「5人で鳴らせば、Drop’sらしくなる
」期待の女子R&Rバンドがポップセン
スを開花させるまで

(参考:ストーンズは“ロックの果て”まで来た――東京公演を期に振り返るバンドの功績)


・「メジャーの世界に入って、聴く人を意識するようになった」

――2ndフルアルバム『HELLO』は、ブルースロック色の強いものから、昭和歌謡にも通じるポップさを持った曲まで、音楽的な幅の広さを感じさせる力作です。昨年9月の1stフルアルバム『DAWN SIGNALS』からかなり短いインターバルで作り上げましたね?

中野ミホ(以下、中野):はい、ここ一年くらいで仕上げました。

――高校時代に作ってきた曲と比べると、作る曲に違いは出ましたか?

中野:昨年にメジャーデビューをしてから、今までよりも、聴いてくれる人のことを意識するようになりましたね。良い意味での“ポップソング”をつくろうとチャレンジしました。
昨年7月の「太陽」というシングルで、それまでやってこなかったポップソングが周りにちゃんと受け入れられた、という実感を得たんです。自分たちなりのやり方でしたが、よくできたな、と嬉しくて。そこからプロデューサーやスタッフと話し合って、いままでより多くの人に聴いてもらえるような、メロディを大事にしたポップソングを作ろうと意識して仕上げたのが、今回のアルバムにも入っている1st EPの「コール・ミー」という曲です。メロディは、もともと好きだった山口百恵さんとか沢田研二さんとかを参考にして、一昔前の日本の歌謡曲が持っているメロディアスな部分、ポップさを参考にして、自分たちなりに作りました。

――高校時代に作られた曲はかなりブルース色が濃いですが、その部分も残しつつポップソングを完成させるというのは一つの挑戦だったのでは?

中野:そうですね、5人ともロックンロールがすごく好きなので、そこから離れようという気持ちは全然なくて。でもここ1年くらいで、どんなにメロディアスだったりコードが明るかったりしても、自分たち5人で鳴らせばDrop'sらしくなる、という確信、自信がありました。ただ「こうじゃなきゃいけない」という縛りはなくて、自然とやったら今回のような作品ができた感じです。

――『HELLO』の楽曲は、ポップで可愛らしい曲からロックンロールまで幅広いですよね。バンドとして、いま5人の状況はいかがですか?

中野:バンドをはじめたとき、わたし個人は聴き手のことをあまり考えたことがなくて。自分のモヤモヤしたもの、負の感情を吐き出そうっていう意識が強かったんです。当時は高校に行っていたので、その中での制約に対するイライラとか、焦りとか、大人として扱ってもらえないこととか、下らないと思うあれこれとか…。そうしたものを吐き出すような曲をつくっていたのが、メジャーの世界に入って、ライブをして、多くの人に聴いてもらううちにどんどん変わってきて。そうして聴く人を意識するようになってきました。当時から曲は私が作っているので、そうした変化がいま、他のメンバーにも伝わっていると思います。そして、『HELLO』のような作品を出したことも全員が間違っていないって思えているし、その時その時で好きなことをしようっていう気持ちは皆、一緒だと思います。

――かつては“負の感情”を吐き出すことに表現のポイントがあったとすると、今回の『HELLO』ではどんなことを表現したかった?

中野:まず、私はこれまでも今も、自分の生活の範囲内で感じたことを書いていて。以前は怒りとか、下らないと思ったことばかりを歌にしていました。そうした暴力性を伴った音楽のほうが表現しやすかったからというのもあって。それが今は、それよりもメロディにポップさを取り込むことによって、日常にあったハッピーなこととか、何でもないワンシーンを言葉や歌に落とし込めるようになって幅が広がりました。そういう意味で『HELLO』は、本当に今の楽しいことを表現できた作品です。

 曲のアイデアは、街を歩いているときに思いつくことが多くて、実際にあった景色やイメージ、自分の気持ちなどを繋げて書いています。たとえば「コール・ミー」なら、一人で東京を歩いているときに、街の雑踏に埋もれてしまうような、誰かに会いたくなるような寂しさを感じて書いて。東京は、自分は大勢のなかの一人なんだな、という感覚にさせられるけど、いろんな面を持っていてすごく面白い街ですよね。そんな都会で埋もれてしまいそうになる感覚ってみんな持っていると思うので、その思いを、サビでわかりやすく“コール・ミー”と表現しました。ただ今でも、自分のことを100%大人だとは思えないし、“いわゆる大人”に対して思うこともあるし……いろいろな思いがあって作っていますね(笑)。

・「メンバー全員の『かっこいい』と思える基準は揃っている」

――いまも5人のメンバーは全員、札幌在住なんですね。

中野:そうですね。大学に行っているメンバーがいるので、いまは札幌です。月に1回くらい、こうしたキャンペーンの時だけ東京に来ていて、ライブのために日帰りで来ることもあります。そうして往復してみても、やはり練習したり暮らしたりするのには札幌が合っているなとは思います。メンバー間でも、急いで上京しようという話は出てこないし、現時点では、あくまでも札幌を拠点にと考えています。

――曲づくりやレコーディングは、5人の間でどのようなプロセスで行っているのですか。

中野:まず、私が弾き語りの形でスタジオに持っていきます。その時点で大体の構成は考えられているので、それに沿って一度全員でセッションして、ここはこうしたほうが良いとかああした方が良いとかの意見を出し合い、各々のパートでもアレンジしながら合わせていって。意見がぶつかることもありますが、最終的には全員が納得する形で完成します。

――もともと友達関係から始まったバンドですが、プロとしてメジャーデビューをするにあたり、なにか変化はありましたか?

中野:特にはないですね。高校生のときからずっと一緒にやっているので、友達でもあり、でも音楽を作るときは言いたいことを言い合える関係でもあります。だから、私が中心となって物事を進めていても、メンバーからどんどん良いアイデアが出てくるんです。「DRY DRIVE」という曲だとギターの荒谷が作曲したように、いつも全員で話し合って作っていて。みんな好きな音楽はバラバラですが、バンドで合わせるときに「かっこいい」と思える基準は揃っている……そんな関係性です。

――中野さんは非常にパワフルな歌声の持ち主で、日本のロック史の中でもこれほど迫力のある女性ボーカリストは稀有だと思います。“自分が歌える”というのは高校生時代に初めて気づいたんですか?

中野:ありがとうございます。しゃがれた声には憧れがあったんですが、特に意識することなく、バンドを始めて歌い出したら自然と出ました。あと歌い方は今回、試行錯誤しました。さっき言ったような歌謡曲の歌い方って、意外とサラッとしていますよね。前までは自分の感情が高まっていないとダメだというか、それが良いと思って歌っていたんですが、最近、あえてサラッと歌うことで伝わることもあるのかなと思って。だから『HELLO』では、曲によっていろんな歌い方に挑戦しました。

――冒頭の話ともつながるのですが、バンドの演奏を組み立てる上で、ポップなものとブルージーなものを合わせるのって難しいですよね。

中野:それが上手くいったことは、メンバーの力が大きいです。メロディやコード進行は私が作るんですけど、鳴らしてみるまでは正直どうなるかわからないし、鳴らしてみて、それぞれの細かいこだわりとか新しく挑戦したいこととかも出てくるだろうし。サウンドは、全員に任せている部分です。

・「ずっと長く聴き続けられるようなスタンダードを目指したい」

――今の音楽シーンを見ると、80~90年代のロックを志向している若手バンドが多いなかで、Drop’sは60~70 年台初頭のディープなルーツを掘り下げていますね。

中野:そうですね、ただシーンは全然気にしたことはなくて、とにかく好きなことをやっているという気持ちが強いですし、もっとみんなロックンロール聴けばいいのになって思っています(笑)。たとえば札幌には本当にいろんなバンドがいて。ロックンロールの人も多いので、自分らが浮いてるって感じはしないです。

――中野さんがイメージする“ロック”とは。

中野:とにかくストレートなこと、あとメンバーで演奏している姿がかっこいいこと。佇んでいるだけでかっこよくて、いつもブレずに曲を出し続けている人、です。

――今度のアルバムは、バンドとしては、どんな気持ちでリスナーに手渡したいですか?

中野:自分らが2014年の今、こういう音楽をやっているっていうのは間違っていないと思うし、すごく自信があります。だから私たちの音楽をもっと好きになってもらって、ずっと聴き続けられるようになりたいです。

――歌詞は日常風景の一瞬を切り取ったものが多いですね。歌詞を書く上で心がけていることは?

中野:やっぱり、サビはわかりやすくしたい。あとは、景色を思い浮かべるようなものが書けたらいいなとは思っています。季節になって変わる空気の匂いとか、そういうものを感じたときに、歌詞を書きたくなるので。その感じはすごく大事にしています。
言葉の面で影響されたのは、萩原朔太郎の詞。「こころ」っていう詞がすごく好きです。ひらがなをすごく使うし、やさしく見えるけどグサッと刺さるような切なさもあって。歌手なら、はっぴぃえんど。松本隆さんの歌詞はすごく好きです。直接言うのではなくて、景色を描写して伝える感じとかが、すごくきれいだなぁと思います。自分自身も、風景を通して詞を書くことが多いですし。

――アルバムを作り終えて、録り終えたところでメンバー5人の反応はいかがでしたか?

中野:全部がいい曲になったなと思うし、ライブでやるのがすごく楽しみです。とても濃い内容になりました。ラストの曲はもうちょっとバラード寄りの曲で終えようと思っていたんですけど、「かもめのBaby」を最後の方にレコーディングして、録り終えたとき全員が「これ最後の曲がいいんじゃない?」と一致して。想定外だったけど、すごく良い締めくくりになったと思います。

――8月からは全国ツアーもはじまります。

中野:はい、ライブでやって成長する曲もあると思うので、がんがんライブでアルバムの曲をやっていきたいと思います。
曲は、今もちょっとずつ作っていて、詞のアイデアは普段からメモしていて、曲は、作るとなった時にはすごく集中して仕上げるタイプで。今はメンバーが曲を持ってきてくれたりもしますし、これからはどんどん、みんなで作っていきたいと思います。

――バンドとしての目標は?

中野:ずっと長く聴き続けられるようなスタンダードを目指したい。誰かの生活の一部のような、存在感のあるバンドになりたいです。もちろん大きい会場でたくさんの人に聴いてほしい、音源を聴いてもらいたいという思いもあるし、聴き手にとってグッとくるものがあったらいいな、と思います。

――ちなみに、中野さんにとって、人生のスタンダードな作品、バンドとは?

中野:ストーンズの『スティッキー・フィンガーズ』、あとはトム・ウェイツの1stアルバム(『クロージング・タイム』)とか。トム・ウェイツは「ダウン・バイ・ロー」などの映画を見て好きになりました。やっぱり存在感があって、雰囲気や佇まいがかっこいいです。女性ではキャロル・キングが好きですね。ナチュラルで、女性を売りにしているわけじゃないのにすごく女性らしくて、素敵です。(取材:神谷弘一/構成:韓奈侑)

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