バーバンクサウンドの影の立役者、
ロン・エリオットが残した、
唯一のソロ作
『キャンドルスティックメイカー』は
隠れた名盤
豪華セッションメンが名を連ねる、
たった1枚だけのソロアルバム
惜しむらくは、おそらく発表当時でも、もう少し曲数を増やしてもいいのではという意見があったのではないか。トータルで30分程度という収録時間はさすがに物足りない。もう少し聴きたいという不完全燃焼なものを感じる。1969年という時代性も考慮しつつ客観的に見て/聴いても、これはやっぱり売れなかっただろうと思う。実際、セールス的には惨敗だったらしい。過去のボー・ブランメルズ時代のアルバムなど聴くと、その経験と才能を持ってすればシングル向きの曲も作れたと思うのだが、正直言って本作からシングル曲は選べなかったのではないか。ラジオでオンエアされそうな曲があるかどうかも微妙だ。所属レーベルのA&Rマンも、アルバムをどうプロモーションすればいいのか分からず、困惑しただろう。だからと言って駄目だとは思わない。随所にロン・エリオットの才気は感じられるし、バーバンクサウンドを感じさせるカラーもある。エリオットもレコーディングに参加している、これまたバーバンクサウンドの名盤とされるヴァン・ダイク・パークスの『ソング・サイクル(原題:Song Cycle)』の凝りに凝った、ある意味難解とも思える実験的な楽曲、サウンドに比べれば、より明快で分かりやすいつくりなのだが。
まったく正当な評価もされることなく、本作はあっと言う間に市場から消えてしまったらしい。それはそうだろう…と納得してしまう一方、どこか気持ちのすみに引っかかってしまう。マニア向け、と言ってしまったらそれまでだが、捨てがたい魅力のあるアルバムなのだ。
この結果にはさぞかし彼も落胆したのだと思うが、根気良くもう少しソロアーティストとして何枚かアルバムを作ってみても良かったんじゃないか? ところが、ロン・エリオットはあっさりソロでの活動に見切りをつけてしまう。以降は1973年にパン(Pan)、その翌年にはジャイアンツ(Giants)というバンドを組み、それぞれアルバムを1枚ずつ残しているのだが(マニアが血眼で探す超レアアイテムとなっているらしい)、内容の良さとは別に、いずれもヒットには縁遠く、やがてロン・エリオットの名はほとんど聞かれなくなってしまう。
1984年にリリースされたドリー・パートンのアルバム『ザ・グレート・プリテンダー(原題:The Great Pretender)』にロン・エリオットがほとんどの曲でエレキ、アコースティックギターで参加していることが分かっている。これが目下のところ確かな消息としては最新のものになる…。亡くなったという報せは目にしていない。現80歳、今はどうしているんだろう?
※動画サイトを漁ってみると、ペダルスティール奏者として同名の人物がいる。ライ・クーダーとも共演しているバディ・エモンズと交流があるプレイヤーで、卓越した技量の持ち主らしく『Pure American Steel』というアルバムも残しているのだが、当人がここで紹介しているロン・エリオットと同一人物なのか確証が得られていない。メールで問い合わせできればと調べてみたが、それも叶わず。情報をお持ちの方がいたら、お知らせください。
ソロキャリアとして、たった1枚しかアルバムを残さなかったロン・エリオット。その珠玉のバーバンクサウンドが詰まった傑作『キャンドルスティックメイカー』。地味ながら、ぜひ聴いていただきたい1枚です。アルバムが楽しめて、目立たない中に巧みなギターワークを感じ取れたら、あなたもなかなかの数寄者かも。
TEXT:片山 明