Editor's Talk Session

Editor's Talk Session

【Editor's Talk Session】
今月のテーマ:
ライヴバンドが感じた
有観客ライヴの違和感

音楽に関するさまざまなテーマを掲げて、編集部員がトークセッションを繰り広げる本企画。第23回目は、今秋より2マンツアーを予定しているバックドロップシンデレラの豊島“ペリー来航”渉(Gu&Vo)とオメでたい頭でなによりの赤飯(Vo)をゲストに招き、コロナ禍での有観客ライヴの在り方や違和感を語ってもらった。昨年8月に実施した第9回にも登場してくれたふたりは、この一年間で何を思ったのだろうか?
【座談会参加者】
    • ■豊島“ペリー来航”渉
    • バックドロップシンデレラのGu&Voであり、ライヴハウス池袋LIVE GARAGE Admの店長。世界の民族音楽が好きでウンザウンザを流行らせようとしている。
    • ■赤飯
    • 日本一オメでたい人情ラウドロックバンド“オメでたい頭でなにより”のヴォーカル。サウナ、ホラー映画をこよなく愛する男。
    • ■石田博嗣
    • 大阪での音楽雑誌等の編集者を経て、music UP's&OKMusicに関わるように。編集長だったり、ライターだったり、営業だったり、猫好きだったり…いろいろ。
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    • ■千々和香苗
    • 学生の頃からライヴハウスで自主企画を行ない、実費でフリーマガジンを制作するなど手探りに活動し、現在はmusic UP's&OKMusicにて奮闘中。
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    • ■岩田知大
    • 音楽雑誌の編集、アニソンイベントの制作、アイドルの運営補佐、転職サイトの制作を経て、music UP's&OKMusicの編集者へ。元バンドマンでアニメ好きの大阪人。

今まで通りのライヴとは
そもそも内容が違う

千々和
おふたりには昨年8月にも“配信ライヴが今後のシーンにもたらすもの”というテーマで『Editor's Talk Session』に参加していただきました。前回は配信ライヴにスポットを当ててお話してもらいましたが、少しずつお客さんも入れられるようになり、今では有観客と配信の両方を実施しているイベントに出演されることもあるかと思います。コロナ禍以前に少しずつ戻ってきている感覚や、新しいライヴのかたちとしての手応えはあるのでしょうか?
豊島
当時は配信ライヴしかやれることがなかったので、配信ライヴをやっていたんです。お客さんを入れられるようになってもキャパシティーの制限がありますし、ご時世的にこられない方が多いことを踏まえて配信ライヴも並行してやっているアーティストが多いと思うので、新しいかたちだとは思っていますね。ただ、手応えというのはどうなんでしょうね。今の有観客ライヴはコロナ禍前とはまったく違ったものなので、ソーシャルディスタンスしかり、声出しNG、ダイブやモッシュ禁止などの制約があるから、以前のライヴとは演奏する側としても変わってきています。だから、そこに対して“これはいけるぞ!”という感覚は有観客が復活した当初は感じられませんでした。配信では地方の方にも喜んでいただけたので、そういうところではありだと思ってはいますが。
赤飯
手応えはまったくないですよ。渉さんがおっしゃったとおりで、配信には配信の良さがあったものの、数回やった時点でお客さんも我々も“これは違うな…”って気づいちゃっていましたね。だから、オメでたい頭でなにより(以下、オメでた)は自分たちから配信ライヴをやることはないと思います。だからって、有観客でできても今までどおりのライヴとは内容が違いますし、“これでなんとかやっていけるぞ!”という手応えは微塵もなくて。もっと具体的な話をすると、そもそもライヴにくる人の絶対数が減っています。仕事柄どうしても行けないとか、家族に止められているだとか、そういう理由もあると思うんですよ。ライヴを生業にしている立場の人間からしたら、引き続き厳しい状況が続いているというのが現状です。
千々和
前回お話をうかがった時は、意気消沈している状態だとおっしゃっていましたが、そこから変わったところはありますか?
赤飯
メンタル面で言うと、その時よりは少し前を向けている気はしますけどね。絶望的にはなっていなくて、多少ポジティブな気持ちでいようという感じなので、ギリギリ均衡が保てています。有観客でライヴをやったことで、ライヴが好きなお客さんの姿を見て気持ちと時間を共有できたから、なんとか踏ん張ろうという気持ちになれました。
石田
有観客ライヴをやっているバンドに話を訊いたら、今の状況をポジティブにとらえるようにしていると言っていて。例えば、最前列であってもモッシュバンドを棒立ちの状態で観れるのはこの期間しかないんじゃないかと。こういう時期だからライヴをしっかりと観てもらおうという、開き直りじゃないですけど、そんな意見もありました。
豊島
そうですね。前向きにとらえればそういう楽しみ方も出てくると思いますけど、それはライヴの本質とは違うと思うんですよ。その期間が半年や一年くらいで終わってくれるなら、“この期間は我慢して、今の状況を楽しむのもいいよね”と話すのは分かるんです。でも、その期間がだいぶ長くなってきているので、“ずっとこのままかも”という感情が生まれてくる部分もあるじゃないですか。もともとお客さんたちは棒立ちで観たかったわけじゃないと思うので、そこは僕たちがやりたいライヴの本質とはかけ離れていると思ってしまいますよね。ネガティブに考えているわけではないですが、現状は厳しいと言わざるを得ないです。
石田
あと、セットリストをテクニック重視など、魅せる、聴かせるものを中心としたものにシフトしていったという話も聞きますね。
豊島
それは少なからずバックドロップシンデレラ(以下、バクシン)もありましたし、バクシンの課題だとも思っています。こういう状況でどれだけライヴの魅力を出していけて、伝えていけるかという点で、バンドの新たな力量が試されているというか。なので、そこに対しては僕たちも行動をしているんですけどね。
岩田
お客さんもソーシャルディスタンスを保った会場の雰囲気や、声を出せない中での楽しみ方など、コロナ禍でのライヴを理解してきていると思います。最近はバンド側が映像を駆使して工夫しているライヴも見受けられるのですが、演出などで挑戦されていることはありますか?
赤飯
声が出せないということで、お客さんがリアクションをするためのアイテムをアーティストはいろいろ考えていると思うんです。オメでただったら笑い声が出るボタンを来場者全員に配布をして、それを声の代わりに鳴らしてもらうという施策をしたりしました。他のアーティストも音を鳴らしてもらうなど、いろいろ施策はやっていたと思うんです。だけど、ライヴは声を出してなんぼみたいなところがありますからね。だから、“寸止め”をくらっているような感じなんですよ(笑)。
豊島
確かに(笑)。僕たちも声を出せないからハミングで歌ってくれとか、手拍子で応えてくれとか、身体を振れない程度に揺らして楽しんでほしいみたいなことは推奨していて。それが今の状況の魅せ方なんだと思います。ただ、自分で言うのもなんですが、めちゃめちゃ苦し紛れというか…子供騙しなんですよね。正直言って、こっちもやっていて“なんだかな…”と思う部分がありますし、そういうことを僕はライヴで言っちゃったりしているんですけど(笑)。だから、結局のところそういう苦し紛れなことをやっても、僕らが頑張ってやってきていたライヴの本質とはかけ離れていて。それが半年や一年の期間限定だと分かっていれば楽しめるんですけど、この状況が続いて“これがライヴです!”と言われてしまうと、今後の身の振り方を考えてしまいますよね。“こんなこと一生やってらんねぇよ!”って。
石田
ファンによってはライヴデビューがコロナ禍でのライヴというのもあるでしょうしね。初めて体験したのが今の形式で“これがライヴなのか”と思ってしまうかもしれない。
豊島
ライヴ初体験の人もいるでしょうけど、コロナ禍だと分かって来ているから、そこは分かってるんじゃないですかね(笑)。
石田
まぁ、そうですけどね(笑)。でも、もみくちゃのライヴを体験したことがないという人は出てきますよね。
岩田
私も個人的にはもみくちゃになるライヴのほうが好きだし、サークルの中に入って走り回って楽しむのも好きなので、そういうライヴの楽しみ方を知らない人が出てくるとなると寂しさもありますね。
赤飯
自分もそこに感動を覚えて、その楽しみを多くの人に知ってもらいたいという気持ちでバンド活動もライヴもやっているので、やっぱりもどかしいです。この前も『Tokyo Calling』に出演した際、こっそりフロアーでバクシンさんのライヴを観ていたんですよ。久しぶりにフロアーでライヴを観たんですけど、お客さんと同じ目線で観た時に“本当やったらここでみんなで肩を組んで一緒に踊ったりするのになぁ”とかいろんなことを考えてしまって。ライヴを生で観れている嬉しさと、今までのように盛り上がれない悲しさが混ざって、“お客さんはこんな気持ちになっているのか…”と思うと泣けてきたんです。
石田
先日、オメでたのUSEN STUDIO COASTでの『5周年だョ!全員集合』を観覧したんですけど、それこそ「乾杯トゥモロー」は“バンドもお客さんも大合唱したいやろうな”と思いながら観ていました。どうしようもない物足りなさがバンドにも、お客さんにもあるというか。
赤飯
みんなでアホなことを叫んでなんぼな曲ですからね。だから、こういう特殊な状況をみんなで生き延びていくっていうか、この状況下をひとつのイベントとして長い目で見たら、その光景もエモい状況なのかもとは思いますね。でも、渉さんがおっしゃっているように、これがスタンダードになってしまったら、僕らも廃業宣言をしなきゃいけないかなって。

OKMusic編集部

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