ストレートなハードロックで
勝負したカクタスの
傑作デビュー盤『カクタス』
本作『カクタス』について
収録曲は全部で8曲。ロックのアーティストにも信者が多いジャズミュージシャンのモーズ・アリソンの代表曲「Parchman Farm」と、ブルースミュージシャンで名プロデューサーとしても名高いウィリー・ディクソン作「You Can't Judge a Book by the Cover」の2曲以外はメンバーによるオリジナルである。リードヴォーカルとマウスハープは、ラスティ・デイが担当しているが、ボガートもアピスも歌は上手いのでコーラス面で大きな役割を担っており、それがブリティッシュのハードロックグループにはあまり見られないカクタスの大きな魅力のひとつでもある。
1曲目の「パーチマン・ファーム」はカクタスの十八番として知られる怒濤のようなブギナンバーで、特にボガートのうねりまくるベースは圧巻。続くスローナンバーの「My Lady from South of Detroit」とサザンロックテイストの「Bro. Bill」はアメリカのグループでないと醸し出せないアーシーさがあり、後のB.B&Aにも通じる雰囲気を持っている。ハードロックンロールの「Let Me Swim」やアピスのドラムソロが入る「Feel So Good」は、明らかにツェッペリンを意識している。3連のブルース「No Need to Worry」はマッカーティのブルースフィールにあふれたギターが中心であり、シャッフルの「Oleo」では、ボガートの音を歪ませたベースソロが入る。
各楽曲はバラエティーに富み、最後まで飽きさせない構成になっている。カクタスはシングルヒットを狙うより、一枚のアルバムを通してメンバー間の緊迫した真剣勝負を聴かせるということに重きを置いたのかもしれない。彼らはこの後も2作目の『ワン・ウェイ…オア・アナザー』(‘71)、3作目の『リストリクションズ』(’71)まで徐々にバンドとしての整合性を高め、デビュー作に勝るとも劣らない秀作をリリースし、アメリカン・ハードロックのリーダーとして多くの後進グループに影響を与えることになるのである。
僕は、非の打ち所のない整ったサウンドを聴かせるグループが多い昨今のポピュラー音楽界のなかにあって、メンバー内の誰が目立つかという、ある意味で我の強い異種格闘技戦を繰り広げるカクタスという不器用なグループの在り方こそがロック本来の姿ではないかと思う。
TEXT:河崎直人