L→R 吉岡聖恵(Vo)、⽔野良樹(Gu&Piano)

L→R 吉岡聖恵(Vo)、⽔野良樹(Gu&Piano)

【いきものがかり インタビュー】
今の自分や自分の状態に○をつける、
そういうふうに生きていけたらいい

いきものがかりが、ふたり体制となってから初めてのアルバム『○』をリリース。本文にも書いたが、これは紛うことなき傑作だ。いきものがかりらしい、老若男女問わずに親しめるポップミュージックを堅持しつつ、そこにしっかりと硬質なテーマを内包させている。やはりこの人たちは“羊の皮を被った狼”である。

10枚目なんだけど、
ちゃんと過渡期の自分たちを詰められた

本作を最初に聴いた時、衝撃的なくらいに感動しましたし、私がこんなことを言うのも変かもしれませんが、いきものがかりのステージが数ランク上がったような印象を受けました。まず、出来上がった手応えを聞かせてください。

水野
手応えはあります! この話の流れではそう言うしかないけど(笑)。
吉岡
私たち、今ものすごく喜んじゃっているからね(笑)。
水野
(笑)。作品自体をどう聴いていただけるかというのは僕らが言うことはできないんですけど、しっかりと吉岡とふたりで向き合って作れた感覚がありました。今回はこれまでにいきものがかりではお世話になっていないサウンドプロデューサーやミュージシャンのみなさんにも協力をいただき、挑戦的に出会いを求めながら作っていったアルバムでもあって。なので、制作面での出会いの広がりはありました。歌の部分ではデビュー2年目くらいからお世話になっていたベテランのディレクターさんが定年退職で勇退されたので、僕がディレクションをした作品が多いんです。だから、自分たちだけで歌を作り上げていく場面がたくさんありましたね。そういう内側の部分でも制作でのチャレンジがいくつも詰まっています。ひとつずつ手作りで作っている感じがいつもよりも強くて、それが手応えにもつながっているし、“10枚目なんだけど、ちゃんと過渡期の自分たちを詰められた”という気持ちがあります。
吉岡
うんうん。大きく変わったところは、このアルバムからリーダー(⽔野良樹)が私の歌を録ってくれていることですね。アルバムのほとんどの曲がそうなので、グループにとってはすごく変化したところでもあります。これまで仮歌はディレクションしてくれていたのですが、本番の歌入れは初めてでしたから、それがすごく新鮮でした。あとは、いきものがかりとしては初めましてのアレンジャーさんとやることで、新しい刺激が入っていますね。1曲目からそうですし、私的にはチャレンジしたけど、出来上がったらとてもマッチしていて何の違和感もないので、すごくいい作品になっていると思います。

今、吉岡さんがおっしゃった、歌を水野さんがディレクションされたことと関係しているのかもしれませんが、今作はメロディーがどこを切っても“ザ・いきものがかり”な曲ばかりだと思いながら聴いていました。

水野
ありがとうございます。

作曲面で意識が変わったことはありましたか?

水野
そんなに変えてはいないと思いますね。ただ、例えば「誰か」で映画音楽家の世武裕子さんにお願いしたり、「うれしくて」の編曲を担当いただいた蔦谷好位置さんもそう。蔦谷さんにアレンジを依頼するのもちょっと久しぶりだったりするから、どのサウンドプロデューサー、どのミュージシャンに楽曲を預けるかということをある程度意識しながらメロディーを作っていった感じはあると思います。これまでだとある程度出来上がってからどなたに預けるかを考えるパターンが多かったんですけど、「誰か」は特に世武さんしか考えられませんでしたね。“世武さんだったらこういう拾い方をするだろうな”とか、“こういうコミュニケーションをしたら多分ピアノはこういうふうに進んでいくだろうな”とか、イメージをしながら曲を書いていきましたし、そのように預ける相手まで考えて曲を作るのは今までと少し違う視点かもしれないです。

今作には新しいサウンドがあることも分かりますが、それが突出していないと言いますか、サウンドが変にメロディーを邪魔しているような感じがないと思うんですよ。少し違った視点によって何か変わった部分はありますか?

水野
アレンジを作っていただく上でも“デモのこのフレーズはこういう意図でこういうイメージで入れましたので、それを広げてください”みたいな楽曲の軸、サウンドを構築する時にきっかけとなる部分をアレンジャーさんたちと共有できたからこそ、それが自然さにつながっていると思います。蔦谷好位置さんの「うれしくて」だったら、あれだけ大編成でオーケストレーションされた楽曲の中で吉岡の歌が立つのは簡単なことではないと思うんですよ。彼女自身の歌がすごいこともそうだけど、ちゃんと歌が立つことを意識した上で構築してくれていて。どのアレンジャーの方、サウンドプロデュースの方ともお互いにとって大事なもの、“この曲の核は何なのか?”っていうものを確認し合いながら作れたから、歌の自然さだったり、歌が通る道を開けといてくれたりと、そういうことができていたと思いますね。

そのあたりについて、吉岡さんはいかがだったでしょうか? 今、水野さんが挙げた「うれしくて」はまさにそうで、まさに映画の劇番的なキラキラしたゴージャスな音がいっぱい入っているんですが、歌のメロディーはまったくそれに負けていないという印象が強いです。

吉岡
何だろう? リーダーがアレンジをしてくれる方と綿密なやりとりをしてくれていたというのはありつつも…これは少し大きな話になっちゃいますけど、デビュー当初は“明るくて強くて真っ直ぐな歌声”みたいなことをずっと目標にやっていたんです。でも、“声も変わっていくなぁ”と自分では思っていて。それで、強く歌うだけじゃなくて、抜きどころを作りたいと何年か前から考えるようになったんです。それが今作ではより顕著になっているのかなと思いますね。“真っ直ぐに歌うだけじゃなくて、他の表現もできないだろうか?”とずっと思っていたので、歌詞を見ながら“こういうふうに歌いたいな”と考えたり、ちゃんと弱い歌い方のところも作って“こういう感じだけど、どうですか?”って、リーダーに持っていったりしました。もちろんディレクターさんもいらっしゃいましたけど、歌に関してはリーダーとの意見交換をしっかりとしながら、すごく真摯に向き合えた感じがしました。リーダーはちゃんと向き合ってくれたし、尊重してくれるし、はっきりと言ってくれるから、そこで出た意見は試してみて、いいところを選んで良くしていくためのコミュニケーションがあったので、お互いにすごく磨き合えたと思います。

歌をしっかりとブラッシュアップしたということですね。

水野
そうですね。あと、作曲者がディレクションするっていうのはいいですね。僕がうまいかどうかは別にして、作曲での意図があるじゃないですか。“ここで盛り上がってほしい”とか“こういうふうに曲が進みたい”とか。
吉岡
なるほどねぇ。
水野
もちろんコミュニケーションの中で吉岡が構築したものに対して客観的な意見を言ったりして作っていくんだけど、最後にテイクを選ぶ時には自分の意図が自然と滲み出たセレクトになるので、それを彼女に聴いてもらって。そして、また直したりするんですが、その作業は曲というものを主人公にして、お互いにできることをとにかく注いで頑張ることが本当にスムーズに行なわれていったと思っていて。
吉岡
うん。確かに。
水野
だから、帆苅さんが聴いていただいた時に誰かが自己主張しすぎて曲の大事な軸をぶらしちゃうことがないと感じてもらえたのかもしれないですね。みんなでひとつの軸に向かって頑張っていたので。
吉岡
“今、こういうテイクになってるけど、これってどうなんだろう?”と思った時に、作っている人の観点から言われたことは“そうなんだな”と思いますよね。それはレコーディングの後半により顕著になっていった気がしていて、“うまく言葉で言い表せないんだけど、これはハマってる?”って迷った時に、リーダーが“そこはこういうことなんだ”と言ってくれると“そうなんだ。じゃあ、それでいいんだ!”って気持ち良くそっちを選べるのはすごくすっきりしました。

それはディレクションというより、もはやプロデューサー的な視点でしょうね。

吉岡
リーダーは本当にこのアルバムの大きな部分を担ってくれていると思います。アレンジャーさんとの話もそうだし、ヴォーカルディレクションでの歌の扱い方もそうだし。そうそう、思い出した! 「きっと愛になる」とか「誰か」とか、出来上がったものを聴いた時に“すごい自然だな”って思いました。リーダーはいろんな状態の私の歌を知っているじゃないですか。コンディションが悪い時も知っているし。そこも含めて私の歌のバリエーションの数はすごく多くても、そこから選べるかどうかは別の能力だとは思うんですよ。だけど、ちゃんと総合的に見て、歌をすごく自然な状態にしてくれているんですよね。

本当にそうだと思います。長く聴いてきたファンの人たちは、特に前半7曲目くらいまでは安心感のようなものすらあると思いますね。ただ、そう言っておいて矛盾するような話になるかもしれないですけど、サウンドに注目して聴くと、いろんなことをやっていることがしっかりと確認できるんです。亀田誠治さんがアレンジされた「声」のベースラインは、やっぱり亀田節全開だし、ブラスが入った「好きをあつめたら」、お洒落な印象の「HEROINE」、ジャズ風味の「やさしく、さよなら」と、サウンドがバラエティーに富んでいることも、これまた間違いなくて。“何度聴いても美味しいアルバム”という感じがしています。

吉岡&水野
…(沈黙)。
水野
…僕たち、褒められると黙ってしまうほうなんで(笑)。
吉岡
あははは!

(笑)。先ほどお話がありましたけど、このバラエティー感は“この曲はこの方にやってもらうとより面白くなる”と考えた結果ですかね。

水野
そうですね。例えば「やさしく、さよなら」なら、“林 正樹さんのピアノに乗せて吉岡の声をどういうふうに使っていただけるか”みたいなところをすごいイメージして作った曲だったので、本当にジャズのトリオみたいなスタイルでやってもらったことで、とてもいい感じになったよね?
吉岡
うん、うん。(大きく頷く)
水野
それは林さんに曲を渡す段階から伝えていましたね。HIROBAの「ただ いま(with 橋本愛)」のピアノが林さんだったんですけど、アレンジを依頼する時に“林さんのピアノに吉岡のヴォーカルをつなげたかったんだ”みたいな口説き文句でやっていただきました(笑)。鈴木正人さんによる「HEROINE」はセッションの空気感もちゃんと大事にしたいと思って、オケ録りの時から吉岡が入って、本番の歌入れとは別に吉岡の歌に合わせて録ってもらったりして。もちろんみなさんプロですから、やっぱりヴォーカルの声に反応した演奏になっていくので、“そこらへんを録れればいいな”と思っていたんですけど、実際にそうなりましたね。
吉岡
あの時のセッションは楽しかったよね? オケ録りを終えて、“よし! このまま夜はライヴをやって、それを配信しよう!”と思ったくらいに楽しくて(笑)。
水野
スタジオもお洒落だったしね(笑)。みなさんも吉岡の歌が入ってくることを楽しんでくださって、鈴木さんも“やっぱりヴォーカルがいるといいな”とおっしゃっていて。演奏のニュアンスを楽しんでいただけたんだと思います。
L→R 吉岡聖恵(Vo)、⽔野良樹(Gu&Piano)
吉岡聖恵(Vo)
⽔野良樹(Gu&Piano)
アルバム『〇』

OKMusic編集部

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