世界中でボサノヴァブームを
巻き起こすきっかけになった
“イパネマの娘”を聴きながら
アストラッド・ジルベルトを偲ぶ
ジャズ史に残るボサノヴァと
クール・ジャズのコラボ作
また、アルバム8曲中、6曲までジョビンが書いている。曲の素晴らしさはもちろんだが、随所で聴ける彼が弾くピアノのリリカルな響き、タッチも特筆もの。やはりこの人は天才かもしれない。もう1曲あるアストラッドがヴォーカルをとる「コルコヴァード」もいい。素人っぽく聴こえるが、よく注意して聴くと、なかなか彼女は音程もしっかりしていて、実は上手い。この曲はこれまた同時期にあのマイルス・デイヴィスがアルバム『クワイエット・ナイト』(’62)で取り上げていて、ギル・エヴァンス・オーケストラをバックにマイルスの奏でるトランペットがたまらなく美しい。これも「必聴!」とお勧めしておく。ジョビンの傑作曲のひとつに数えられるだろう。
それから主役のもうひとり、スタン・ゲッツの深みのあるテナー・サックスがまたいい。40年代から第一線で活躍しているプレイヤーだが、この人は壮絶なアル中、麻薬中毒の地獄をくぐり抜けてきた人だった。すでにアルバムも数多く発表していたが、このアルバムを制作する前年にチャーリー・バードとジャズ・サンバに挑んだのを皮切りに、ブラジル音楽に接近すると、これが相性が良かったというのか、高い評価を受け、グラミー賞、ゴールドディスクを獲得するなど、ついに彼にスポットライトが当てられるようになった。そのタイミングで企画されたジョアンやジョビンとのレコーディングだったのだが、このアルバムでのゲッツのサックスは冴え渡っていて、文句のつけようがない。このコラボレーションの成功を受け、ゲッツ/ジルベルト名義でライヴアルバム『ゲッツ/ジルベルト#2』(’64)、また『ゲッツ/ジルベルト・アゲイン(原題:The Best of Two Worlds)』(’75)というアルバムも作られている。