まさに英国の華と言いたくなる、
レスリー・ダンカンの
珠玉の歌を覚えていてほしい
類まれなソングライティングの才と
天性の歌唱力、センス
いかにも英国女性シンガーらしく、しっとりと湿り気を帯び、けっして明るく弾むことはないものの、母性を感じさせるような、強さと包容力のある彼女の声。その歌に触れていると、品の良さそうなルックスと相まって安楽な場所へ深く、導かれるような気になったりする。ソングライティングには伝統音楽(トラッド)やフォークからの影響も少なからずありそうだ。一方でアトランティックやモータウンをはじめ、ブラックミュージック、R&Bの影響も色濃く、その豊かな音楽性には目を見開かされる。驚かされるのは、彼女はアルバムの全曲を自身で書いている。エルトンが「英国のキャロル・キング」と称えたのも頷ける。また、低音気味の声質が幸いしたと言うべきか、ソウルっぽいヴォーカル、コーラスを取らせると、ゆるやかなグルーヴを感じさせる黒っぽい喉を聴かせるところも魅力かと思う。
レズリー・ダンカン1943年にイングランド北東部ダラム州にあるストックトン=オン=ティーズ という町で生まれている。北海に面した港湾都市だ。年齢的にはビートルズのメンバーとほぼ同年代(ジョージ・ハリスンと同い年)で、おそらくはレスリーもティーンエイジャーあたりから音楽に夢中になっていたのだと思われる。ロックンロール、ドゥー・ワップ、スキッフル、R&B、ソウルミュージックといったところだろうか。そして、彼女は顔に似合わず、大胆な行動に出る。14歳で学校を辞めてしまうと、19歳の時にロンドンに出て、カフェで働きながらソングライティングを始める。やがて音楽出版社に雇われるようになり、シンガーとしての能力も認められ、EMIと最初のレコーディング契約を取りつける。このあたりは、まさに英国版キャロル・キングそのものである。その頃に映画『ホワット・ア・クレイジー・ワールド』に出演しているという情報があり、モッズの匂いたっぷりの、スウィンギングロンドンを先駆けるような映画のクリップを必死でチェックしたのだが、これがレスリー…という確証を得る姿は判別できなかった。