コロナ禍の今、再び脚光を浴びる
レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン
の鮮烈なデビューアルバム
『レイジ・アゲインスト・
ザ・マシーン』

『Rage Against the Machine』(’92)/Rage Against the Machine

『Rage Against the Machine』(’92)/Rage Against the Machine

90年代に登場した多くのオルタナティブロッカーの中でも、群を抜いて独創的なギターワークを披露したトム・モレロ。彼の破格のプレイがレイジ・アゲインスト・ザ・マシーン(以下、レイジ)の反体制としての姿勢を際立たせたのは間違いないだろう。コロナ渦で全世界が苦しむ中にあって、アメリカでは弱者に対して牙をむくトランプ大統領の悪政が繰り返されているせいか、デビューアルバムに収録された「キリング・イン・ザ・ネーム」が今年6月になってビルボードチャートで21位になるなど、レイジの音楽に再び注目が集まっている。そんなわけで、今回は92年にリリースされたレイジのデビューアルバム『レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン』を取り上げる。

トム・モレロのバックボーン

レイジが登場した時、ヘヴィメタルのグループを思わせる重低音サウンドと、反体制の過激な歌詞をラップに乗せるスタイルが大いに受け、ライヴ会場はいつもカオスとなった。中でも目を引いたのがトム・モレロの多彩な音を駆使したギタープレイで、彼はフィードバックやタッピングといった従来からある奏法に加えて、エフェクターを多用することで数え切れないほどの重層的な音色を生み出していた。

モレロはジミー・ペイジとトミー・アイオミに影響を受け、自分のギタースタイルを作り上げたとインタビュー等で語っているが、2013年にリリースされたウディ・ガスリーの生誕100年を記念したトリビュート作品『Woody Guthrie At 100 ! Live At The Kennedy Center』(CD & DVD)にも、ライ・クーダー、ジャクソン・ブラウン、ジョン・メレンキャンプ、ランブリン・ジャックらとともに参加しており、生ギター1本でウディ・ガスリーをカバーしている姿を見ると、フォークリバイバルに影響を受けたインテリ(実際、モレロはハーバード大学卒)のフォークシンガーにしか見えない。モレロは思想的にもガスリーの影響を受け、レイジの音楽を構築していったのだろう。彼の音楽的および政治的なバックボーンはフォークリバイバルにもあるようだ。

ちなみにウディ・ガスリーは反体制のシンガーソングライターで、ボブ・ディランやランブリン・ジャック・エリオットをはじめ、後のアメリカのフォーク、ロック全体に大きな影響を与えた巨人である。

オルタナティブ・メタル
(ファンク・メタル、ラップ・メタル)

レイジの音楽はヘヴィメタル+ラップのようにも聞こえるが、王道のヘヴィメタグループと比べると意外に単純なリフの曲は少なく、リズムは明らかにファンクからの影響が大きい。アメリカ西海岸産のグループで言えばロリンズ・バンドやレッチリ、ラッパーのアイス・Tやアイス・キューブらの影響が大きいと思われる。

ヘヴィメタルとファンクがミックスされるのは、80年代にフィッシュボーン、リビング・カラー、バッド・ブレインズなど、それまではほとんど存在しなかった黒人ロックグループが参入するようになってからのことだと思う。そして、黒人音楽の世界でラップが登場すると、今度は白人がラップを取り入れるようになり、ロックはどんどんオルタナティブ化していく。92年頃はまだそういった音楽は散発されているにすぎず、ファンクメタルとかラップメタルという言葉はなかったはず(そう記憶している)であるが、レイジの登場によってそれらの音楽が明確に認識されるようになり、オルタナティブメタルという概念が現れることになる。

OKMusic編集部

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