選曲のエキスパート“ミュージックソムリエ”があなたに贈る、日常のワンシーンでふと聴きたくなるあんな曲やこんな曲――今回は、立春(4日)にぴったりな“春待ちソング”をお届けします。

1.「さよならバイスタンダー」/YUKI

●開花前の力を蓄えている状況を応援するような、美しく力強い曲。
「さよならバイスタンダー」は、2017年2月1日発売の最新曲です。ソロデビュー15周年第一弾としてリリースした作品で、アニメ「3月のライオン」のオープニングテーマにもなっています。
疾走感あふれるサウンドに、傍観者(バイスタンダー)に別れを告げて、新しい世界に飛び立とうとする歌詞に勇気をもらえます。そして、YUKIのしなやかな歌声が、とても美しい。彼女の歌声を聴いていると、少しずつ植物が芽吹き始める早春の空気の冷たさ、といったイメージが湧き上がってきます。開花する前、植物が力を蓄えている時期、ちょうど今の季節によく合います。
歌詞、サウンド、歌声の3つが混ざり合い、美しい世界をつくりながら、がんばって春を待つ人を応援してくれる作品です。
(選曲・文/石井由紀子)

2.「君と僕」/東京スカパラダイスオー
ケストラ

●言葉よりも伝わる、ほっこり、春の予感。
「君と僕」は、口笛とアコーディオンが奏でる2分余りの小品です。愛犬と土手に並んで原っぱを眺めていると、  草の色や陽ざしと空気に、冬の終わりと春が近づいていることを予感する、そんな光景が目に浮かびます。言葉ではうまく言えない、春イコール“ちょっと切ない卒業と、希望に溢れる始まりの季節”の予感。「待ち人来る」のおみくじのように、聴く人の心をほっこりさせてくれます。1990年作『スカパラ登場』収録
(選曲・文/藤原学)

3.「春の声」/ナタリー・デセイ

●ワルツ王が表現した、輝く春の訪れ
『春の声』は、ヨハン・シュトラウスII世が作曲したワルツです。管弦楽版が一般に広く知られていますが、もともとは声楽曲で、春が来た喜びを表現しています。メロディーの美しさと親しみやすさがあり、イントロを聴けば「あぁ、この曲」と思っていただけるのではないでしょうか。
歌唱は、ナタリー・デセイ。細かい音符を高速で歌う超絶技巧を必要とする曲を、余裕をもって軽やかに歌う見事なパフォーマンス。心は一気に春へ向かいます。
(選曲・文/山本陽子)

4.「四月になれば」/森山直太朗

●春生まれのフォークシンガーによる隠れた名曲
森山直太朗さんの代表曲と言えば、オリコン1位に輝いた「さくら(独唱)」ですが、今回は2010年のアルバム『あらゆるものの真ん中で』から「四月になれば」をご紹介します。
春に思いをめぐらせ、待ちわびているかのようでいて、どことなくぶっきらぼうで投げやり。春の歌にしては、少々後ろ向きな印象さえ覚える一曲です。サビで繰り返される〈四月になれば〉〈四月になるさ〉という、どこかやる気のないゆるさもたまらなく魅力的。
人生の期待や不安もひととき忘れて、気だるいフォークソングでのんびり春を待ってみるのも、良いかもしれませんね。
(選曲・文/下森也実)

5.「春よ来い」

●冬来たりなば春遠からじ
昨年末の新潟県糸魚川市大火では、中継される凄惨な映像に全国が震撼しました。糸魚川市はもともとヒスイが有名で、「漬物石まで高値で売れた」という戦前の採掘ブームが報道記録に残されています。
この地のヒスイ埋蔵を、地元の伝承研究から予測していたのが、同市出身の文士・相馬御風(そうま・ぎょふう)。何を隠そう、童謡「春よ来い」の作詞者です。御風はほかにもたくさんの童謡や校歌を手掛けており、作品の多くは今でも歌い継がれています。
雪深きこの糸魚川市のほか、昨年も各地で自然災害が相次ぎました。この冬を辛い環境で過ごされている被災地の、一日も早い復興と暖かい春の訪れを願うばかりです。
(選曲・文/麻布さやか)
さて、お気に召した選曲はございましたか。
ぜひこれを機にCDやレコードなどの音源でも、楽曲をお楽しみいただければ幸いです。

では、また次回。

著者:NPO法人ミュージックソムリエ協会

OKMusic編集部

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