和田雅成が挑む、土田英生による会話
劇『燕のいる駅-ツバメノイルエキ-』
インタビュー 「僕の人生の色を変え
てくれる作品になる」

1997年初演、そして土田英生が主宰する劇団「MONO」にて1999年に劇団用に書き直して上演された『燕のいる駅』。2005年に相葉雅紀主演で再演された本作は、その脚本が持つ時代を超えた普遍性が高く評価された土田の渾身の名作だ。2023年9月23日(土)からは、主演に和田雅成を迎え、新たな演出で再々演されることが決定。主人公の高島啓治を演じる和田に本作への意気込みや役柄への思いを聞いた。
――最初にこの作品のお話をいただいた時、出演したいと思った決め手はどんなところだったのですか?
赤裸々な話をしてしまうと……製作の方が熱意を持ってこの作品に出演してほしいと伝えてくださったので、それならばスケジュール的に難しそうではあるけれど挑戦してみようと。僕は、これまであまり主演をやってこなかったので、主演というところにも引っかかりました。
――言われてみれば、これまで主演はあまりやっていませんでしたね。
僕自身は、主演に対して強いこだわりがあるわけではないんですよ。役に合っていることが大事だと思うので。ただ、主演できるというのはすごくありがたいことですし、今年は出演する舞台は全て主演なのですが(笑)本当にたまたま、自分に合った役が主演だったというだけで、人生は分からないなと思います。
――そうして主演を務めることで、また新たな経験もできたのでは?
そうですね、今年は特にそうだと思います。『風都探偵 The STAGE』は「仮面ライダー」という実写の続編を漫画化し、それを舞台化するという難しい作品でしたし、『ダブル』は今後の僕の人生の色が変わったことを感じた作品でした。『ダブル』の劇中に「演者と役、2つの人生が板の上で重なって芝居が生まれる」というセリフがあるのですが、それが『ダブル』の舞台上でも起きたんですよ。舞台の上で自分の感情がぐちゃぐちゃになりすぎて、意味が分からなくなってしまったんです。でも、そうなった瞬間に、人生の全てが愛おしくなったんですよね。それはすごく大きな経験でした。きっとこの作品も、僕の人生の色を変えてくれる作品になるだろうという予感がしています。
――すでに大きな予感があるんですね。そんな本作の台本を最初に読んだときはどんな感想を持ちましたか?
フィクションとノンフィクションを掛け合わせたような作品だと感じました。現実にあるのかないのか分からないような不思議な雲が出てくるけれど、繰り返される会話はとてもリアルで……。普段、僕たちがしている会話と変わらない会話と非現実的な設定の組み合わせが非常に演劇的だという印象です。そうした脚本を、役者さんたちがどうリンクさせて演じるのか、稽古がすごく楽しみです。
>(NEXT)世界最後の日にどこに行き着くのか。和田自身は何をする?
『燕のいる駅-ツバメノイルエキ-』キービジュアル
――この作品では、和田さんが演じる高島をはじめとした登場人物たちが、世界最後の日にどこに行き着くのかを描いています。そうしたストーリーについてはどう感じましたか?
世界が終わる日がきても実際には何もできないんだろうなと思いました。そう考えると、高島は(劇中で)「のんびり屋」と言われていますが、実は全てを知っていたんじゃないかとも思えます。僕自身、「今日、世界が終わります」と言われても、きっとのんびりしていると思うんですよ。だって、何もできないから。何をしても後悔するし、何をしても後悔しないと思うんです。その共存がすごく面白く描かれていると思います。何かをしようとする人もいるし、何もしない人もいる。お客さまに与える余白が多い作品だと思うので、きっと観る方によって感じ方が違うと思います。最後までご覧いただくと、実は何気ない会話の中にもたくさんのヒントが散りばめられているかが分かり、もう1回観たいと思うのではないかなと思います。
――高島に共感を覚えたり、自分と似ているなと思うところはありましたか?
カレーが好きというのが共通点かな。高島は、カレーパンですが(笑)。それ以外の内面的な部分は、稽古に入って、(演出の)土田さんと話してみないとまだ分からないというのが正直なところです。高島が何を考えているかがまだ掴みきれていないんですよ。表面に見えている部分が本当の高島なのか、それともその真意はさらに深いところにあるのか分からないので、まだ簡単に似ているとも言えないです。それに、劇団公演の映像を観させていただいたら、自分の考えていたプランとは全く違う高島だったんですよ。そうしたこともあって、今は劇団公演の高島に寄せて演じるべきなのか、それとも自分の色に寄せていいのかも分からなくなっています。なので、これからのお稽古で、土田さんと他の共演者の皆さんと一緒に作っていこうと思っています。
――なるほど。では、 いわゆる2.5次元作品とオリジナル作品では、役作りや役を演じる上での意識に違いはありますか?
僕自身は、どんな作品でも「役を生きる」という意味では区別はしていません。ただ、2.5次元作品はヒントや正解がある中で、自分の要素を掛け合わせながら作っていくので、ストレートプレイの舞台とは全く違うとは思います。今回は、先ほどお話したように再演なので、また一概には言えないところで、どこまで以前の公演を踏襲すればいいのか、稽古をしていく中で作り上げていきたいと思っています。
――先ほど、高島は全てを知っていたのではないかというお話もされていましたが、それはある意味では、事なかれ主義の日本人らしい人物像なのかなとも思いました。それが、この物語の結末を導いたのかなと考えると、高島は苛立ちを覚えるようなキャラクターなのかもしれません。和田さんは高島に対して、そうした苛立ちは感じませんか?
台本を読んだ時に苛立ちは感じませんでしたが、確かに自分が実際にこの世界に入った時にはイライラするかもしれません。本当にこの状況になってみないと分かりませんが、色々な可能性は考えてしまいます。僕は、『名探偵コナン』が大好きなんですが、そのコナンの中で「起こったことが事実でも、それは真実じゃないかもしれない」という大好きなセリフがあるんですよ。例えば明るく振舞っていても心に深い悲しみを抱えている人はいると思います。そうやって、心の奥にある真実を考えるようになったり、いけないことをした人を見た時にどうしてしてしまったのか理由を考えたりすることが多くなりました。それは『ダブル』の影響も大きいと思いますが、そう考えるようになっていろいろなことが許せるようになったように思います。
――その人にはその人の事情があったのかなとか?
そうです。その人の正義でそれをやっているんだろうと思うと、苛立ちはないですね。ただ、その人の正義を探したいと思うようになりました。そう考えると、僕はまだ高島の正義を台本から見つけられていないんですよ。なので、曖昧なことしか今はまだ言えないのですが。
>(NEXT)作・演出の土田英生とは初タッグ。「答え合わせをしたくなる、余白ある作品」
和田雅成
――土田さんとはすでにお会いしていますか?
まだお会いしていないので土田さんご自身の印象は全く分からないですが、こうした作品を書くということで僕が勝手にイメージしている姿はあります。この作品の中では、会話の言葉ひとつに登場人物たちがすごく執着しているので、もしかしたらご本人も、すごく突き詰める方なのかもしれないと。稽古でも、セリフの一つひとつを突き詰めてもらえるんじゃないかなとか、遠慮なく演出してくださるんじゃないかなと楽しみにしています。
それから、この作品の中には、「世界が終わる日」だったり、雲が大きくなるという前兆があったりというフィクションが描かれていますが、それらはきっと子どもの頃に想像したことがあると思うんですよ。そうした誰もが子どもの頃に考えたことをテーマにして描いているので、どこか子どもの心を残しつつも、それを大人の会話として表現できる、二つが共存されている方なのかなと思います。早くお話をしてみたいです。
――土田さんは「ノストラダムスの大予言」から着想したとおっしゃっていました。さらに、今回はコロナ禍があったことで、再び上演すべきだと思ったそうです。そういう意味では、この作品は、社会問題を啓蒙するというテーマもあるのかなと思いますが、和田さんはどう捉えていますか?
演劇には、そうしたメッセージを散りばめた作品も多いと思います。そこが演劇の素晴らしいところでもありますよね。特に最近は、SNSやニュースを見ていると、心が疲れてしまうじゃないですか。だからこそ、自分の思いを役や作品に乗せて訴えていくことは大事なんだと思います。誰かが世界を変えようと思わなければ変わらないままです。だから、少しでもいい方向に進むように誰かがやらなければいけない。今すぐに変化が起こるかは分かりませんが、こうした小さな種が誰かにいい影響を与えて、社会が、人生が明るい方向に向かっていく人が一人でもいればいいなと思います。
――最後に読者に向けてメッセージをお願いします。
絶対2枚以上チケットを買ってください(笑)。見終わった後、僕だったらもう1回観たいなと思う作品です。余白がある作品なので、その余白を家に持って帰ってもらって、咀嚼して、きっと答え合わせをしたくなると思います。だからこそ、2枚必要。もちろん、1回でも楽しめると思いますが、僕は台本を読んで、またすぐに2回目を読みたいと思ったので、2枚をオススメしたいですし、お客さまにそう思っていただけるように稽古に励んでいきたいと思います。
取材・文=嶋田真己

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