三浦一馬(バンドネオン)が語る~憧
れのラカトシュ・アンサンブルと新た
な「音楽」の地平へ

ジプシー・ヴァイオリンの名手、ロビー・ラカトシュ率いるラカトシュ・アンサンブルが初来日したのは、1999年のこと。目にも留まらぬ超絶技巧と奔放なソロ、そしてカイゼル髭を蓄えたラカトシュの風貌。その全てが聴くものを、魔術のような舞台へと引き込んだ。アンサンブルの初来日から20周年を数えた今年、同アンサンブルと、日本バンドネオン界のプリンス 三浦 一馬(みうら かずま)との共演が、『ラカトシュ・アンサンブル with 三浦一馬』(11月15日(金)彩の国さいたま芸術劇場、11月18日(月)東京文化会館)として実現する。
ジプシー音楽の伝統を引き継ぐロマ民族の名門に生まれたロビー・ラカトシュを中心にした同アンサンブルは、ルーツであるハンガリー民謡やジプシー音楽を中心に、クラシック、ジャズと幅広いジャンルを融合させ独自の音楽性を築いてきた。片や、三浦は、タンゴやピアソラのみならず、クラシックやジャズなど、ジャンルを超えてバンドネオンのもつ可能性を切り拓いている。本共演では、ハンガリーとブエノスアイレスの薫りだけでなく、両者の出会いによるシナジーも起こりそうな予感だ。今月末にはスタクラフェスへの出演も控えている三浦に、公演に向けての意気込みを聞いた。
三浦一馬
タンゴとジプシー音楽の競演
――今秋、ロビー・ラカトシュ率いるラカトシュ・アンサンブルと共演されますが、三浦さんのお気持ちを聞かせてください。
「え!『あのラカトシュさん』と!?」と、びっくりしました。初めての方と共演するときには、必ず驚きと期待があります。ただ、お名前の前に”あの”が付く方っていう方はなかなかいません。光栄に思っています。普段、僕が弾いている曲でも、全く違ったアプローチになることでしょう。楽しみの一言ですね。
ーーこれまで、ラカトシュ・アンサンブルの演奏会に行かれたことはありますか。
演奏会に行ったことはないですが、10代の頃からラカトシュ・アンサンブルのCDを聴いています。自分のコンサートの時に、楽屋でいろんなCDを聴いており、その中にラカトシュさんのCDもありました。それこそ、ラカトシュ・アンサンブルの十八番である「ハンガリー舞曲」や「ひばり」などを聴いていました。
ーーラカトシュさんとアンサンブルの魅力はどのようなところだと感じますか。
ラカトシュさんは世界一の速弾きと言われ、世界中が誰もが認めるヴァイオリニストです。羨ましいくらいに「自由」な演奏が魅力ですね。瞬間的なアイディアとセンスは、どこから溢れ出てくるのかなぁと、ずっと憧れがありました。
ラカトシュ・アンサンブルは技術とセンスが卓越しているのはもとより、編成も面白い。第一ヴァイオリンと第二ヴァイオリンと2人のヴァイオリニストがいて、ツィンバロンというハンガリーの民族楽器もある。こうしたラカトシュ・アンサンブルならではのサウンドも聴いてほしいですね。
実は、タンゴやピアソラを演奏する際の編成と、ラカトシュ・アンサンブルの編成は、そう遠くはない。ヴァイオリン、ギター、そしてベースがいてという具合に。要となる楽器は、どちらでも一緒なんです。確かにタンゴとジプシー(ロマ)という音楽ジャンルは全く違ったものですが、共演を通じて共通点が見いだせるのではないかと思っています。
三浦一馬
ーーツィンバロンも楽しみですね。
ツィンバロンと共演するのも初めてです。実は、ツィンバロンはシンプルに見えて、すごい超絶技巧を必要とする楽器。これまで弾いてきたピアソラの作品がツィンバロンではこんな感じになるのね、という発見も楽しみにしています。
ーー今回演奏される曲目について教えてください。
ラカトシュ・アンサンブルには十八番である、モンティ「チャルダッシュ」やハチャトゥリアン「剣の舞」、ブラームス「ハンガリー舞曲」、そして「ひばり」などを演奏していただきます。そして、僕がアンサンブルと共演するのは、ピアソラの「オブリビオン」や「ブエノスアイレスの冬」、「リベルタンゴ」などです。
ーータンゴとジプシーという2つの音楽ジャンルをひとつのコンサートで楽しむ機会はそうないと思います。三浦さんはこの2つのジャンルをどう感じているのでしょうか。
一口に「タンゴ」と言っても、楽譜にはコードとガイドくらいを書きこむだけで、その場での即興に重きを置いている演奏家もいれば、音符を楽譜にしっかりと書き込む演奏家もいます。僕は後者のタイプですが、楽譜に書き込めない「何か」こそが、大事だったりするんです。
突き詰めて細かく書き込み、楽譜として残したと感じても、きらりと光る「何か」、例えば、フィーリングや即興、あるいは演奏家同士のコンタクトによるものは楽譜に書ききれません。今でこそ、学校のようなところで大勢に向けて広めるということはありますが、もっと時代を遡れば音楽のスタイルは人から人へ伝えられてきたものなんです。その意味で、ジプシー音楽とタンゴは似ています。だからこそ、どこかに共通言語があるような気がします。これまでいろんな方々と弾いてきましたが、リハーサルやゲネプロと本番とが全く同じだったことはありません。ですから、今回のコンサートでも、本番で何が起こるのかが楽しみですね。
三浦一馬
ーー三浦さんもラカトシュさんもジャンルという垣根を問わずに活躍されています。私は、その点に似ているものを感じました。
そう言っていただくのは、恐れ多い気がします…(笑)。デビューの時から、その時、その場で弾くものに応じて、自身でジャンルを決めていけばよいと考えてきました。2008年にデビューCDを出したとき、レーベルの方に言われ、印象に残っている言葉があります。CDケースの裏側、バーコードのところに「クラシック」とか、「ラテン」とか、「ワールドミュージック」といったジャンルが入るんですよ。最初のCDは、確か…「クラシック/ワールド」だったかな。僕の音楽は、「こういう括りになるのか」と新鮮さを感じました。レーベルの方に伺ったら、レコード屋さんがどの棚に置くかを示すためのものだそうで、「2枚目以降は置きたいジャンルがあれば教えて欲しい」と言われました。
ーーそうすると三浦さんのCDは各ジャンルの棚に点在しているということでしょうか?
そう。探すのが大変ですね(笑)。「自分はここ」という核をしっかりもった上で、枝葉が広がっていくものだと思います。迷いながらやっていますが、その時々、弾くものに応じて、ジャンルを決めて、それを飛び越えていったっていいんじゃないかなと思います。
スタクラフェスで味わった最高の開放感
ーー今月は、スタクラフェスにも登場されますね。去年もこのイベントに出演されていますが、感想や楽しいエピソードがありましたか。
最高でした!あの開放感、のびのび自由に弾けるあれは何でしょうね。お客さんがリラックスして下さっていると、演奏する側もよりリラックスできるんです。真っ暗な客席の中で、お客さんはどう思っているのかな、大丈夫かなと思って弾くのとは全然違います。
僕らは、HARBOR stageで松下奈緒さんらが本番をやっているときに、そこと向き合っていたGRASS stageでゲネプロをやっていたんです。本番は、松下さんの演奏の5分後か、10分後でした。僕らの本番が近くなると、HARBOR stageで演奏を聴き終えたお客さんが、ぶわーっとこっちに向かってきたんです。何千人もの方が移動する様子は、民族大移動のようで、ちょっと見たことのない景色でしたね(笑)。

三浦一馬

ーー三浦さんも、観客としても楽しむ機会があったのですか。
昨年は、ばたばたしていてじっくりとは聴けなかったので、今年はぜひ、観客としても音楽を楽しみたいと思っています。HARBORとGRASSだけでなく、無料エリアのフリーステージも含めて、全体で楽しめるのが素敵だと思いました。GRASS前にレジャーシートを弾いて、ビールを飲むのもいいですね。
ーー昨年はピアソラの名曲を、若手演奏家の皆さんと熱演されましたが、今年はどんな演奏になりそうでしょう。
今年は、STAND UP! ORCHESTRAと共演します。バンドネオンとメインになる弦楽器を念頭に、相性が良い曲を考えている最中です。野外でのびのびと弾く部分もありながら、一方ではアンサンブルとして最高のものをお届けしたいと思っています。
ーー最後に、2つの公演を楽しみにしている方に向けてメッセージをお願いします。
両方の公演に共通しているのは、どちらも本当の意味でのライブだということ。
ラカトシュ・アンサンブルとの共演では、卓越した超絶技巧をもつアンサンブルの方たちと、火花を散らしつつも、一つのサウンドとして成立するところを楽しみにしています。火花を散らすだけではなく、曲によっては「ブエノスアイレスの冬」のようなしっとりとした歌いこむものもあったりします。色々なキャラクターの曲を、アンサンブルと共にお届けできることを僕自身も楽しみにしています。今、色々と隠し玉も準備しているところなんですよ。
スタクラフェスでは、演奏家だけじゃなく、来てくださっているお客さん全員が開放的になって、同じ時間を共有できれば、何よりだと思っています。
どちらもおススメの公演ですので、是非会場に足をお運びください!
三浦一馬
取材・文=大野 はな恵 撮影=敷地 沙織

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