぞっているだけでなくちゃんと彼女のモノにしているところが素晴らしい。次の「ドント・プレイ・ザット・ソング」はLP時代はA面最後に収められていた。ベン・E・キングの大ヒット曲でアレサの代表曲のひとつでもある。

続く3曲「ドクター・フィールグッド」「スピリット・イン・ザ・ダーク」「スピリット・イン・ザ・ダーク(リプライズ:レイ・チャールズが飛び入り参加!)」はアレサのオリジナル曲で、ブルージーなゴスペル歌手としてのアレサが堪能できる。そして、アルバムのラストを飾るのはダイアナ・ロスのソロデビュー曲で、神の福音についての歌なので取り上げたのだと思われる。

余談であるが、アレサのバックを務めるキング・カーティス&キングピンズはこのコンサートに前座としても出演していて、彼らの単独のアルバムもリリースされている。それが『キング・カーティス・ライヴ・アット・フィルモア・ウエスト』(’71)で1曲目に収められた「Memphis Soul Stew」のパフォーマンスは、楽器をプレイする人間にとっては必聴の名演として知られている。僕自身、この「Memphis Soul Stew」は数百回を超えるぐらい聴いているが、何度聴いても新しい発見ができる名演だ。

これまでアレサを聴いたことがないという人は、ぜひ本作やアトランティックの諸作を聴いてみてください。おそらく、今まで経験したことのない新しい発見ができると思うよ♪

TEXT:河崎直人

アルバム『Aretha Live at Fillmore West』1971年発表作品
    • <収録曲>
    • 01. リスペクト/Respect
    • 02. 愛への讃歌/Love the One You're With
    • 03. 明日に架ける橋/Bridge Over Troubled Water
    • 04. エリナー・リグビー/Eleanor Rigby
    • 05. 二人の架け橋/Make It with You
    • 06.ドント・プレイ・ザット・ソング/Don't Play That Song
    • 07.ドクター・フィールグッド/Dr. Feelgood
    • 08. スピリット・イン・ザ・ダーク/Spirit in the Dark
    • 09. スピリット・イン・ザ・ダーク(リプライズ)/Spirit in the Dark (Reprise with Ray Charles)
    • 10.リーチ・アウト・アンド・タッチ/Reach Out and Touch
『Aretha Live at Fillmore West』(’71)/Aretha Franklin

OKMusic編集部

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