ラブロマンスの枠に留まらない名作、
ミュージカル『GHOST』ゲネプロレポ
ート

大ヒット映画「ゴースト/ニューヨークの幻」を原作としたミュージカル『GHOST』が、2021年3月5日(金)に東京・日比谷シアタークリエで開幕する。日本版は2018年にオリジナル演出で初演され、今回は2年半ぶりの再演となる。
キャストは浦井健治、咲妃みゆ(Wキャスト)、森公美子らが続投し、再演から新たに桜井玲香(Wキャスト)と水田航生が加わった。演出を務めるのは、初演に続きキャスト・スタッフらが厚い信頼を寄せるダレン・ヤップだ。
初日前日、昼夜2回のゲネプロが行われた。以下、Wキャストの桜井玲香がモリー役を務めたゲネプロの模様をお届けする。
ミュージカル『GHOST』舞台写真  撮影:桜井隆幸 
誠実な銀行員のサム(浦井健治)と芸術家のモリー(桜井玲香)は恋人同士。ニューヨークのブルックリンで新生活をスタートさせたばかりの二人は、希望に満ち溢れた日々を送っていた。ところがある晩、サムが暴漢に襲われた際に銃弾を受け、この世を去ってしまう。突然の出来事に絶望の淵に沈むモリー。そんな彼女を、サムの同僚であり親友のカール(水田航生)が慰める。
一方、サムは“ゴースト”となって天国と地獄の間を彷徨いながら、モリーにあることを伝えるために行動を始める。しかしゴーストとなったサムの姿は誰も見ることができず、彼の声を聞くことができるのは自称霊媒師のオダ・メイ(森公美子)ただ一人だった――。
ミュージカル『GHOST』舞台写真   撮影:桜井隆幸
舞台セットは実にシンプルで、サムとモリーが暮らすロフトを中心に、6枚の半透明のパネルを人力で動かすことで場面転換が行われていく。シンプルなセットだからこそ、映像演出がより一層効果的に感じられた。アンサンブルキャストはニューヨーカー、銀行員、ゴーストなど、場面ごとに様々な役に扮し、物語を進めるための重要な役割を担う。スピーディーなストーリー展開にグッと引き込まれる本作だが、それはアンサンブルキャストとスタッフワークの賜物だろう。
また、本作は単なるラブロマンスの枠に留まることなく、サスペンスやエンターテインメントの要素がふんだんに盛り込まれ、原作映画とは違ったミュージカル版ならではの魅力が詰まっている。
ミュージカル『GHOST』舞台写真  撮影:桜井隆幸
物語序盤で突如命を落とし、ゴーストとなってしまうサム。同じゴースト同士ならば姿も見え会話もできるが、現世で生きる人にとってはいわば透明人間だ。最初こそ自分の死を受け入れられず困惑していたサムだが、徐々にゴーストであることを楽しむ様子が見受けられる。「もしもゴーストになったら」という想像が実際に舞台上で繰り広げられるのだが、これがある種のエンターテインメントのよう。観客は”新入り”ゴーストのサムを通して非日常体験を楽しむことができるだろう。
そんなサムを演じるのは、初演から続投でさらに演技に深みが増した浦井だ。劇場全体を包み込むような、あたたかみのある歌声が実に心地いい。モリーを見つめるサムの眼差しはひたすら愛に満ちている。浦井演じるサムのその目に、ぜひ注目してほしい。ゴーストとなったサムがモリーに対してできるのは、ただ見守ることだけだ。死者と生者、決して交わることのない二人の視線が切ない。
ミュージカル『GHOST』舞台写真  撮影:桜井隆幸
サムの恋人モリーを演じる桜井(Wキャスト)は、物語冒頭ではまるで少女のように無邪気な笑顔を見せていたが、最愛の人を失ってからは今にも壊れそうなほど。ひたむきで嘘のない、まっすぐな演技が胸を打つ。ソロ曲「With You」ではサムの白シャツを抱き、素直な気持ちを切々と歌い上げた。大切な人の死を受け入れることの難しさ、勇気、そして受け入れてはじめて前に進んでいけるということを、モリーを通して伝えてくれた。
本作初参加の水田が演じたのは、サムの働く銀行の同僚でよき友人でもあるカール。実は物語を大きく動かすキーとなる人物で、誰よりも複雑な立場でもある。そんな難しい役どころを、水田はときにコミカルに、ときにシリアスに演じきっていた。
ミュージカル『GHOST』舞台写真  撮影:桜井隆幸
登場シーンからインパクト抜群だったのは、森が演じる胡散臭さ満載の霊媒師オダ・メイだ。彼女が舞台上にいると文字通り目が離せない。ド派手な演出で歌って踊って、あっという間にそこはオダ・メイ劇場と化す。姿の見えないサムとの息の合った掛け合いは、オダ・メイのサービス精神(?)からか留まることを知らず爆笑必至だ。
人と人との繋がりが希薄になりがちな昨今、ミュージカル『GHOST』は人同士寄り添い合って生きていくことの尊さを再認識させてくれた。東京公演は3月5日(金)〜3月23日(火)。その後、4月4日(日)に愛知県芸術劇場大ホール、4月9日(金)〜11日(日)に大阪・新歌舞伎座と、全国ツアーが予定されている。
取材・文=松村 蘭(らんねえ)

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