the quiet room、“ロックバンド回帰
”した最新アルバムに至る1年3ヶ月を
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前作『Little City Films』のリリースから1年3ヶ月、the quiet roomが7月4日にアルバム『色づく日々より愛を込めて』をリリースした。ここ最近日本語に触れる機会の多かったというボーカル・菊池 遼が、あらためて日本語の美しさと向き合い書かれた歌詞、よりロックバンド感への回帰を意識したというサウンドで綴る全8曲を聴けば顕著だが、前作リリース以降の日々は、多くの面でバンドに変化をもたらしていたようだ。ライブを重ねたり、運転免許を取得したり、図らずもSNSがバズりがちになったり、制作風景も変わってきたり。茨城から上京して以降バンド一筋で突っ走ってきた彼らは、いま新たな扉を開こうとしている。
──アルバム『色づく日々より愛を込めて』をリリースされますが、前作『Little City Films』からの約1年3ヶ月は、バンドにとってどんな時間でしたか?
菊池 遼(Vo/Gt):前作のリリースツアーの後に、ツアーをもう1本やったんですよ。『運転免許取得☆車でGO!GO!ツアー 2017』という、まあ、しょうもない企画を挟んでいて(笑)。僕らはベース以外が免許を持っていなかったので、それまで運転はスタッフさんに任せるか、バスや普通電車で移動していたので、自分達で活発に動けるようになりたいと思って免許を取りに行ったんですけど。そこから遠征することも増えたし、それにあわせてライブの本数もかなり増えたことで、グルーヴやチーム感が増したかなと思います。
斉藤 弦(Gt):これまでは基本的に菊池がセットリストを決めて、ライブの流れを作る感じだったんですけど、こういうことを取り入れたらどうだろうとか、MCもこういう喋り方のほうがよかったかもとか、自分からもいろいろ言うようにもなって。ライブの作り方みたいなところで、みんなで意見を出しあっていた期間でしたね。
菊池:ライブについては、別に今までも自分がひとりでやっているとか、メンバーの誰かがやっているというつもりなかったんですけど、より4人でやっている意識が強くなってきたし、しっかり話をしながら活動できた1年3ヶ月だったかなと思います。
──充実感、ありますか。
菊池:ありますね。その期間にリリースがなかったとは思えないというか。
斉藤:うん。あっという間に経ってしまったっていう。
菊池:まあ、いまだに縦列駐車は苦手ですけどね(笑)。
──はははは! そんな日々のなかから生まれた今作なわけですけども、どういうものにしようと思っていましたか?
菊池:今回は最初から日本語タイトルにしようと決めていたんですよ。いままでは全部タイトルが英語だったんですけど、最近、日本語の響きの美しさにフォーカスを当てていきたい気持ちが個人的に強くなってきていて。元々歌詞はこだわっていたんですけど、よりこだわったものにしようと思ってました。
the quiet room・菊池遼 / 斉藤弦 撮影=風間大洋
──なぜまたさらにこだわろうと思ったんです?
菊池:最近、言葉と触れ合う機会が多くて。雑誌でコラムを書かせてもらっていたり、あとはまあ、SNSとか。
斉藤:(笑)。
──どうされました?(笑)
斉藤:いや(笑)、なんか、まあまあちょっと、(菊池の)ツイートがバズりがちな感じになっているので。
菊池:最近Twitterの人になってるんですよ。
斉藤:バンド界隈でTwitterが有名な人となると、菊池の名前が出るっていう。
菊池:まあ、ちょっと心が寂しい時期があったんですよ。で、そういうことを書いてみたら、事務所の上の方達が「それいいよ、そういう雰囲気おもしろいよ」っていうことになり、続けていたら人気が出てきてしまったというか。僕としては、それが聴いてもらえるキッカケになればいいなと思っているんですけど。
斉藤:今はもう当初とは違うキャラになっていて、ぶれ始めてるから。でもまあ頑張ってるのを知ってるから、話を聞いていたらなんかおもしろくなって笑っちゃったっていう。
菊池:結果、SNSはふざけた感じで更新してはいるんですけど(笑)、そのなかでも見えてきたり、感じたりするものもあって。たった140文字だけでもこれだけ幅を広げられるのであれば、1曲の歌詞ならもっとできることがあるよなって。この1年間、なんとなくそういうことが頭にありながらのアルバム制作だったので、日本語を大事に歌詞を書いてました。あと、サウンド面としては、ロックバンドとして原点回帰をした部分を見せたいなと思って。
──というと?
菊池:これまでは、いい意味でも悪い意味でも散らかっていたというか、好き勝手やりすぎたなと思って。前作の『Little City Films』が顕著でしたけど、リード曲の「Fressy」と「Locus」が真逆の感じだったんですよね。それがやりたかったことではあるんですけど、今回に関してはその真ん中というか。ロックでかっこいい部分も、ポップで聴きやすい部分も、両方受け入れてもらえるものにしたかったんですよ。だから、今回のリード曲になっている「Prism」と「東京」に関しては、そこを意識して、どの世代からも受け入れてもらえるようなバランス感で作ろうと思ってました。
the quiet room・菊池遼 撮影=風間大洋
──「Prism」を作るときは具体的にそういう話をしていったんですか?
菊池:たぶん自然と伝わるだろうなって、メンバーに「こういう曲にしたい」というのは特に伝えなかったんですけど、コード進行を暗いところから明るくするのは決めていたので、メンバーもそれに合わせてくれたんだと思います。
斉藤:強いて言えば、そこが難しかったっすけどね(笑)。サビはポップなのに、頭のほうは結構暗いから、どうやって差をつけるのかっていう。
菊池:でも壮大な感じが出たよね。今回からレコーディングに関わってくれるスタッフさんが変わったんですよ。
斉藤:エンジニアさんもそうだし、これまでとまったく違った環境で録っていて。
菊池:前が嫌だったとかそういう話では一切なく、ちょっと一新してみようって。それもサウンドの壮大な感じに繋がったのかなと思います。
──「Prism」の<捨てられないなら このまま 全部抱いて 走っていこう>という歌詞に、かなりグっときました。この一節はリリースツアーのタイトルにもなっていますけど、どういうところから出てきたんですか?
菊池:いままでは「新しいところに」という意識が強かったんですよね。どんどん新しい人に聴いてもらいたい、どんどんthe quiet roomを知らしめていきたいっていう。でも、自分達でツアーをまわって、いろんなことを話し合って考えていくなかで、今まで聴いていてくれた人のことも大事にしたいというか。これまで大事にしていなかったわけではないんですけど、さらにそういう思いが強くなって。
──なるほど。
菊池:なんか……たとえばですけど、「もうthe quiet roomとか聴けないな」って思ってしまった人に対しても、諦めたくないというか、見捨てたくないというか。過去を忘れていくんじゃなくて、そういったものすべてをまとめてthe quiet roomとして、全部抱えていけたらいいなって。そういう決意を込めたツアーにしたいと思って、タイトルにはしたんですけど。
斉藤:「Prism」の歌詞は結構ギリギリまでやってたんですよ。
菊池:全体像はさらっと書けたんですけど、どうしてもそこのフレーズが納得いかなくて。歌録り30分前まで考えてましたね。
the quiet room・斉藤弦  撮影=風間大洋
斉藤:菊池はいつもどういう曲にしたいのかを言わないから、どういう気持ちで歌詞を書いたのかをこういう場で知ることもあるんですけど。でも、ギターのフレーズとか雰囲気を作るために、歌詞は読んだんですよ。歌詞を知ってこその歌だなと思ったんで。
菊池:そんなこと言うんだ!?
──意外でした?
菊池:いや、いつも歌詞読んでくれてなかったんで。今回は読んだんだね?
斉藤:まあ多少はね。俺はコーラスもやっているんで、多少なりとも歌詞を知っておかないとテンション感にブレが出るなと思って。ボーカルが気持ちを入れて歌っているのに、俺だけ自分のテンションで歌っていてもなぁっていう。そこも、ライブの作り方を考えたときに必要な部分なのかなと思ってやっていた……という話を、いまここで初めてしました(笑)。
菊池:(活動期間が)長くなってきたから、あまり丁寧に説明しなくなってきてるんですよ。でも、ちゃんと考えながら読んでくれているのは、前作からの成長というか。たぶん、マジで前作は誰も歌詞を読んでなかったから(笑)。
斉藤:音作りとかも、歌詞を知っておいてからしたいなと思って。
菊池:……ものすごく当たり前の話ではあるけど、なんかいま結構じーんとした。
──収録曲は喜怒哀楽様々な感情を歌われていますが、「ハイライト」だけベクトルがだいぶ違っていて。
菊池:完全に「怒」ですよね(笑)。
──しかも、ここまでの「怒」も、これまでなかったんじゃないかなと思ったんですが。
菊池:「表情豊かに生きる」をテーマにしているので、バンドとして喜怒哀楽全部を歌いたいというのはずっと思っているし、バンドをやるのであれば、国民的というか、老若男女誰にでも聴いてもらえるような音楽をやりたいと思っていて。たとえばMr.Childrenって、どんな曲をやってもサマになるじゃないですか。すごいキュートな曲をやっても自然と受け入れられるし、ものすごいダークな曲をやってもロックバンドとして成立しているあの形に、すごい憧れがあるんです。さっきも言った通り、今回は原点回帰を意識しつつアルバムを作ったんですけど、いろんなものを見せていきたい気持ちは全然衰えていなくて。その一部が「ハイライト」だったりしますね。
──いろんな表情を見せるためにも、ここまで強い「怒」を書く必要があったと。
菊池:そうですね。それに、the quiet roomって、ライブパフォーマンスが意外と激しいんですよ。すごい暴れたり、シャウトしたりするので、こういう曲が一個ないとメンバーのボルテージが上がらないっていうのもありますね。
斉藤:「ハイライト」は、歌詞が本当にあがってこなかったんですよ。その間にアレンジを遊びまくった結果、なんかもうはっちゃけ倒しているというか(笑)。
菊池:もともとイントロは違うフレーズだったんですけど、インパクトがあるものに変わったことで、これじゃサビメロが弱すぎると思って書き換えて。で、メロディーが変わると歌詞も変わるから、またそっちも書き換えるっていうのを何回か繰り返してたんですよね。メンバーがいいものを出してるから、自分もいいものを出さないとって。時間もかかったし、効率は悪かったんですけど、いい意味でぶつかりあって良くなった曲かなと。
the quiet room・斉藤弦 / 菊池遼  撮影=風間大洋
──いままでの曲の作り方としては、最初に菊池さんが弾き語りのデモを作って、それをバンドで固めていく流れでしたけど、そこはこれまでと変わらず?
菊池:そうですね。弾き語りのデモをメンバーと肉付けしていく感じなんですけど、「Landscape」は、彼(斉藤)がイントロからAメロぐらいまでにかけて作ってきたコード進行を、元々あった曲とくっつけていて。
斉藤:いままでそういう作り方は一回もやってなかったんですよ。菊池はああいう感じのやつを絶対に考えてこないんで、これちょっと弾いて?って頼んで。
菊池:こんなコード押さえたことないよって言いながら(笑)。
──あと、「シュガータイム」は、ブラックミュージック的な雰囲気もあって気持ちよかったです。
菊池:僕は音楽理論や知識があまりないので、メンバーに「ちょっとブラックっぽい感じで」とか「ジャズっぽいのください」って(笑)。それをみんなで試行錯誤していく感じでしたね。あと、個人的には今回のアルバムで、歌い方に関しては一皮剥けたかなと思います。元々意識してはいたけど、息遣いとか、言葉の長さとか、そういう微妙な変化で印象をかなり変えられることに改めて気づけて。それこそ「シュガータイム」と「ハイライト」で真逆のことができているし。
──「シュガータイム」は艶っぽさもありますよね。
菊池:色気を出していきたいんすよねえ。
斉藤:はははははは(笑)。
菊池:色気ムンムンおじさんになりたい。
斉藤:ちょいワル親父みたいな?
菊池:そう。もうすぐ25になるんですけど、茨城から上京してきてからバンド一色で駆け抜けてきて、このまま勢いだけやっていくのもこの先ちょっと厳しいのかもしれないなって。先輩のバンドマンも色っぽい人が多いし、それこそミスチルにも艶のある曲があるじゃないですか。そういうところにチャレンジしてみようと思ったのが「シュガータイム」でした。
──ただ、喜怒哀楽様々な曲がありますけど、「哀」が強めですよね。いまここにはない存在であったり、過去にあったことを振り返っていたりしている歌詞が多くて。
菊池:今回は別れがテーマの曲が単純に多いんですけど、やっぱり別れって人間誰しも迎えるものというか。恋愛だけじゃなくても、たとえば寿命とか、仕事とかでもあるだろうし。そういう別れと向き合ったときにどうするのかをテーマにしてますね。「別れ=哀」というわけでも、単純な悲しみを歌っているわけでもなく、そこから次の一歩をどうするんだ?っていう。特に「Prism」と「東京」に関しては、そういうテーマで書けたと思います。
──斉藤さんは、「東京」も歌詞を噛み砕きながら作り進めていったんですか?
斉藤:まあ、歌詞を読むと、悩んでいたあのときの菊池がどうしても出てくるというか(笑)。
菊池:なんかいろいろありましたね(笑)。
──そういう生々しいものだからこそ伝わるものもあると思いますしね。
菊池:今作は主観的なんですよ。前作は『Little City Films』というタイトル通り、短編映画集みたいなものを意識して、それぞれの主人公たちの物語を客観的に書いていたんですけど、今作は、自分が感じたことをそのまま曲に入れ込めたかなと思います。ひとりの主人公がこのアルバムを通して――
斉藤:架空の誰かがね。
菊池:そう。ひとりの人間が別れと向き合っていくストーリーを描けたかなと思います。
──斉藤さんは、今回はどういうアルバムにできたと思いますか?
斉藤:曲の世界観みたいなものは菊池に全部まかせていますけど、ギタリストとしては、自分のなかにいままでなかったフレーズを出せたなと思っていて。なんか、「新しい自分の扉を開けました」みたいなベタな感じにはしたくないけど、まあ、新しい自分の扉を──
菊池:結局それ使うんかい(笑)。
斉藤:8曲すべて、音色ではなくフレーズでもっていけた自信はありますね。
菊池:僕がいつも難題をふっかけるというか、どの曲にもギターソロを入れさせるんですよ。僕がライブを想定して曲を書くし、ライブを想像しながらスタジオであわせていくので、自然とそうなるんですけど。
──ギタリスト的にやっぱりソロがあると嬉しかったりします?
斉藤:まあでも、嬉しいというか、「弾いて当然でしょ?」ぐらいの感じですよ。なんか、デカい気持ちじゃないですけど、「まあ頼まれたら弾いてやるよ」ぐらいの(笑)。
菊池:こう言ってますけどツンデレなんですよ、実は。
斉藤:(笑)。作っているときは、「あと3曲ぐらいギターソロ考えなきゃ……」って思ってましたけど、結果いいもんしかできてないから最強っすわ、みたいな感じです(笑)。
菊池:でも、前作は本気で嫌がってた気がするんですよ。「また!? またギターソロ!?」みたいな。でも、今回は一回も文句言わずに「しょうがねえなあ!」って。そこも成長なのかも。
──そして、先ほどお話にも出ましたが、リリースツアー『捨てられないからこのまま全部抱いて走っていくツアー』が決まっています。
斉藤:自分達のツアーとしては行けていなかった場所にも行くので、そういった新しい場所に挑戦しに行くというところも考えて頑張りたいです。
菊池:ツアータイトルの通り、観に来てくれた人も、対バンしたバンドも、関わってくれた人達みんなを抱きしめてというか。みんなを巻き込んで、またひとつ大きくなれるツアーになればいいなと思います。

取材・文=山口哲生 撮影=風間大洋
the quiet room・斉藤弦 / 菊池遼  撮影=風間大洋

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