日本のエンタメを海外の一線へ送り込
み続ける男『エンタメの今に切り込む
新企画【ザ・プロデューサーズ】第十
五回・原田悦志氏』



それが「The Producers(ザ・プロデューサーズ)」だ。編集長秤谷が、今話を聞きたい人にとにかく聞きたいことを聴きまくるインタビュー。そして現在のシーンを、裏側を聞き出す企画。

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海外への日本のアーティストの進出が増えている昨今、その背中を押す男がいる。多くのアーティストの背中を押し、道を開き、日本の良質なコンテンツを海外へとレコメンドし続ける、原田悦志氏へと話をきくことができた。ザ・プロデューサーズ/第15回原田悦志氏



――「J-MELO」がスタートした2005年は、まだレコード会社も事務所も、海外マーケットに目が向いていなかった時代ですよね?

海外でアニメブームが始まる前だったので、「これは誰が観るの?日系人?」という感じでしたね。「海外プロモーションの必要はないよ」と言われて、ミュージック・ビデオも貸してもらえない状態でした。それでも、企画趣旨と協力のお願いの手紙を書き、全レコード会社に送りました。でも最初の半年間位は視聴者からもリアクションが全くありませんでしたね。

――そんな中、どうしてスタートに踏み切ったのですか?

当時、国際放送では独自の音楽コンテンツがなく、上司が「これから音楽はキラーコンテンツになるかもしれないから、お前やってみろ」と言われたんです。ただスタッフは僕一人で、予算もない、人もいない状況でした。何より日本の音楽を30分の中で毎週伝えるのは大変だと思いましたね。ランキングという手も考えましたが、それだと音楽のほんの一部しか見せることができないので、垂直的な構造ではなくて水平的な構造を思いつき、ノンジャンルでオールジャパンにしようと。ただ当時はそういう番組がなかったので、レコード会社やマネージメントサイドからも番組趣旨をなかなか理解してもらえなかったわけです。

――少ない賛同者の映像だけで、コンテンツを制作していたと。

当時まだWEBはテレビが対立するものだと思われていて、WEBサイトで呼びかけることもできませんでした。でも僕はWEBとテレビは対立するものではなく、補完し合うものだと思っていたので他の「NHKワールド」の番組に先駆けて、まずWEBを充実させました。

――WEBが補完し合う関係に?

世界中の視聴者の声を吸い上げなければいけないという番組の特性もあったからです。日本の音楽番組で、リクエストを下さいと言えばある程度は集まります。でも海外はもっとその意図を明確にしなければいけないんです。英語は主語があって述語があって目的語があって、誰がいつ何をするという時制もあって。「今なの? 未来なの? 」をはっきりさせなければ、きちんと伝わらないんです。だから、WEBを使うことで、それを明確化させる必要があった。そこで上司に直訴して立ち上げました。

――「J-MELO」がスタートした時に、これから海外マーケットに本格的に目を向けていく時代になるのかなと思った記憶があります。

日本の音楽には、世界中の音楽の要素が入っています。僕は雅楽からヒップホップまで、世界の流行音楽がぎゅっとつまっているのが、日本の音楽だと思ってます。ただ一番欠落しているのは、海外のファンの視点です。

――海外ファンの視点ですか?

これまでは、ほぼ100%日本人のために作ってきましたよね。だから海外のファンがどうやって接触してくれるのかとか、どうやって音楽を聴いて、所有してくれているとか、全く考えていないんです。

――その中で、アニメが人気になったのは何故ですか?

日本のアニメがなぜ海外で一部の根強いファンに支えられているかというと、日本の業者が海外に出ていく気がない一方で、現地の人たちが自分たちで市場を作ってしまったからです。それは勝手にコピーして、字幕をつけてという違法行為による「市場」でした。決して好ましいことではなかったけど、それである程度の“ビッグニッチ”と言われている市場ができて、アニメが海外に出ることができたんです。

――日本からの仕掛けではなかったのですね。

そして、アニメに付随しているアニソンも同じくどんどん世界に広がっていった。だから、アニソンが人気といっても全然ポジティブではなく、日本の音楽がアニソンしか聴けない状況だということなんです。それはいまだにそうで、YouTubeで視聴できない曲がたくさんあるし、Spotifyでも半分位しか聴けなかったりする。要は接触も所有もできない。

――アニメを介してでしか、日本の音楽が届いていないと。

アニソンでアーティストを知って、それをきっかけにそのアーティストの他の曲をチェックしたりしているのが現状です。L’Arc-en-Cielだってそうです。世界中の視聴者に「世界で一番人気のアニソンバンドは?」というアンケートを取ったところ、答えはL’Arc-en-Cielでした。全然本人たちはアニソンバンドと思っていないし、日本人も思っていないですよね。

――日本でのイメージと離れていますね。

2006年が、アニメが日本で一番作られた年です。2008年にそのピークがアニソンに及び、海外のファンはそこで初めて日本の音楽に触れる人が多かった。そしてその頃はアニメのキャラクターもものすごく豊富で、だからみんなそれを真似したがって、僕が2010年に「JAPAN EXPO」に行った時も、「ONE PIECE」「NARUTO」をはじめとするアニメのキャラクターのコスプレイヤーがたくさんいました。でもキャラの切れ目が縁の切れ目じゃないですけど、もし真似をしたいキャラクターがいなくなれば、日本のアニメへの接触が相対的に減ってきます。当然アニソンへの接触も減って、僕は体感的には日本のポップカルチャー全体に対する熱が、一時よりは冷めている気がしています。

――番組でもその影響が?

視聴者調査をやっていると、アンケートに答えてくれる視聴者の層がだんだん上がってきていて、調査を始めた2010年は10代の人が多かったのに、今は20代が多いです。絶対数はたぶん増えていると思いますが、比率としては段々年齢層が上がっています。つまり、新規のファンが減っているということです。

――世界中の若者とコミュニケーションを取るJ-MELOから感じる、日本の文化の広がりにおけるリアルとは?

レイヤーが2つあると思います。1つは日本のファン、もう1つは普通の音楽ファン。これはポップカルチャー全体に言えます。海外で日本カルチャーのイベントをやれば何万人も集客できます。でもそれは例えば代々木公園で「タイフェス」や「ベトナムフェス」をやれば2日間か3日間で5万人、10万人は来るのと同じです。よく日本のアニメが世界を席巻とか、日本の“カワイイ”は世界の共通語とか言われていますが、確かに一部の人にはそうかもしれませんが、現象としてはほんの一部なんです。

――「クールジャパン」という言葉が一人歩きしている感じがします。

大げさではなく、本当に現象の一部ですね。コミケにも10万人以上集まることもありますが、でも自分の周りに実際に行ったという人が、どれほどいるかのかということです。

――少なくとも私の周りは決して多いとはいえませんね。

ただ、そういうものが好きな人が“点在”しているというのは、全てにおいて同じです。音楽は共有するものから、1人1ジャンル的に私有するものになっている気がします。だから同じ志向の人同士が集まる場はあるんです。かつて音楽番組がたくさんあった頃、次の日「あの曲聴いた?」って共通の話題で盛り上がっていました。だけど、今は共有する音楽番組もほとんどありません。

――そういうヒット曲もないですもんね。

だから唯一共有できたのがアニソンだったんです。「あのアニメ観た?あの曲いいね」って。アニメが減ったら共有できるものが世界中で減ります。そうなるとどういう現象が起こるかというと、日本と同じで1人1ジャンル、このロックバンドがいい、このヒップホップがいいという状況になります。好きな人は好きな人で集まるんだけど、一部の盛り上がりにしかならない。だから、1つ目のレイヤーである日本のファンも、昔みたいに一枚岩というか、みんな集まるぞという感じではなくなっている。もちろん、多様化するというのはいいことだと思いますが、“勢い”が弱くなってる気がします。

――「J-MELO」は、日本での視聴者も多いですが、基本は海外視聴者の目線で作っているということですよね。

もちろんです。ただ日本の視聴者には力を貸して欲しいと思っています。僕は今、慶應大学の講師をやっていることもあって、大学や高校に出向いて生徒達に「好きなアーティストとその理由は?」「世界に薦めたい日本のアーティストは?」という質問をしています。

ザ・プロデューサーズ/第15回原田悦志氏

――それはなぜですか?

さっきのレイヤーの話でいうと、今の学生は音楽がすごく好きというレイヤーの人が昔に比べて減っています。だけど、作り手はあまり音楽を聴かない層を捕まえないといけないと思うんです。音楽業界の人って、音楽ファンの事しか考えてない。音楽ファン以外の人達に、何で音楽聴かないの?どうすれば聴こうと思うの?あなたたちは誰が好き?とか、そういうことを聞いていかないと、市場は国内でも広がらないと思います。

――だから、学生達に問いかけると。

一般の学生に話を聞くと、ものすごく勉強になります。僕は大学で教えながら、逆に学生に教えてもらっているんです。例えば、「どうすれば世界でもっと日本の音楽が受け入れられるようになる?」と聞くと、日本の学生も、海外の学生も言っていることは大体同じで、熱烈なファンをできるだけたくさん囲い込んで、そういう人達から広げていこうと考えている人が多い。

――音楽ファンの外側の人達を巻き込んでいかないと、マーケットが広がらないという事ですよね。

世界に広げるためには2つ方法があって、1つはやっぱり日本らしさを活かすことです。そしてもう1つは、みんなが口ずさめる曲を作ること。「PPAP」は完全に後者ですよね。あの曲は世界中の普通の人たちも巻き込んだもので、別に日本製ということの特質は何もないです。

――確かに、日本語で歌っているわけでもありませんよね。

日本らしさで突き進むのであれば、1つ目のレイヤー、つまり日本ファンからどんどん広げていくべきです。BABYMETALも宇多田ヒカルも日本語で歌っています。だから言語の問題ではないんですね。しかし2つ目のレイヤー、つまり日本ファン以外を狙うのであれば、例えばONE OK ROCKやVAMPSみたいに、英語で真正面から挑む。その両輪がないと上手く作用しないと思います。

――原田さんに海外進出の方法論をアドバイスして欲しいというアーティストも多いのでは?

来ますね。正直に「ちょっとキツいと思う」と言う事もありますし、「韓国や台湾だったらいけるかもしれない」とか、そういうアドバイスをすることもあります。the GazettEには「大丈夫だから」と背中を押しました。

――the GazettEは音が完全に洋楽ですよね。

彼らはすごいです。もっと評価されていいと思う。今まで番組へのリクエスト数で、年間で1位を獲ったのは3組のロックバンドしかいないのですが、the GazettE、L’Arc-en-Ciel、SCANDALだけです。

――SCANDALは東南アジアだけでなく、ヨーロッパツアーも成功させていますね。

彼女たちも背中を押しました、上手くいくからって。ガールズバンドそのものが珍しいという事もありますが、最近の海外でウケている女性アーティストのひとつの傾向として、アイドル的要素がまずあって、それプラスαがある人が、日本語で歌っても人気なんです。SCANDALもそうだし、BABYMETAL、宇多田ヒカルも、ある意味そうですよね。初音ミク、きゃりーぱみゅぱみゅも人気です。それとみんな声にビブラートをかけない、高中域のボーカル。それに加え日本語の響きというのが、フランス人やドイツ人に聞くとなんかエレガントに聴こえるらしく、これって日本人にはわからない感覚ですよね?

――わからないですよね。

もしかしたら女性の中高域の声と、ちゃんとした音楽性が重なると、世界の人に心地よく聴こえるのかもしれません。日本語について言えば、視聴者に調査したところ、日本語に興味がある人の半分は、その意味を知りたい、もう半分は、意味はどうでもいい、翻訳は必要ないという結果が出ました。だから日本語ってもしかしたらサウンドという観点では、突破する武器になるのかもしれないですよね。もう1つは先ほども出ましたが、正面から英語で行こうとしている潔さがカッコいい、ONE OK ROCKのようなタイプですよね。

――まず英語の発音が素晴らしいという武器がありますよね。

VAMPS、ONE OK ROCK、MAN WITH A MISSIONらは真正面から行っています。ロックのメインストリームに正面から挑むというのはとても大切です。Crossfaith、coldrainもそうです。彼らは海外のフェスにも出ていて、すごいと思います。それぐらい覚悟決めて行かないと難しいと思うし、逆にいうとそれぐらい覚悟を決めると、道が少しずつでも拓けていくかもしれない。

――日本人でも音楽、バンドを始めるときになんの躊躇もなく英語で歌う人も増えていますよね。

そうなってくると日本である必要はないですよね。

――最初から海外で良いと?

ひと昔前は「日本人」の部分を残しつつ、英語で歌っていた人が多かったですが、今は別に日本でという意識はないと思います。先日もギタリストの渡辺香津美さんと話をしていたのですが、ジャズミュージシャンはずっと前から海外でやっていますよね。アニソンの何十年も前に、秋吉敏子さん、渡辺貞夫さん、日野皓正さんらは海外で活動していました。最近では、上原ひろみさんもそう。ジャズミュージシャンはとっくにやっていたことです。

――ジャズシーンでは、確かに当たり前のことですね。

1970年前後のアメリカって、ジャズスタンダードの時代が終わり、社会的には公民権運動がやっと収束しつつあり、ベトナムでは戦争していたという、なかなか厳しい時期だったと思います。だけど、そこに飛び込んでいった先例があるんです。しかもオリジナルで。確かにジャズの方がポップスやロックよりも市場は小さいけど、やった人はいるんです。だからONE OK ROCKなどを見ていると、当時挑んでいった渡辺貞夫さんたちを思い出します。

――彼らは海外、アジア圏では普通に1万人位動員できる人気がありますね。

でも彼らはやっぱりアメリカ進出を狙っていますよね。よく学生にも教えていることですが、グローバリゼーションってすごく簡単に言うじゃないですか。でも日本というのはコア(中心)かペリフェリー(周縁)かで言えばペリフェリーですよね。つまり、日本からグローバリゼーションを目指すなら、コアに対してローカライズする必要があるわけです。

――グローバリゼーションなのに、ローカライズですか?

グローバリゼーションとローカライゼーションは一見逆方向に見えますが、コアに対してローカライズすると、グローバリゼーションになるんです。BABYMETALは、アメリカというコアにローカライズをしたから全世界でメジャーになったんです。そこを勘違いしてはいけない。

――自分たちがペリフェリー(※編集注釈:ここでは中心、コアではない存在という意味)であることを理解する必要があると。

グローバル化については、日本から世界に向けて2つの事が考えられます。前提として、西洋音楽、つまりクラシック、ポップス、ロック、ジャズなどに関してはペリフェリーである事を、まず自覚しなくてはいけない。その上で、1つはまず、BABYMETALのように、コアに対してローカライズしようというもの。それは既にトライしていて、2014年、ほぼ1~2週間おきにニューヨークで日本人アーティストのコンサートが開かれていました。BABYMETALだけでなく、XJAPAN、モーニング娘。、初音ミク、Perfume、きゃりーぱみゅぱみゅ等が、ニューヨークというコアに向かっていったんです。もう1つはローカル同士をつなぐ、インターローカルです。例えばインドネシアやフィリピンなど東南アジアの国々では、現地の人といかにコミュニケーションとって、地域性や独自性を大切にしながらやっていくかが大切です。その2つの事を峻別してきちんと考えていかないと、ただ海外に行ったらグローバル化というのは大間違いです。コアに対してやる時と同じ考え方、方法で他の国でやろうと思っても、うまくいくはずがありません。

――確かにグローバリゼーションって、何も考えず体のいい言葉として使われている事が多いです。

グローバル化とか世界進出とか言いますが、それはコアに向かってやるのか、それ以外に向かってやるのかをちゃんと考えなくてはいけないんです。例えばシンガポールならペリフェリー・トゥ・ペリフェリーですから、インターローカルですよね。中国系の方が多いけどインド系やマレー系の方がいるとか、英語が通じるとかも考えなければいけないです。

――ところ変われば手法も変わると。

その隣国のインドネシアは、シンガポールと全く違います。プレゼンテーションはインドネシア語でやるべきですし、地域性や宗教観も考えなければならない。そういう部分ではアメリカのアニメはものすごく長けています。一番わかりやすいのは、「J-MELO」で司会を務めているMay J.が歌った「Let It Go 〜ありのままで~」​で、あの歌はさまざまな言語で歌われましたよね。あれをアメリカにやられてしまったら勝てるわけがないんです。アメリカというコアから、世界中にローカライズしたということなんですから。

――先程、クラシック音楽は、日本はペリフェリーだとの発言がありましたが、クラシックといえば、原田さんは高校時代に、高校生だけのオーケストラを作ったことがあるでそうでうね。

父親が神奈川県のアマチュア・オーケストラで団長をやっていて、子供の頃は家の中にクラシックしか流れていなかったんです。クラシックが身近にある環境で育った影響もあって高校生だけでオーケストラを作りました。高校時代は成績がクラスで後ろから数えた方が早かったのですが、卒業したらおぼろげに音楽で食べていきたいと思って。それで、松任谷正隆さん主宰の「マイカ・ミュージック・ラボラトリー」に入りました。

――クラシックからポップスのフィールドへですか?

松任谷さんに「僕、クラシックをやっていました」と自作の曲のスコアを持っていったら、「同じフレーズが繰り返されるだけだね」と言われ、「作曲家としてプロになるんだったら、コードをちゃんと組み合わせて、たくさんの曲を作らなくちゃいけない」と言われたのを覚えています。それを一生やるのは厳しいなと、即座に甘い考えに気付き、音楽のプロになるのは辞めてしまいました。もう一切音楽をやるのはやめようと、かっこよく言えば筆を折ったんです。​

――大学でも軽音楽部とか音楽関係のサークルも入らず、ですか?

少しだけオーケストラに入りましたが、すぐに辞めて。もう曲も作らない、演奏もしない。自分が何をやるべきか、本当に悩んでいました。それで何をしたかというと、有り金をかき集めて、世界に触れたいと思い、さまざまな国々に一人で旅に出ることにしたんです。

――この時が世界に触れた瞬間ということですね。

それから、興味のあることについて、勉強をしました。高校時代全く勉強しなかったので、大学時代が一番勉強をしましたね。ところが、音楽が好きなことは変わらなかったんでしょうね。大学を卒業する時に、音楽を支える側になりたいと思い、NHKに入りました。

ザ・プロデューサーズ/第15回原田悦志氏

――最初はどこのセクションに配属されたのですか?

エンターテイメント番組部で、「エド・サリバン・ショー」を担当させてもらいました。アメリカのコンテンツなので、素材を編集するのが主な仕事でしたが、当時は司会が黒柳徹子さんとデーブ・スペクターさんで、デーブさんとはこれがきっかけで今も「J-MELO」で一緒に仕事をしています。入局してすぐに自分が一番やりたかった仕事ができたというか、スタンダードナンバーやビートルズを始め色々な音楽に触れることができて、視野が広がりました。

――入局当時から、海外に触れる機会があったわけですね。『J-MELO』も放送開始から10年を超える長寿番組になりましたが、番組の作り方、原田さんの番組への想いのようなものは、変わってきていますか?

とにかく新しいものをどんどん見せたいと思っています。

――新しいものですか?

長く続けていると、どうしても自分の中でマンネリズムが生じてしまう。もちろん変わらないことも大事だけど、変わることも大事です。でも、変わろう変わろうとして、既存のものを壊していくだけではダメなんです。そんな風にジタバタしていても、ぐるぐる回っているだけです。

――変わらないものもあると?

変わらないことは、ポリシーですね。世界中の視聴者の声を聞くということと、自分たちが伝えるべきことを伝えること。僕はいつもディレクターに、僕が知らないアーティストを連れてきて欲しい、教えて欲しいと言っています。音楽業界の業態がものすごく変わって、インディーズの方がすごく増えていますしね。

――インディーズの台頭は目を見張るものがありますよね。

最近、音楽の議論をすると、音楽周辺の状況の話ばかりです。テクノロジーと経済学の話しか出てきません。それももちろん大事です。音楽はビジネスですし。でも、そもそもアーティストやミュージシャンと、その音楽を聴くファンが音楽の主役だったはずなのに、その間にいる人達がそれを繋いで利益を上げて、産業を大きくして、今は彼ら送り手ばかりが大きくなってしまっている。音楽のカンファレンスをやっても、テクノロジーがどうとかビジネスがどうとかばかりで……大事ですよ、すごく大事だけど、そこだけじゃないだろうと。クールジャパンと一緒ですよね。

――本質が見えていないと。

手続法は作ったけど、実体法は作らないみたいな。もっとクリエイターなりアーティストなりが、こういう音楽を作りたいという、音楽そのものの話をしなくてはいけない。もう1つ大事なことは、ファンが市場を作るんです。ファンとは何かというと、お得意様だけのことではない。それ以外の人たちが、新しいものを見出していくんです。特に海外進出となると、実はインターネットを通してだけでは難しいところがあります。やはり海外に出かけていって体感するべきだと思います。

――それはなぜですか?

海外の日本のカルチャーのフェスティバルに行くと、そこには当然熱狂はある。じゃあその場所の外はどうなっているのかという事を空気として感じてきて、外の人達を振り向かせるにはどうしたらいいのかを考える必要があると思うからです。熱狂の外の人達が知っている日本って何なのか。日本の事は知らなくても知っている日本製のものは何なのかとか。あるいは日本語の響きはどう聞こえるのかとか、そういったところも考えていかないと、熱烈なファンに囲まれていくら語り合っても、会議室の中でいくら議論をしても、それだけではダメです。

――海外展開を考えているミュージックマンは増えていますか?

増えているとは思いますが、ただ具体的にどうというのは、さっきお話したように考えがこんがらがっていると思います。日本人は、ついつい地球儀の真ん中に日本があると考えてしまいます。学生に教える時も地球儀を使って、まずひっくり返してみよう、東を上にしてみよう、西を上にしてみよう、視点を変えてみようと言っています。例えば、ニューヨークを中心にすると全然見方が変わりますよね。ひっくり返してみたら南半球の見方も変わるし。

――音楽的に日本はペリフェリーだと。

メルカトル図法の日本中心の世界地図で考えている限りは、海外展開は難しいです。やはりコアから日本を見ないと。だからジャズミュージシャンはニューヨークから日本を見ています。ニューヨークのクラブから日本を見たら、いかに遠いかがわかります。そこにいるからこそ見えるものがある。ファッションだってパリやミラノから見るからこそ見えるものがあると思います。

――自分たちの置かれている状況をしっかり理解して、なによりもいい音楽をより追及していかなければいけないですね。

お話しした通り、日本の音楽はアニソンから接触する人が多いです。アニメも大事ですが、もう一度音楽に立ち戻って考える必要があります。

――音楽の本質的な話よりも、宣伝やプロモーション、手続きや方法の話が先になっている気がします。

そうですよね。もちろん宣伝、広告は重要です。ひとりでも多くの人に知ってもらうことは、言うまでもなく、とても大事なことです。でも、それ故に、音楽が均質化してしまっている気がします。つまり、誰にでも好かれるような平均点的な音楽が増えているような気がしているのです。

――突出したものがない。

突出したものはリスクを負います。だから角がどんどん丸くなってしまう。しかし、先程も話した通り、日本の女性アーティストの、中高域のビブラートがない歌い方がウケている。音楽性がきちんとしていれば、それがたぶん海外の人には耳心地がいいのだと思います。

――今、番組を作りながら、大学で講義をされたりとアウトプットの時間が多いと思いますが、多忙なスケジュールの中でどうやってインプットの時間を作っているのですか?

大学での講義は、僕にとってはインプットになっています。自分の経験したことや学んだことをまとめ直すことができるので。僕自身は全く優秀な学生ではありませんでしたが、学生時代に学んだ国際関係論や国際法などが今、活用できていますし、学生からも貴重な意見をもらえます。それと何より、日々視聴者からのメールを読むのが、最上のインプットです。そればかりに囚われてはいけないのですが、視聴者のリアクションを毎日見るのが、最高の時間です。


【編集後記】アニソンが受けているのはポジティブなことではなく、たまたまアニメだけがビッグニッチとして現地の方に認知されてから、派生して聞かれているだけというくだりにドキッとしました。でも裏を返せば、ちゃんと考え方を変えて世界のシーンを見据えて届けるアクションを起こせば届くといういこと。日本の中での、このシーンに向かってではなく、全世界の自分たちが生かせるシーンに向けて「ローカライズ」しなければいけない、いやそれが可能な時代になっているのだと思いました。

そしてここでも語られた、音楽を売る手法や手段ではなく、音楽そのものと、それを作るアーティスト、そしてそれを聞くオーディエンスがあってこそということ。「音楽ファン」というものが昔よりも減りライトユーザーが増えた今において、昔と同じ方法で伝えるのはもはや不可能。ライトユーザーを振り向かせることをしなければならない。やはり全ての発信者が「音楽」というものの質と伝え方を本当に改めて考え直す時が来ているのだとおもう。

SPICE総合編集長:秤谷建一郎
企画・編集=秤谷建一郎  文=田中久勝  撮影=三輪斉史


プロフィール原田悦志(はらだ・のぶゆき)

横浜生まれ。神奈川県立小田原高校在学中に「高校生だけのオーケストラ」を結成、大ホールでの公演を成功させる。学生時代は世界各国を単身で訪れ、旧ソ連で撮影した写真は書籍に掲載された。上智大学法学部国際関係法学科卒業後、NHK入局。番組制作局、札幌放送局、国際放送局を経て、㈱日本国際放送に出向。主に、NHKワールドが全世界に向けて発信している音楽番組「J-MELO」のチーフ・プロデューサーを務めている。著書に「アイドル♥ヒロインを探せ」(慶應義塾大学アートセンター・2015・共著)、「『J-MELO』が教えてくれた世界でウケる「日本音楽」」(ぴあ・2015・監修)。慶應義塾大学文学部非常勤講師(2016~)。

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