林原めぐみ

林原めぐみ

【林原めぐみ インタビュー】
時を重ねるたびに
味わいを増してきた、
デニムのような30年

1991年に歌手デビューし、今年30周年を迎えた林原めぐみが全45曲を収録した3枚組アルバム『VINTAGE DENIM』をリリース。王道アニソン・日常の共感・眠りという3つのテーマで贈られるメッセージには、声優アーティストとして道なき道を切り開いてきた彼女の経験と智慧が惜しみなく注がれ、美しく時を重ねてゆくためのヒントを我々に与えてくれる。

アニメとラジオと文章という
3本の柱が自分の中で見えてきた

『VINTAGE DENIM』は30周年のベスト盤ということで、それぞれにコンセプトを立てたディスク3枚組になっていますが、どういった経緯でこのような形態になったんでしょう?

“今までの30年間を振り返る感じの3枚組ベストを”とキングレコードさんから伝えられたのですが、ここまで長くやっていると私を引っ張り上げたディレクターもすでに会社にはおらず、全部自分で決めなくてはいけなくて、いわば自己プロデュースに近いんですね。ただ、意気込むと空回りしちゃう人間なので、“どういう人に聴いてほしいだろう?”とか“どんなものが喜んでもらえるだろう?”っていうことをフワフワとたゆたうようにずーっと考えていくうちに、アニメとラジオと文章っていう3本の柱が自分の中で見えてきたんです。

ラジオDJとしても、エッセイストとしても活躍されていますからね。

なので、まず1枚目は“do your best”と題して、いわゆるヒットソングと呼ばれるような、みんなの大好きなアニメの主題歌を集めるのは当然であろうと。あとは、ラジオの仕事もアニメと同じくらい長くやっていて、『林原めぐみのTokyo Boogie Night』という番組が1月に1,500回目を迎えたこともあり、2枚目は日常的な曲を集めることにしたんです。選曲に先立ってファンのみなさんに聴きたい曲、入れたい曲を募ったところ、本当にいろんな曲にいろんなメッセージをいただいて! それを全部読んで一回自分の中で煮た結果、失恋の曲や卒業の曲だったり、日常を生きていく上で共感や励ましを与えられるようなテイストのものにしたいと思い、タイトルも“everyday life”とつけました。

さらに3枚目は“good sleep”と銘打ち、眠りに誘うような心地良い楽曲が集められていますが、なぜそういったものにしようと?

自粛期間中は2月に発売した『林原めぐみのぜんぶキャラから教わった 今を生き抜く力』という本をずっと書いていたんですが、そもそも私が歌詞を書き始めたのって、アニメキャラから得たいろんな恩恵をどうにかみんなに返せないかという発想からだったんですね。それをもう少し噛み砕いて“文章”という視点で見ると、文章はそのまま書籍にして発売するし、文章をCDの中に入れるわけにはいかない。“じゃあ、自分は何を訴えたいんだろう?”と考えた時に、眠りの大切さを伝えたいなと。

眠りの大切さ?

はい。自粛中にたくさんYouTubeを観たんですよ。今の子たちが何を渇望しているのかを知りたくて。その中でひとつ引っかかったのが、いわゆるASMRに代表されるような“脳を刺激する音”だったんです。中には眠りに誘うようなASMRもあって、そこに“やっとゆっくり眠れます”とか“今日も寝落ちできます”っていうコメントが寄せられているのを見た時、“えっ、眠るのにも何かが必要なんだ!”って衝撃を受けたんですね。“小さい子供は寝るのが怖かったりもするけど、その感覚が残ってる大人がいるのかな?”とか“パソコンや電子機器にさらされて便利になったけど、結果みんな疲れてるんだなぁ…”と思った時に、3枚目は眠るために聴いてもらえるCDにしようと決めたんです。そもそも寝てる間に見る夢は、現実で為し得なかったことやストレスを一度映像化することにより、自分の脳に整理させる作業だとも言われていて、つまり良い眠りはやっぱり良い明日を生むんですよ! 枕のCMじゃないですけどね(笑)。なので、眠りに誘われるような、ボーッとしながらお茶を飲んでる昼間でも聴けるようなCDを作ろうと、とにかく心地良くて自分を解放できる曲を集めました。なので、13曲目の「集結の園へ 〜AYANAMI ver.~ float mix」なんかは、胎動のようなドラム音を抑えたりして、より柔らかくリミックスしてるんです。

そううかがうと、最後に新曲「おやすみ」が置かれている意味も納得できます。バックの音はチェロのみという究極に音数の少ない、ゆえに心癒される楽曲ですから。

初めての挑戦だったんですけど、“自分の声以外に何が欲しいだろう?”と考えた時にチェロしか浮かばなくて、朗読劇でもご一緒した村中俊之さんにお願いしたんです。しかも、本当は別々のブースで録る予定だったところ、村中さんの提案でテストがてらお互いに向き合って“せーの!”で録ったら、それがOKテイクになったんですよ。それも一発で!

ええ!? すごい!

“どうせテストだし”っていう抜けてる感と、同じ空間で目を見ながらやれたのが良かったんでしょうね。生楽器と一緒に歌って一発OKなんて、30年やってても初めてだったから、まだ開いていない扉はいっぱいあるんだなぁと、すごくいい経験になりました。厳密に言えばピッチが若干ズレているところもあるんですけど、私がそこに乗せたかったのは正確さではないんですよね。“明日がいい日だといいね”っていう気持ちだけはたっぷり込めて歌ったので、その温もりだけ感じてもらえたら嬉しいですし、実際にお子さんが寝ないときに「おやすみ」をループでかけて、お母さんの手抜きにも使ってもらってもいいと思ってます(笑)。実際に寝るかどうかは分からないにしても、パブロフの犬みたいに寝る時間の合図としては使えるとは思うので(笑)。

“開いていない扉はいっぱいある”という素敵な言葉もありましたが、そういった気持ちはDISC2の頭に収録されているもうひとつの新曲「DENIM」にも通じてません?

そうですね。アニメを愛したからできたDISC1、ラジオを愛したからできたDISC2、そして“今”を考察してできたDISC3と、3枚全てを経験してきた自分から言わせてもらえば、いくつになっても悩みは尽きないんですよね。10代は受験や進路のことで悩み、50歳になれば“責任ある立場につけられてどうしよう?”ってなって、決して50代の悩みが重くて10代の悩みが軽いなんてことはない。常に今、目の前にある問題が人生にとっては一番大変だし、全部いつか必ず通りすぎるものなんですよ。壁に直面しても“どうしよう?”“どうすれば?”って真摯に向き合っていけば、きっと助けになるヒントや人に出会える。そういったつながりみたいなものを伝えたくて作った曲なので、特に10代や20代前半の子には1番を、30代以降の人には2番を聴いてもらえたら嬉しいですね。

分かります。Bメロを見ると1番では新しい場所へ飛び出すこと、2番では繰り返しを慈しむことと、真逆のベクトルで綴られていますから。

そうなんですよね。変わっていくものは変わっていくし、変わらないものは変わらないけれど、どっちが良い悪いじゃなくて、どっちも良い。そこでひとつこだわったのが、出だしに“スマホ”というワードを入れたことなんです。「DENIM」の次に入ってる「Tokyo Boogie Night」に“コードレス”っていう歌詞があって、当時は携帯もまだなく、自宅の電話がコードレスになった時代の頃の歌なんですよ。8曲目の「~それから~」には“ポケベル”っていう言葉もあったり、この30年でいろんな機器を渡り歩いてきたので(笑)。今の子たちがバンバン親指で叩いてるスマホだって10年後にはないかもしれないから、今、この時代の文化も切り取っておきたかったんです。

Aメロにはスマホ内の写真を消せない若者の日常も描かれていますが、それだって将来振り返ったら懐かしく感じるでしょうからね。

そうそう。同じような自撮りも消せないっていう欲張りな気持ちって、みんなゆっくり捨てていきながら大人になっていくものだけど、大人になっても捨てきれない感情って必ずあるものじゃないですか。だから、既に年齢を重ねた人でも1番を聴いてノスタルジーを感じてもらえるだろうし、逆に10代の子たちは2番を聴いて、自分が歳を取ったらどうなっていくかっていうところも想像してみてほしいです。

締め括りの《擦り切れたって味と呼ぶの》なんて、特にグッときましたね。さすが、デニム愛好家ならではのフレーズだなと。

良かったです! もう、心が擦り切れようがなんだろうが“味です!”って言える五十路すぎの私っていう(笑)。今回はアルバムタイトルも“VINTAGE DENIM”ということで、ジャケットではスタイリストさんがデニムのドレスを作ってくれたんですけど、ブックレットでは今までに撮影やライヴで使った30着の私物のデニムを着てるんですよ。デニムって硬くてゴワゴワしているからと避ける人もいるけれど、今は部屋着にできるくらい柔らかいジャージデニムもあったりするので、みんながデニムに手を伸ばすきっかけにもなればいいなって。そもそもデニムって、年代問わず愛されてる素材じゃないですか。

確かに!

そこは自分のやっている仕事とも通じるところで、面白いアニメは年齢性別問わず面白いし、30年やってる私のラジオでも“(『名探偵コナン』の)灰原 哀ちゃんが大好きです!”って小学生の新しいファンがハガキを書いてきてくれたりするんですね。この前とか“ラジオ番組をいつもはネットで聴いていて、「ラジオ」で聴いたことがなかったので試してみたら、なかなか電波が入らなくて部屋中をウロウロしました。昔の人はこんなことをやっていたんですね”っていう10代の子のメールを読んで、“今、これを聴いてウルウルしてる30代以上が大勢いるぞ!”と(笑)。そうやって10代から60代までが日常の話題を共有できる番組を続けられているのは、本当にありがたいですね。歳をとるっていうことにマイナスイメージが持たれやすい中、例えば10代の子たちへのアドバイスを40代のリスナーが私よりも上手にしていたりと、非常にいい空間が出来上がってます。
林原めぐみ
林原めぐみ
アルバム『VINTAGE DENIM』
シングル「Soul salvation」

OKMusic編集部

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