Editor's Talk Session

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【Editor's Talk Session】
今月のテーマ:
それでも世界が続くなら、
最初で最後のレーベル運営に挑戦

2011年結成のロックバンド・それでも世界が続くならが、インディーズレーベル『YouSpica(ユースピカ)』の設立に向けて準備をしている。告知なしでリリースしたアルバムが増産を重ねて累計1万枚を超える売上を記録するなど“逆説が今につながっているバンド”である彼らが、今度は解散の危機から這い上がった先でレーベル運営に力を注ごうとしているのはなぜなのか? その背景や現状の考えを、バンドを代表して篠塚将行(Vo&Gu)が語る。
【座談会参加者】
    • ■篠塚将行
    • ロックバンド・それでも世界が続くならのヴォーカリスト。メジャーデビュー以降もライヴにこだわる現場主義。コロナ禍で離職した元ライヴハウス店員。著書『君の嫌いな世界』を出版。
    • ■石田博嗣
    • 大阪での音楽雑誌等の編集者を経て、music UP’s&OKMusicにかかわるように。編集長だったり、ライターだったり、営業だったり、猫好きだったり…いろいろ。
    • ■千々和香苗
    • 学生の頃からライヴハウスで自主企画を行ない、実費でフリーマガジンを制作するなど手探りに活動し、現在はmusic UP’s&OKMusicにて奮闘中。
    • ■岩田知大
    • 音楽雑誌の編集、アニソンイベントの制作、アイドルの運営補佐、転職サイトの制作を経て、music UP’s&OKMusicの編集者へ。元バンドマンでアニメ好きの大阪人。

足りないのは宣伝でも知名度でもない

千々和
それでも世界が続くならは9月末から10月にかけて新レーベル『YouSpica』の設立に向けたクラウドファンディングを実施していて、その概要を読んだのですが、篠塚さんはもともと裏方志望だったんですね。
篠塚
はい。幼少期にピアノを習ったのが僕の音楽を始めたきっかけなんですよ。母子家庭なので“ちゃんとしておかないと”と親が心配してくれて、音楽はめちゃめちゃ多かった習い事の中のひとつでした。物心がついた頃からピアノを習っていたので、バンドに憧れて音楽を始めたわけではなく、気がついたらやっていたものなんですよね。だから、感覚としては“ミュージシャンとして”とか“裏方として”という垣根はあまりなかったと思います。自分にとっての音楽と言えば習い事のクラシックだったのが、当時解散していたTHE BLUE HEARTSやeastern youthに出会って、だんだんと“歌詞のある音楽”に移行していったというか…音だけじゃなく言葉や心のほうにも魅力を感じるようになって、ギターやバンドをやってみたいと思うようになったんです。でも、バンドをやってみて“自分には向いていない”と思ったんですよね。僕はエゴイスティックな部分が極端に少なくて、アーティストにおいて必要かもしれない野心や意欲の部分があまりなかったんですよ。だから、バンドはやりつつも、心の中で“いつか裏方として誰かの音楽を支えていきたい”という気持ちはずっとありました。
石田
それでも世界が続くならの音楽はまさにですが、しのくんって自分の我を出すんじゃなくて…もちろん自身の想いが落とし込まれてはいるけど、誰かのために音楽をやっていますよね。それは根っからそういう意識が強かったのですか?
篠塚
そういうところはあると思います。音楽に自分は投影されるけど、自分だけのために何かをすることの罪悪感みたいなものがありますし、根本的に勇気がないんです。僕は「極力ミュージシャンでいたくない」というか、自分がミュージシャンだとは言わないようにしていますし。
千々和
それでも世界が続くならがインディーズで出した1stアルバム『彼女の歌はきっと死なない』(2012年2月発表)と2ndアルバム『この世界を僕は許さない』(2012年9月発表)が1,000円だったのが印象に残っているんですけど、9曲入りだから2,000円でも売れるはずなのに、ミュージシャン然とした売り方をしていなかったなと。
篠塚
あの頃の僕って、常識を疑いすぎて極端な発想でしたからね(笑)。“CDは記念になっちゃいけない”と音楽業界では言われていますけど、メンバーにも“これは記念だ”と言っていましたし。僕はミュージシャンになれるとは思っていないので、「これは記念で、あくまでも自分たちの思い出であって、売れるとか売れないとかは関係ない」と。だから、当時はフライヤーを一枚も刷らずにリリースしたんです。なのに、発売前日に用意していた1,000枚のCDが全て売り切れて、そのあと追加しても売り切れて…累計で1万枚くらい出たんです。すごい驚きましたけど、そこには「こんな何もかもドロップアウトして何もしなかったバンドのCDを買ってくれた人がいる」という現実があったんですよ。これは“音楽リスナーは製作者が思っている以上に、いかに見る目があるか”っていう話なんですけど、確か、その頃ってライヴの動員はふたりとか3人だったと思うんです。つまり、ライヴを観たことがないのに“なんだこれ?”って買ってくれた人がいる。僕たちが思っている以上にリスナーは音楽を聴いていて、ちゃんと自分の目と耳で判断しているんだなと。バンドマンが売るための小細工を考えているその横で、リスナーは自分の耳で聴いた上で判断して、実は単純に「好みじゃない」から買っていないだけだと思うんですよ。ライヴハウスでのバイト時代に“売れるにはどうしたらいいか?”と若手のバンドに相談されることがあったのですが、必要なのは小細工じゃないと思うんです。“足りないのは宣伝でも知名度でもなく、そもそも音楽ないんじゃないの”って思うことは多かったです。音楽家なら音楽こそが本質ですし、伝わらないなら自分の音楽が伝わるようにもっと鋭く尖らせばいいし、“自分の音楽は、まだまだ未熟な部分や伸ばせる部分がある”と思って、音楽や表現や自分自身と向き合って、ひたすら音楽を鋭くすることが本質なのかなと。
千々和
でも、それって音楽を作ったことがある人しか言えないことですよね。
篠塚
そうかもしれませんね(笑)。
石田
バンドマンだからこその言葉ですよ。

OKMusic編集部

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