ロックのインプロビゼーションを極め
た、クリームの『Live Cream Volume
2』

エリック・クラプトン、ジャック・ブルース、ジンジャー・ベーカー、この3人の天才たちが在籍したスーパーグループがクリーム。活動期間はたった2年、残し6枚のたアルバムうち、3枚が解散後にリリースされている。今回紹介する『Live Cream Volume 2』は彼ら最後のアルバムで、解散から4年も経ってから発売されたライヴ盤だ。本作は、それまでのアルバムでは分からなかった、クリームの即興演奏の真髄がぎっしり詰まった名盤だと言えるだろう。

外タレ公演が増え出した70年代初頭

今でこそ、海外のミュージシャンが来日することは当たり前になっているが、僕が中学生になった頃(1970年)はそうではなかった。外タレのライヴを観に行くチャンスが少ないだけに、来日公演があると何でも観に行った人が結構いた時代である。
当時の資料を見ると、1971年からロック系の来日公演が急に増えている。これは、前年に大阪万博があったので、海外からの人の受け入れに慣れてきたからではないかと思う。本当のところはよく分からないが、2月にブラッド・スウェット・アンド・ティアーズ、B.B・キング、4月にはフリー、6月にシカゴ、7月はグランド・ファンク・レイルロード(これは伝説のコンサートだ)、8月には国内最初の大ロックフェス『箱根アフロディーテ』に参加するピンク・フロイドとバフィ・セント・メリー、9月にはレッド・ツェッペリン、10月エルトン・ジョンなど、すごい勢いである。
ライヴを観に行くチャンスが少なかったから、好きなバンドのライヴ感を味わわうために、自然とライヴ盤を手にすることが多かった…かつては、そんな時代もあったのだ。

スタジオ録音とライヴ録音のインパクト
の違い

当時、多くのロックグループが、スタジオ録音とライヴ録音ではまったく違う顔を見せていた。レコード会社はなるべく万人受けするような音で、多くのリスナーにレコードを売りたいという思惑があっただけに、スタジオ盤はおとなしくポップな仕上がりになっている場合が多かった。特に、ニューロック(1)時代の多くのグループは、年配のレコード会社幹部にとってみれば“爆音好きの頭の悪い不良たち”みたいな感覚であったから、スタジオ盤録音時はレコード会社が管理するプロデューサーが全面的にコントロールしていた。
ミュージシャンたちも、スタジオ録音だけでは自分たちの音楽が表現できないことは認識していたから、その分ライヴで思う存分実力を発揮しようとしたのだろう。何よりそのことは、70年代前後にリリースされた多くのライヴ盤が証明している。グレイトフル・デッドの『ライヴ・デッド』(‘69)、グランド・ファンク・レイルロードの『ライヴ・アルバム』(‘70)、オールマン・ブラザーズ・バンドの『ライヴ・アット・フィルモア・イースト』(‘71)、シカゴの『アット・カーネギーホール』('71)、マウンテンの『暗黒への挑戦』('72)などをはじめとして、ロック史上に残るアルバムがこの頃に多くリリースされているが、これらはスタジオ録音盤と比べて、はるかにノリが良かったし、のびのびとロックしている様子がリスナーにもしっかり伝わった。「ロックはライヴでなきゃ!」というファンが多かったのもうなずけるところだ。
そんな中にあって、クリームの『ライヴ・クリーム・ボリューム2』(‘72)は、他のグループのライヴ盤よりもすごかった。何がすごいのか、その理由は当時分からなかったが、クラプトン、ブルース、ベーカーのリスナーを威嚇するようなパフォーマンスは空前絶後であった。口コミで本作のすごさは伝えられ、周りの友達はクリームのファンでなくても全員このアルバムを持っていた。また、本作に鼓舞されてバンド活動をスタートした奴も多かった。ちなみに僕もそのひとりだが、とにかく毎日毎日このアルバムばかり聴き狂っていたのだ。

メンバーの確執

後になって知ったことだが、クリームはメンバー同士の激しい仲違いで68年11月に解散している。で、本作で使われたライヴは68年3月と10月に収録されたもの…ということは、さっき“リスナーを威嚇するようなパフォーマンス”と書いたが、この時はメンバー同士が本当にそれぞれを威嚇しながらの演奏だったのだ。3人の演奏は最高にパワフルで、このスピード感と重量感は後のハードロックの手本になったし、フリージャズにも通じるそれぞれのインプロビゼーションの技術は、ロックの在り方を大幅に変革するものでもあった。本作の圧倒的な成果が、3人の険悪な状態から生み出されたものだとすれば、グループ仲が悪いほうが良い音楽ができるんじゃないかと言いたくなるね。

本作について

収録曲は全部で6曲、前作の『ライヴ・クリーム』(‘70)がブルース中心のマニアックな仕上がりであったのに対して、本作はクリームの代表曲をほぼ網羅していると言えるだろう。ほぼと書いたのは、ここに『クリームの素晴らしき世界』(’68)所収の「クロスロード」「スプーンフル」(どちらもライヴで、本作収録の「Tales of Brave Ulysses」「Steppin' Out」は同日録音)の2曲が収録されていれば完璧なアルバムになったはずだ。
演奏については、最初から最後までパワー全開で、まさにバトルが繰り広げられている。そもそもクリームは天才ミュージシャン3人によるインプロビゼーションの応酬こそが最大の特徴で、ライヴでなければその真髄は味わえない性質であったことは間違いない。しかし、それが分かっていても、本作のスリリングさは想像以上で、これまでのロックの歴史に前例がないぐらいの凄まじさなのだ。
3人の確執ですら充実したプレイへと昇華できる卓越した3人の力量は、この後のロックの“即興を軸にした楽器演奏中心”という方向性を示唆し、ジェフ・ベック・グループ、レッド・ツェッペリン、グレイトフル・デッド、オールマン・ブラザーズなどに、その演奏スタイルは受け継がれていく。ただ、エリック・クラプトンは、すでにザ・バンドの『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』(‘68)に衝撃を受け、自分の即興演奏に限界を感じ始めており、クリーム解散後はレイドバックしたアメリカ志向の音楽を目指すことになる。
それにしても、本稿を書くためにアルバムを聴き直してみたが、今聴いても古さはまったく感じず、やっぱり最高のライヴ盤だと再認識した。これがロックだ!

著者:河崎直人

OKMusic編集部

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