スライドギターの概念を変えた
デビッド・リンドレーの
『ウィン・ジス・レコード』は
時代に左右されない作品だ

『Win This Record』(’82)/David Lindley
スライドギターとスティールギター
通常、スライドギターはボトルネック奏法とも呼ばれ、金属もしくは瓶を使って弦にスライドさせて音を出す奏法のこと。もともとはロバート・ジョンソンやサン・ハウスらデルタブルースのアーティストが編み出し、その後マディ・ウォーターズやエルモア・ジェイムズらアーバンブルースのプレーヤーが、エレキに合ったサウンドを模索しながら進化した。ロック界ではデュアン・オールマン、ライ・クーダー、ローウェル・ジョージ、デレク・トラックスらがブルースのスライド奏法をアレンジし、ロックに合った弾き方を生み出している。
一方で、ハワイアンスティールと呼ばれる、スライド奏法でのみ使えるハワイアン音楽専用の楽器が30年代に登場し、天才スティールギタリストのソル・ホーピーによってジャズと結び付きながら独特の進化を遂げる。戦前にはラテン、ハワイアン、ブルース、スウィングジャズなどをミックスした元祖アメリカーナ音楽とも言えるウエスタン・スウィングに使われることで、ハワイアンとは違うアメリカ本土のスティールギター奏法が生まれる。これがカントリー音楽で使われるようになると楽器の改良が進み、ペダルスティールギターが開発されるなど、ブルースのスライド奏法とは違うイディオムが誕生する。
ブルースルーツのスライドと
カントリールーツのスライド
リンドレーはラップ・スティールを使って強いディストーションの掛かったロングサステインのサウンドを創り、ブルースでもカントリーでもないロックのスライド奏法を編み出した創始者である。そのプレイは実に繊細かつ大胆で、彼のフォロワーは次々に現れるのだが、未だ彼のように琴線に触れる演奏をする者はいない。