「レナード・コーエンの世界」を知ら
ない人に贈る5曲

選曲のエキスパート“ミュージックソムリエ”があなたに贈る、日常の1コマでふと聴きたくなるあんな曲やこんな曲――。
今回は、先月7日に逝去したレナード・コーエンを「実はよく知らない」という方のために、おすすめしたい5曲を近年の作品を中心にお届けします。
レナード・コーエンは、美しいメロディーに乗せて、暗く哲学的な詩をしわがれ声で呟くように歌う、カナダのシンガーソングライターです。自身の歌声や人生観で悩みを抱えながらも、たくさんの女性を愛し、生き続けた彼の歌には人間臭い魅力があります。

1.「Everybody Knows」/LEONARD COHE
N

●肝心なのはどう行動するか
「さいころの重さが増えているのはみんな知っている、戦争が終わるのはみんな知っている、災いが近づいていることをみんな知っている」――延々と呟かれるあきらめの言葉たちの中に、「肝心なのはどう行動するか」という言葉が挟まれています。ジプシー・ジャズ・ギターとデジタル・ビートに乗って、呟かれるレナード・コーエンの歌はとてもハードボイルド。ちなみにロサンザルスのハード・ロック・バンド、ガンズ・アンド・ローゼズが、ライブでのオープニング・テーマとして採用しており、私がレナード・コーエンを知ったきっかけとなりました。
1988年作『I'm Your Man』収録。

2.「The Future」/LEONARD COHEN

●未来は殺人だ
「兄弟たちよ、未来は殺人だ。」と歌うこの曲も「Everybody Knows」と同様に社会への警鐘を鳴らしており、ヒロシマやベルリンの壁が登場するシリアスな歌詞はより政治色を強めています。オルガン、コーラスが加わったゴージャスで陽気なサウンドから、浮き上がってくるレナード・コーエンの歌(所々ぶっきらぼうな所もいい)。混沌とした未来を表したかのような熱気があります。この曲は、後に映画「ナチュラル・ボーン・キラーズ」(1994年)で使用されます。
1992年作『The Future』収録。

3.「 Show me the place」/LEONARD C
OHEN

●老いてなお苦悩
この曲で歌われる「あなたの奴隷」は神の奴隷なのか、それとも愛する人の奴隷なのか、判別が付きません。この時77歳。老いたレナード・コーエンが道しるべを失い、さまよっている様子が描かれています。ピアノ、キーボード、そしてゴスペル風コーラスに彩られた美しく穏やかなメロディーですが、まだまだ彼は悩んでいます。自国カナダのチャートでアルバムが1位を獲得するなど、世界各国で高い評価を得たレナード・コーエン。2010年代、彼の黄金時代が始まったのです。
2012年作『Old Ideas』収録。

4.「Samson in New Orleans」/LEONAR
D COHEN

●剥き出しの覚悟を音楽が柔らかく包む
「わたしは死と怒りで何も見えなくなっている」「この場所はあなたの為の場所ではない」「寺院を取り壊そう。」といった言葉が並んでいます。死を間近に感じ取りながら、これまで信じてきたものを否定するようなメッセージを発しているレナード・コーエン。もがいている姿を隠そうとはしていません。寂しく感傷的な世界観を、コーラス、オルガン、ヴァイオリンで盛り上げています。
2014年作『Popular Problems』収録。

5. 「If I Didn't have Your Love」/
LEONARD COHEN

●にじみ出る、愛情への感謝
「太陽を失って夜が続いていく世界のように、あなたの愛が無ければ、わたしの人生が自分のことのように感じることが出来なかっただろう。」82歳のレナード・コーエンは、愛情について考えています。医療用チェアに座りながら、息子アダムと相棒であるパット・レナードの助けを借りて生まれた穏やかな歌。直接、ありがとうとは歌わずに思考することで感謝を表しているのがレナード・コーエンらしいと思います。
2016年作『You Want It Darker』収録。
彼の歌詞は複雑で意味深いものばかりで、これが正しいというものはありません。是非、皆さんも歌詞カードを見ながら、音楽と対峙して自分なりの解釈を見つけるほしいと思います。素晴らしい音楽を残してくれたレナード・コーエンに感謝。
(選曲・文/ジェシー芝池)
さて、お気に召した選曲はございましたか。
ぜひこれを機にCDやレコードなどの音源で、偉大なシンガーソングライターの世界を楽しんでいただければ幸いです。

それでは、また次回♪

著者:NPO法人ミュージックソムリエ協会

OKMusic編集部

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