エクスペリメンタルロックの
ひとつの完成形となった
ヘンリー・カウの名盤『不安』
本作『不安』について
収録曲は全部で8曲。前半の4曲は譜面に書かれた作曲で、後半の4曲はスタジオに入ってから即興で組み立てられている。これは最初から考えられたものではなく、曲作りがアルバム制作までに間に合わなかったという単純な理由なのだが、結果的にヘンリー・カウの即興性がしっかりと味わえる仕上がりになっており、その完成度はとても高い。
いろいろな要素を詰め込みすぎて雑然としていた感のある前作と比べると、構成はより複雑に、演奏はよりシンプルになっている。冒頭の変拍子ファンク「ウルムを覆うサンカノゴイ鳥の急襲(原題:Bittern Storm Over Ulm)」での高テンション、続く美しい「半眠半醒(原題:Half Asleep; Half Awake)」のドラマ性、12分以上にもおよぶ圧倒的な名曲「廃墟(原題:Ruins)」など、複雑な構成の曲は少なくないが、何度聴いても新たな発見がある。後半のスタジオでの即興部分も、彼らのフリーインプロバイザーとしての面目躍如たる名演揃いで、緊張感に満ちた仕上がりになっている。彼らの音楽が、本作以降のロックやジャズにもたらした影響は計りしれない。
TEXT:河崎直人