ハナフサマユ

ハナフサマユ

【ハナフサマユ インタビュー】
“好き”を詰め込んだので、
誰かの“好き”に変わったら嬉しい

収録されている11曲それぞれに物語が刻まれている最新アルバム『バートレット』。温かく響き渡る歌声、イメージを豊かに喚起するフレーズ、瑞々しく躍動するサウンドが満載だ。リスナーの日常生活に鮮やかな色彩を添えることができる本作にハナフサマユが込めたものとは? じっくりと語ってもらった。

リアルさを出すために
少し実話のエッセンスを加える

今作ですが、どのようなアルバムにしたいと思っていました?

アルバムを作ることになって、最初にタイトルを決めることにしたんですけど、その中で私の“好き”にいろいろ向き合いました。私は西洋梨が好きで、緑色が好きなんですね。バートレットはアルバムをリリースする9月の誕生果であることも知って、このタイトルに決めました。

さまざまな面で作りたい作品のイメージと合致したんですね。

はい。バートレットは甘さと酸味が調和した西洋梨なので、アルバムもそういう曲が集まったものにしたいと。昔作った曲からも選びつつ、足りない部分や伝えたいメッセージを込めた曲も新たに作って完成した感じですね。

ハナフサさんには花も含めた草木、植物系統のモチーフがお好きだというイメージがあるんですけど。

そうなんですかね?(笑)

草木属性の方だというイメージがあります。

西洋梨はシルエットがギターに似ていて、そこも好きなんです。バートレットの果物言葉は“変わらぬ心”なので、そういう想いを持って歌を届けたいっていうことも思いました。それは後づけではあるんですけど(笑)。

「好きなこと好きなだけ」はアルバムのために書き下ろした曲ですか?

はい。このアルバムにはこういう曲が欲しいと思って、制作期間の最後のギリギリに滑り込ませました。

ハナフサさんが好きなものが素直に伝わってくる曲です。Mr.Childrenがお好きなんでしょうか? 《私の好きな「Prelude」》と歌っているので。

Mr.Childrenさん、大好きです!

他にもエアジョーダンとか、固有名詞が出てくるのが印象的です。

ありがたいことに、Mr.Childrenさんやナイキさんの許諾をいただけました。スケジュールのギリギリのタイミングで作った曲で許諾をいただくという、スタッフさんに無理を言うかたちだったんですけど(笑)。早めにOKをいただけたおかげで収録することができました。

固有名詞が歌詞に盛り込まれているとリスナーとしてもイメージが浮かびやすいんですよね。

前作くらいから“情景が浮かぶ”ということを、より意識するようになっていて、今作にもそういう要素を散りばめるようにしていました。

「僕のストーリー」の《僕はというと雑に飲んだトマトジュースお気に入りのシャツを/赤く染めてため息ざわめきが胸に迫っていた》も、トマトジュースが効果的なんだと思います。

これはリアルな体験です(笑)。主人公を決めてフィクションで書くことが多いんですけど、そこにリアルさを出すために、少し実話のエッセンスを加えるんですよ。トマトジュースをシャツにこぼしたことがない人でも、こういう感じの体験って何かしらあると思うんです。そういうものに当てはまってくれたら嬉しいです。

「僕のストーリー」は他の誰にも歩めない自分の人生を精いっぱいに進む気持ちが伝わってきます。ハナフサさんの曲は温かいメッセージが一貫して刻まれていますよね?

そうですね。“歌を通じて何を届けたいのか?”と考えると、やはり聴いてくださる方々が少しでも光を見つけられることなんです。だから、悲しい曲の中にも小さな光のようなものを込めている気がします。

生バンドを基調としたサウンドも、そういう作風に合っているんだと思います。

ライヴで弾いていただいているみなさんが、ほとんどの曲で演奏してくださっています。私の声はあまりデジタルサウンド寄りではないというか、伝えたいメッセージに合っている音を探ると、こうなっていくような気がするんですよね。

声質の穏やかなトーンも生楽器に合っているんだと思います。

そうですね。“高音を出せたらカッコ良い”と思っていた時期もあるんですけど、自分が得意なのはそこではないというのがよく分かってきていて。穏やかに聴こえるのも、中音域の声質だからだと思いますし、そこが得意であることを踏まえて曲を作るようになってきています。

そういう作風が全体的に発揮されている中で、ドラマ『今夜、わたしはカラダで恋をする。』(以下、『カラ恋』)のシーズン2のために書き下ろした主題歌が収録されているのも、今作の聴きどころです。前回のアルバム(2022年10月発表のアルバム『結晶』)には、このドラマのシーズン1のために作った3曲が収録されていましたよね?

はい。前回は映像を観てから曲を作ったんですけど、今回は監督さんと“どういうイメージにしたいですか?”というお話をしたんです。“他の人にも当てはまるけど、この物語にも当てはまるよね?”くらいの温度感にしたい旨をお聞きしたので、主人公を思い浮かべつつ、自分の頭の中で“未来はこういうふうになっていくのでは?”とイメージを広げながら作りました。

そのうちの1曲が「ボーイフレンド」ですね。終盤で《boyfriend あなたじゃなきゃダメな理由なんて宿命よ!》と強い言葉になるのが、主人公の心情を想像させてくれます。

曲の中で《宿命で》《宿命と》《宿命よ!》という変化をしていくんですけど、1文字の違いにこだわりを持って書きました。最後は自分自身に言い聞かせているというか。

作った曲がドラマの中で流れるというのはどんな感覚ですか?

映像に色を少し添えるお仕事を任せていただけるのは、やはりとてもワクワクします。私自身の恋愛を歌ったら出てこないような曲を作る機会でもあるので、そういう点でも楽しいですね。このドラマのシーズン2も任せていただいたのは自信にもつながっています。

『カラ恋』のファンのみなさんにとっても“このドラマの曲と言えばハナフサさん!”というイメージがあるんじゃないでしょうか?

放送からかなり経っているんですけど、シーズン1の時の「だらしない」(アルバム『結晶』収録曲)がお好きな方が「ボーイフレンド」もお好きだと書いていらっしゃるのを見ました。シーズン1もシーズン2も観てくださっているということですから、とても嬉しいです。

「プリンセスになって」も『カラ恋』のために書き下ろした曲ですね。

はい。この曲は女性人気が高いような気がしています。タイトルは“プリンセスになって”ですけど、曲の中ではプリンセスになっていないんですよ。

《やけに冷えた手に握らせてくれたコーンスープ/それがやけにあたたかくて 愛を感じてた》は、プリンセスのような華やかな世界ではない平凡な日常の幸せをイメージできる描写です。

缶のコーンスープは百数十円くらいですかね? 日本に住んでいてプリンセスになることって、まぁないじゃないですか(笑)。でも、コーンスープみたいな身近なところに幸せってあるんじゃないかなと。これもドラマからのインスパイアで書けた曲です。

地味なこともともに楽しめる素敵な関係性をイメージできる曲です。缶のコーンスープってコーンが中に残ってなかなか出てこないじゃないですか。缶の底を叩いたりと、エレガントではない感じになりがちなので。

缶のコーンスープって、だいたい最後にそうなりますよね(笑)。
ハナフサマユ
アルバム『バートレット』

OKMusic編集部

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