Chara デビューから27年、50歳を越
えた今、表現する愛のカタチとは?

前作『Sympathy』から1年5ヶ月ぶり、ユニバーサルミュージックへの移籍第一弾となるオリジナルアルバム『Baby Bump』を12月19日にリリースするChara。普遍的であり刺激的でもある言葉とサウンドで“愛”を表現してきたCharaだからこその、“愛を身ごもる”という壮大にして根源的な意味合いを持つタイトルを冠した今作『Baby Bump』には圧倒的な包容力がある。デビューから27年を経て、今年2018年1月に50歳を越えた今、Charaが表現する愛のカタチとは?
“離婚後、音楽と結婚しました!”みたいに言ってた時期があって、今回はついに妊娠しましたっていう(笑)。音楽との子どもを身ごもった。
――レコード会社移籍後初のアルバムということで。前作『Sympathy』(2017年7月発売)はCharaさんのガーリーなテイストが全面に出ていましたが、今回はさらにコアでありながら踊れる一枚となりましたね。作る前に描いていたテーマとかはあったんですか?
私はアルバムアーティストだと自分で思っていて。アルバムに入ってる数曲の中に、先だったメインが一曲だけあって、あとはとりあえずそこに並べるために作っていく、みたいなのもあるけど、私はまずアルバムのコンセプトがあって、ストーリーがあったり伝えたいことがあって、伝えたい人のために作っていくタイプなんですよね。そういう意味で今回のアルバムは、デビュー当時の私を知ってる人が“あ、昔のCharaじゃん”って思うようなものになったかなっていう。私、もともと全部打ち込みで、プリンスとかマルチプレイヤーが好きだったんです。今はいろんな機材があるからそういうアーティストもたくさんいるけど、当時は自分でサウンドプロデュースして宅録する人って少なかったんですね。今は楽器ではなくてソフトシンセっていうPCの中にダウンロードしたシンセサイザーとかギターの音を使ったり、気軽に自分の家で録音できる時代になって、インディーズで配信しているアマチュアの方とかも世界中にたくさんいるじゃないですか? でも昔はほとんどいなくて。そういう意味で、ダンスミュージックとか手軽にできるようになったし、私も今回はソフトシンセとかを使ってるんですけど、やっぱりアナログの良さもあるし楽器も好きなので、両方を融合させて作りたいなと思ったんですよね。ちょうどレコード会社も移籍したんで、音楽をやる上でのパートナーも変わる。“CharaはLoveな感じの歌を歌っていて、実生活や人生が反映された歌が多いよね”って、新しいスタッフさんたちなりに理解してくれてる中で、じゃあ今回は“Charaならではのパーティーチューンにしない?”ってことで、“ああ、いいね!”みたいに大きな枠が決まっていったんです。
――ある種、世の中のCharaさん像を中心にしたところから始まった感じですか?
うん、そうかもしれないですね。“バラードは何曲までOKですか?” “1曲かな”って言われて。バラードは1曲に絞って、Charaなりのパーティチューンを10曲くらいというのが先に決まって。夏にフェスとかにも出ないでひたすら12月リリースを目指してきました。
――その中でCharaさんがテーマとしていたのが、“Baby Bump”だったと。
タイトルは最後の最後まで決まらなかったんだけど、何となく私の中で“愛を身ごもる”みたいなイメージがあって。「Baby Bump」の曲自体はもうあったんですけど、英語詞を書くときに協力してくれる友達に“なんの躊躇もなく愛を身ごもる女の子がいてね”みたいな話をして、まずイメージしているものを伝えて英語にしていってもらったんです。“Baby Bump”って妊婦さんのお腹の膨らみのことなんですけど、英語で“愛を身ごもる”っていうのを訳すとPregnacy(妊娠)とかになっちゃうんですよ。それじゃちょっと美しくないなぁと。日本語の“身ごもる”って詩的に美しいじゃない? “妊娠”だと“違ーう!”とか思って(笑)。だったら“Baby Bump”のほうが可愛らしいなと思ったんですよね。それで、タイトルもそのままいくことになって。あとね、“Charaは離婚後、音楽と結婚しました!”みたいに言ってた時期があって。今回はついに妊娠しましたっていうのでいいじゃーん、みたいな(笑)。私ね、3人子供を産むっていうのが夢だったんですよ。もうそれは諦めたけど、今回は想像の中で音楽との子どもを身ごもったというか。そういう意味ではこれからも身ごもり続けることはできるしね、ミュージシャンとして。女としては……せつなくもあるけど。はははははははは。
――いや、じゅうぶんに羨ましいことだと思いますけど(笑)。
でね、それをダンスミュージックに乗せたいなと。50代になって一番最初のオリジナルフルアルバムなんで、その軽やかさみたいなものを出したいなと思ったんです。
――サウンド的に懐かしいなとか王道のChara路線だなと感じる中に、あちこちから新鮮さが飛び出してくるような仕上がりだなと思いました。いろんな年代の人に、ちゃんと訴える、伝わるポイントが散りばめられている。
音楽も、そんなに新しいものって実はそんなにはなくって。その人のオリジナリティというか、誰もいいと言ってなかったバランスとかをいいと言える、自分を信じるチカラがあって新しさが出たりするものだし、新しい楽器が出たりとか新しいスピーカーが開発されたりとか、そういうことによって届くものが変わることはあると思うんですけど。もうわりと出来上がってたりするから、どこに注目したかによって変わるのかなと思うんですよね。ファッションもそうじゃん? 大きい肩パット入ってた人がいたり(笑)、それこそ2枚3枚と重ねる時代もあったんですけど、やっぱり今はもっとすごいものがあったりする。ファッションと音楽の関係もそうだし、特にファンクミュージックとかは人が変だと言う点を飛び越えた面白さを知ってる人たちがやるものだと思うんです。ばかばかしいこともそのひとつ。私はファンクのそういう部分がティーンエイジャーの頃から大好きで、踊りに行くのが好きだったし、体感できる、リアルタイムで変わっていくところが好きだったんですよね。ディスコからクラブに変わった私の世代は、両方を知ってる。楽器の進化によってレコーディングも変わってきたし、何もかもデジタルになっていく様を見てましたからね。そのふたつの良さは出せると思うんです。
――でもそこで、音楽にしろファッションにしろ、好きなものだけじゃなく、その時代の新しいものを取り入れるのは簡単なことじゃないと思うんです。
19歳になる息子がいて。YouTubeでいろんなものを見てるけど、ちゃんとライブに行ったりとか楽器の演奏もしてる。今の時代のものとアナログなものと両方を楽しんでて、私の好きなソフトシンセとかも好きっていう、それが今どきの子なんだなと思ったりして……そういう息子の影響ももちろんあるんですよね。例えば、今って機材が進化してることによってマスタリングの仕方も違うし、スピーカーが変わったからダンスフロアで鳴らす音の作り方もまた違うんですよ。でも、古い手法で作った音を息子とかその世代の子たちに聴かせても、それはそれで面白がったりしてて。1曲目の「Pink Cadillac」とかP-FUNKっぽいのとかも本当に昔からある90年代っぽいサウンドだけど、彼らはけっこう好きみたいでビックリしたんですよね(笑)。でね、ソウルとかファンクは日本であんまり売れないんだけど、私が一番好きなことなんで、やろうかなと思って。
――好きなことを堂々とやる説得力って大きいですよね。
そうでしょ? なんか50過ぎたら自分の声に合ってるのはフォーキーだったり、たとえばせつないバラードだったりするのかなと思うんですよ。そういうのも好きなんだけど、実はそういうのばっかりじゃないし。今までアルバムには1~2曲しか入らなかったようなジャンルに、今回はあえて焦点を当ててみたいなと思ったんですよね。
――だからこそそのぶん、やりたいことは絞られているのに自由度が高いんですね。
そうなんですよ。特に歌詞はね、誰も何も言わないから! まあ、私にそれを言ったところで、面白いことを壊しちゃうことにもなりかねないから、言ってくれない環境で良かったなとは思いましたけどね。今までも言われたことはあったけど、言われたところで私は闘っちゃうし。何十年も闘ってきてるから、そのへんは頑固なんだと思う (笑)。歌詞に関してはね、自分でおかしいと思うところは直すし、あとはフィーリングとして活かした方がいいと思うところは維持するしっていう。アレンジは逆に何も言わないミュージシャンとはやりたくないですしね。私が目上だからって遠慮しちゃうと何も進まなくなっちゃうじゃん? だから今回の海くん(Kai Takahashi/LUCKY TAPES)とかは、尊敬してくれながらもちゃんとプロデュースする力を頑固に持っててくれるからこそ、面白いなぁと思えるし。
――「Baby Bump」のお腹に何かを身ごもるという意味合いだけではなく、“Bump”という言葉のイメージも全面に出てますよね。アルバムの勢いを伝えているというか。
そうそう、そうなんです。ディスコのイメージが新しいレコード会社の担当の人にあって、最初は“ディスコにしよう”と言われて“ディスコって! 古いじゃん!”と思ったんです。でも、世の中への伝え方のひとつではあるなと思って。だからすごく気をつけたのは、昔のディスコ感というか。音の底辺でボンボン言ってるようなのは避けたいなと思って、そこは注意しましたね。

子どもたちがどこかで聴いたときに“うちの母ちゃんやべえ!”って思われる部分があったほうがいいなと思って。いつでも気に入られたいんです(笑)。
――今回、歌詞はどんな方法で書いていったんですか?
“今日は詞を書こう!”と思って携帯とかPCに書くときもあるし、なんでもないときにふっと“ふんふんふん~♪”って始めてそこからバーッと書くときもあるし。今日の一筆書きみたいなね。そういう独り言みたいな中に、なんか美しいなと思える言葉があったりすると、“この言葉を言っていたいな、誰かに聴かせたいな”って思うことがあるんですよ。そこに曲のイメージがあるならまずはその言葉に合う台本を書いていって、自分のネタをちょっと見てみようかなぁって、あらためて見たときに目に留まるものがあったら、そこからまた新しいページを始めていったり。そうやって何回か書いていく中で、だんだんと歌詞が定まっていくのが好きなんですよね。今回のも、ほとんどがそうだったな。あとはもう、声に出してみる。実際に声に出してみると、なぜか自分の声に合ってなかったりとか、息継ぎを含めてムズい! とかもあったりして(笑)。文字では良かったけど歌うと違うから少し変えてみる、とか本当にいろんなやり方で仕上がっていくんですよね。
――今回も、単語選びやメロディの乗せ方しかり、こりゃCharaさんにしか歌えないなという歌詞ばかりでした。
自分自身、歌ってみてわかることのほうが多いですけどね。“この歌詞のこれは言いたいから、ラップなわけじゃないけどここからここは16小節で言い切るね”みたいなのは決めてたり。で、ちょっと整理してみたら“あ、歌えない。言えない! ここ消す!”とかもあったり(笑)。はみ出しすぎちゃった~とかもよくありますから。
――その歌詞の中で歌われることは“Love”が多いですが、Charaさんが歌っていきたい、伝えたいこともこれまでずっと一貫しているということなんでしょうか。
私は愛を歌うんだと特に決めてるわけでもないし、無宗教なんだけど……音楽を好きになった頃に憧れたミュージシャンはだいたいゴスペルというのをやっていて、教会で歌ってる人とかだったんです。だからその歌詞なんて、ほとんどが“感謝”であり“愛”であることが多いから、なんとなくその影響はあるんですよね。
――25周年も越え、50歳を迎えてもなおかつ愛を歌うというのは、もはやそれがCharaさんのスタイルなわけで、納得いくんです。でも、そのテーマがどんどん濃厚になっていくのがすごいなと思うんですよね。何かこう、愛とか恋とか卓越した“Love”というか。
うーん、でも歌えることなんて愛しかないからねぇ。他のことに興味がないんですよね。自分が歌うようになる前から、アレサ・フランクリンとかが歌う愛の歌が好きだったし。もっと知りたいと思っても、教会なんて埼玉の田舎にはなかったし、いざ教会を探してみても日曜学校とかしかなくて、ゴスペルじゃなく“今日の反省”みたいなのをやってたりしてね(笑)。でもだんだん、ソウルミュージシャンの音楽を聴いたりライブに行ったりしてるうちに影響を受けてたんでしょうね。歌は愛を歌うものだっていうか。そういう意味では今回のアルバムは、確かに濃いんです。ついに“愛を身ごもる”までいっちゃって、私の第三子みたいなものなわけですから。これからもこの想像妊娠は、続行していきます(笑)。
――妊婦さんってお腹に幸せの象徴を抱えているぶん、柔らかい雰囲気に包まれたイメージがあって。でも、実はお腹の赤ちゃんを守るという役目も課され、すごく中身は強かったりするんですよね。“Bump”という言葉も手伝って、どんな相手でも強引に抱き寄せて寝かしつけちゃうような、すごく強さのある愛の形を感じました。
あぁ~、バレました?(笑) ていうかそれ、いいね! “はーい、待て待て待て~(つかまえて横抱きして)トントントントン”みたいな(笑)。まぁ、私がCharaである以上、私ができる役割って何だろう? ってすごく考えていて。きっと、自分が続けていくことが大事だなと思うんですよね。続けていくのって、すごく大変だから。で、それを続けた上で、次に大事なのはいかにショートカットして楽しむか、ということで。それって判断力がなきゃできないことなんですよ。自信だけじゃなくて、ちゃんとした判断力がなきゃ失敗することが多くなっちゃう。たぶん、それをできる勇気があるんだよね。そのへんが歌にも強さとして出てきてはいるかもしれないです。
――まだ新しいものと出会えて、刺激を受けて、そこから続けていけるという環境を作れているのが素晴らしいです。
なんか、寂しいのは嫌だから。たまに大物女優さんとかで“仕事と結婚してる”みたいな人がいるけど、私はそういうタイプじゃないなぁと思って。私ね、まだ諦めてないから。そもそも幸せになるために歌を始めたんですよ、失恋のあとに。今はまだ独身だし、さすがに新たに子供を産むのは諦めましたけど(笑)。
――Charaさんの歌は恋愛現役の人じゃないと歌えない歌たちですしね。振り返りや守りに入るのではなく、確実に進んでいってる人の音楽。だからこそキュンとくるんでしょうね。
ああ、でもそれはあるかもね。ファッションとかも、もちろんある程度の年齢になると自分の好みは定着してくるけど、私はミュージシャンだから、何を着ても上司に怒られたりするわけでもないし。お母さんとしての立場で行く場所でも、もうCharaだってみんなが知ってるから普通の格好したら余計に変だったりして。昔、娘に「〇〇ちゃんのママみたいな恰好で来て」って言われて着てみたら、逆にコスプレみたいになっちゃって(笑)。少し世間からは浮いちゃうとこもあるけど、これでいいかなぁって思うんです。だから今回のアルバムも、歌詞に関していうと言葉を発する上での責任はあるなというのは常に思っていることなんですけど、今までと違うのは、以前なら歌うときにある程度、歌詞もフィックスして、メロディを重視するために言いたいことを少しだけ諦めて真ん中を取るとか、言葉の意味としてはこっちのほうが近いけど響きのいいほうに変えるとか、そういうことをしてたんですよ。でも、最初に浮かんできた言葉のまま使うことが今回は多くて。それが自分にとってはフレッシュだったんですよね。あとね、子どもたちがいつかどこかで聴いたときに、“げっ! うちの母ちゃんやべえ!”って思われる部分があったほうがいいなと思って。いつでも気に入られたいんですよね(笑)。そういうのも自分らしくいさせてもらえる理由のひとつだし、すごくありがたいなと思ってます。
取材・文=川上きくえ

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