これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!

これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!

70年代ストーンズを予感させる
アメリカーナ的スタンスの傑作が
『ベガーズ・バンケット』だ

『Beggars Banquet』(’68)/THE ROLLING STONES

『Beggars Banquet』(’68)/THE ROLLING STONES

ブルースやR&Bのカバーやそれっぽいオリジナルを演奏することで、自分たちのスタイルを磨いていったザ・ローリング・ストーンズであるが、通算8枚目となる本作『ベガーズ・バンケット』から新たにジミー・ミラーをプロデューサーに迎えることによって、新たなスタートを切った。ミラーの助言のもとで、これまで以上にルーツロック的なスタンスで勝負している。本作ではブルースやR&Bだけでなくカントリー的なナンバーも取り上げるなど、70年代のストーンズを予感させるきわめて重要な作品である。

70年代のストーンズに向けた助走期間

ストーンズは黒人音楽オタクの完全主義者であるブライアン・ジョーンズと、同じく黒人音楽オタクであるが自分流を貫くミック・ジャガーとキース・リチャーズの3人によって彼らの音楽が練られていくわけだが、デビュー時からリーダーシップを取っていたブライアン・ジョーンズの心身の不調もあって、徐々にジャガー/リチャーズのふたりがグループの方向性を決めるようになる。

67年頃、ジャガー=リチャーズは当時アメリカで徐々に台頭しつつあったフォーク・リバイバルに影響を受けたグレイトフル・デッドのようなルーツ系ロックグループや、デラニー&ボニーらに代表されるスワンプロックの動きに興味を持っていたこともあっただろうし、イギリスで相次いでデビューしたブルースロックバンド(サヴォイ・ブラウン、チキン・シャック、フリートウッド・マックなど)のオタク度レベルの高さに脅威を感じていたこともあっただろう。単なる黒人音楽の亜流ではだめだと、ジャガー/リチャーズは危機感を感じていたはずだ。

そこで、ストーンズの音楽を第三者的な目で見てもらい助言を得ようと、トラフィックのプロデューサーとして名が知られていたジミー・ミラーに声をかける。その後、ミラーにプロデュースを任せて何回かのレコーディングが行なわれることになるのだが、その最中にザ・バンドのデビュー作で名盤中の名盤『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』がリリースされている。おそらくジャガー/リチャーズも、ザ・バンドの登場には大きな衝撃を受けたはずである。時期から考えるとレコーディング自体にその影響はなかったと思われるが、『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』がこれ以降のストーンズの音楽に影響を与えることは間違いない。

「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」
の大ヒット

『ベガーズ・バンケット』のレコーディングセッションで、ストーンズの最もよく知られた「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」は録音された。アルバムが完成する前にシングルでリリースされると全英1位の大ヒットとなり、アメリカや日本を含む世界中でヒットした。結局、この曲は『ベガーズ・バンケット』に収録されず、次作のベスト盤『Through The Past, Darkly(Big Hits Vol.2)』(‘69)に収録される。この手法(シングルのみでアルバムに収録しない)、ジミー・ミラーはトラフィックの時にも使っていたので、彼の得意の戦法なのだろう。

「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」は「サティスファクション」と並ぶ大ヒットナンバーであり、ストーンズというグループを印象付けることになった。しかし、ストーンズは本来はもう少し地味な音楽をやっているグループで、ルーツロック的な『ベガーズ・バンケット』がリリースされると、前出のシングル作とイメージが違うというロックファンは少なくなかったのである。どちらもストーンズに間違いはないのだが、特に『ベガーズ・バンケット』は彼らの転機となったアルバムであり、地味ながらもいぶし銀のような味わいを醸し出している傑作であることに間違いはない。

本作『ベガーズ・バンケット』について

ご存知のように本作はジャケットが2種類ある。現在出回っているトイレ落書きバージョンはジャガー/リチャーズが提示した正規デザインであり、当時レコード会社に品がないといちゃもんを付けられ、文字のみバージョンに差し替えられた。しかし、どう考えてもトイレ落書きバージョンのほうが優れている…というかアルバムの音にぴったり合っている。

もうひとつ、ジャケットについての余談を言うと、このトイレ落書きのジャケット裏側には“ミュージック・フロム・ビッグ・ブラウン”と書かれている。これを見ても、やはり彼らはザ・バンドの『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』に影響を受けたのだろうなと思うのである。

さて、本作の内容はというと、前作『サタニック・マジェスティーズ』(‘67)と前々作『ビトゥイーン・ザ・バトンズ』(’67)に見られたサイケデリック風テイスト(いわゆる流行を追いかけたもの)は一切なく、ブルースやR&B、そしてカントリーといったアメリカンルーツを見据えた骨太のロックが詰まっている。これまでのストーンズには見られなかったカントリー的な要素もあるので、原点に戻ったわけでもない。今で言うアメリカーナ的なテイストを持ったルーツロックで勝負しており、大物ロッカーの風格すら感じられる。本作はまさしく彼らの転機となった重要なアルバムだと思う。

本作収録のナンバーでは「悪魔を憐れむ歌(原題:Sympathy For The Devil)」(ニッキー・ホプキンスのピアノが素晴らしい!)や「ストリート・ファイティング・マン」のようなライヴ受けするストーンズらしい曲もあるのだが、基本的には泥臭いルーツロックが本作の特徴だ。カバーされることの多い隠れた名曲「ノー・エクスペクテーションズ」や、アメリカのグループと勘違いするようなオルタナティブ感覚のカントリー曲「ディア・ドクター」、ブギの「パラシュート・ウーマン」やスワンプの「ジグソー・パズル」「ストレイ・キャット・ブルース」、ストーンズにカントリーを教えたリック・グレッチがフィドルで参加したブリティッシュフォーク風の「ファクトリー・ガール」、デラニー&ボニーにインスパイアされたと思われるゴスペル風のドラマチックな「地の塩 (原題:Salt Of The Earth)」など、どれもすごい曲ばかり。ひょっとしたら、本作がストーンズ最高のアルバムかもしれない…などと思ったりするぐらいの完成度の高さである。

また、本作のセッションはブライアン・ジョーンズが参加した最後のもので、ここではスライドギターをはじめ、マウスハープ(特に素晴らしい!)、シンセ、シタールなど、心身の不調を感じさせない冴えたプレイを披露している。

本作からストーンズはルーツロック系の道を進み始めることになるのだが、次作『レット・イット・ブリード』(‘69)では、レオン・ラッセルやライ・クーダーといった本物のアメリカのミュージシャンたちと共演し、アメリカーナ路線に磨きをかけていく。要するに、70年代のストーンズサウンドが確立されていくわけだが、その出発点となったのが68年リリースの『ベガーズ・バンケット』という傑作なのである。

TEXT:河崎直人

アルバム『Beggars Banquet』1968年発表作品
    • <収録曲>
    • 1. 悪魔を憐れむ歌/Sympathy For The Devil
    • 2. ノー・エクスペクテーションズ/No Expectations
    • 3. ディア・ドクター/Dear Doctor
    • 4. パラシュート・ウーマン/Parachute Woman
    • 5. ジグソー・パズル/Jig-Saw Puzzle
    • 6. ストリート・ファイティング・マン/Street Fighting Man
    • 7. 放蕩むすこ/Prodigal Son
    • 8. ストレイ・キャット・ブルース/Stray Cat Blues
    • 9. ファクトリー・ガール/Factory Girl
    • 10. 地の塩/Salt Of The Earth
『Beggars Banquet』(’68)/THE ROLLING STONES

OKMusic編集部

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