【矢沢洋子】“自分最高!”みたいな

アルバムになった(笑)

矢沢洋子がキャリア初となるフルレンジのアルバムを完成させた。自身の名前を掲げ、ロックに、シンプルに作られた本作について、“やりたいことだけをやれた作品”と彼女は語る。つまり、それだけ矢沢洋子が感じられるアルバムに仕上がっているということだ。
取材:石田博嗣

“ロックをやりたい”っていう思いが
かなりハッキリとしていた

2008年秋にthe generousでデビューした後、2010年2月から本名でアーティスト活動を開始し、ついに待望の1stアルバム『YOKO YAZAWA』が完成したわけですが、まずソロになった時の心境はどういうものでしたか? どういうことをやりたくなったというか。

2008年10月にミニアルバム(『the generous』)でデビューして、翌年の3月に1stシングル(「Heart」)を発表したんですけど、そこからずっとリリースが止まってたんです。ですけど、その頃から自分の中では“あっ、私はロックが好きなんだな”って思ってて、“歌うんだったら、ロックをやりたい”っていう思いがかなりハッキリとしていたんですよ。だから、1stシングルをリリースした後ぐらいから、今回のアルバムに向けての楽曲集めや作詞をしていて…そういう意味では、このアルバムは作るのに結構時間がかかりましたね。なんで、自分の中では今年になってから決めたっていうよりは、結構前から固まっていた感じです。

でも、the generousはユニットだっただけに、ソロになるということへの覚悟みたいなものもあったのでは?

本名にしたのは今年の2月なんですけど、本名でやったほうがいいかなって思いはじめたのは、去年の夏の終わりぐらいなんです。でも、“矢沢”という名字を名乗ることの重み…自分にとっては父親なんだけど、世間が見ている“矢沢永吉”という人の大きさを知れば知るほど、やっぱり“矢沢”という名前を出す怖さや危険性を感じて、正直言っていろんな葛藤があったんです。だから、去年の秋冬頃っていろいろ考えていたんですけど、いろんなことを引っくるめて思い直してみたら、2008年にデビューして自分も父親と同じ仕事を選んだ時点で、もう腹を括っているわけですよ。言ってしまえば、たかだか名前じゃないですか。そんな小さいことで悩んでも仕方ないし、“もう、別に良くない? 行っちゃえ!”っていう感じでしたね(笑)。あと、“矢沢”という名前を自ら名乗ることで、自分にプレッシャーを与えるというか、自分で自分のケツを叩く…そういう意味では、そこでさらにエンジンがかかったっていうのもありますね。だから、結果的に…って、まだ始まったばかりなんですけど(笑)、本名にして良かったと思ってます。

では、今回のアルバムについてなのですが、1stシングルをリリースした頃から構想もあったのですか?

最初はぼやけた感じでしたけど、とりあえず“ロック”という言葉だけは常に頭の中にあって…とはいえ、ロックって幅広いじゃないですか。言ってしまえば、何でもロックになるし。だから、自分の中で“私がやりたいのはコレ”っていう大きなテーマを作って…逆に、ひと言に“ロック”って言ってもいろんなものがあるっていうのを提示したかったんです。だから、“めっちゃロックしてるな”って分かりやすいロックなものもあれば、あえてバラード的なものもあって、そのバラードも絶対にどこかにロックのポイントがあるっていう…そういうものを意識してましたね。ビジュアルのイメージも含めて、明確に見えてきたのは今年に入ってからですけどね。

作家さんに曲を依頼する時も“ロックなものをお願いします”という感じで?

そういう感じでした。“ちなみに、私はこういうアーティストが好きなんですけど”って言いつつ(笑)。で、100曲以上デモが集まったんで、それを聴いて…その作業が大変でしたね。自分が聴いてる上では“カッコ良いじゃん!”って思っててもデモで歌ってみると全然ダメだったり、逆に“これは違うかな”って思ったものを試しで歌ってみたらすごくハマったりして。もちろん、100曲全部歌ったわけじゃなくて、30曲ぐらいに絞ったんですけど。

その30曲ぐらいあったものから、今回の11曲に絞ったポイントというのは?

どうしても自分の好みって似てしまうじゃないですか。Aという曲とBという曲があって、アルバムを手に取っていただいた方が聴いた時に“AとB、似てるんじゃない?”ってなる可能性があると、どんなに気に入ったものであってもどちらかを外しました。あと、収録曲が11曲っていうのは、そんなに多いほうじゃないと思うんですよ。それはあえてそうしたんですね。“この人の曲、もうちょっと聴きたいかも!”って思ってもらえればうれしいかなって。何でもそうなんですけど、ありすぎるとお腹いっぱいになっちゃうじゃないですか。飽きてしまって、“もういいや”ってなる。そういう感じにはならないようにして、さらに“この先、どうなるのか気になるな”ってところで止めたのが、この11曲というボリュームだったんです。

そういう狙いがあって、11曲で時間的に約40分とサクッと聴けて、それでいてインパクトも残すという内容になったんですね。

そうですね。ひとりのプロデューサーに全部やってもらうんじゃなくて、1曲1曲…例えば、アイゴン(會田茂一)さんには『fade away』と『月光』の2曲をやってもらったんですね。すごくわがままな話なんですけど、そうやっていろんな方の協力を得て楽曲的にボリューミーなアルバムを作りたかったんですよ。ほんと、たくさんの人に協力していただいて、一緒に作業していったんですけど、いい感じにまとまったし、すごく良いものになったと思います。

全体的にバンドサウンドになっているわけですが、そこも意識的に?

めちゃくちゃ意識しました。とにかく“ライヴで歌える”がメインのテーマとしてあって、さらに“分かりやすさ”がある…“余計なものを入れない!”っていう規則に沿って作ったというか。

だから、いい意味で派手さがないんでしょうね。打ち込みや同期モノで装飾されていないし、ギターも歪んでないし。

ほんとにシンプルなものにしたかったんですよ。これから活動を続けていく上で、打ち込みを入れて派手にしたりするかもしれないですけど、今回のアルバムに限っては…っていうか、“矢沢洋子”名義でやるデビューアルバムなので、“シンプルな洋子はこういうアーティストです”っていうのを分かってもらう、紹介的なアルバムにしたいと考えていたんです。やっぱり、最初なんでシンプルで分かりやすいのが一番いいっていうか。

すっぴんな感じですね(笑)。

はい。でも、ジャケットの化粧は濃いっていう(笑)

妥協が一切ないっていうか
まったく我慢をしていない

歌詞にも注目したいのですが。挑発的で強気なんですけど、一旦恋に落ちるととことん相手を好きになってしまう女の子が描かれているのは、ここにもすっぴんの自分が出ている?

出まくってますね(笑)。『月光』と『逢いたい』の歌詞は共作なんですけど、それ以外は自分で書いていて、出来上がって初めて気付いたのが、恋愛をテーマにした曲が多いっていうことですね。一応、私も24歳の女子なんで(笑)。同世代の女の子が考えていることって、きっと恋愛のことばかりで、ちょこっと仕事って感じだと思うんですよ。もう子供じゃないし、十分に大人だから、結構いろいろあると思うんですね。恋愛のパターンもいろいろあると思うし。ラブラブの人もいれば、何股もかけている人もいて、不倫をしている人もいたり…。でも、どんな恋愛をしている人が聴いても、ちょっとでも共感してもらえる部分があるかなって思ってます。自分の実体験だったり、友達の話とかを参考にしてるんで。

実体験も入っているから歌詞の主人公と洋子さんが重なるんでしょうね。「crazy for you」はタイトル通りだし、共作とはいえ「月光」では彼氏のところに押し掛けているし、「Let Me...」はボロボロになるぐらい好きになってるし、共通するものを感じますよ。

私が書いているから共通しているんでしょうけど、すごく強気で、思い立ったらすぐに行動するんだけど、臆病なところがありつつ、すぐに泣いちゃうところもあるっていう…何だかんだ憎めない女子が多々見受けられますよね(笑)

そして、「英雄~HERO~」や「high☆tention」では自分の生き様が出ていると(笑)。“気の向くまま暴れて 反省すればいいじゃん”っていうのは男前ですよ。

そうですね(笑)。悩んでしまうことって誰にでもあると思うけど、悩んで悩んで“もうどうでもいいや!”って思うことってあるじゃないですか。“なるようになるよ”みたいな感じで、“男・洋子”が急に現れることがよくあるんですよ(笑)。もちろん人生は頑張ったほうがいいんだろうけど、“どうでもよくない?”ぐらいフリーな気持ちで、たまに全部を解放させるのもいいんじゃないか…と単純な私が出ているというか(笑)

なるほど(笑)。ちなみに、洋子さんが歌詞を書く時に意識していることはどんなことですか?

歌詞は携帯で書くようにしているんですよ。しかも、ベッドの上で。自分の部屋での定位置ってあるじゃないですか。私、部屋にいる時ってだいたいベッドで寝転がっているので(笑)。以前はパソコンの前に座って、“さぁ、書くぞ!”っていう意識を持っていないと書けなかったんですけど、今回は素の私、普段の矢沢洋子を出した…出したかったわけじゃなくて、友達と電話した後にベッドに寝転がって、歌詞っていう感覚ではなく、“暇だな~”って感じで思ったことを携帯に書いていったら、パソコンに向かって書くよりも素直な言葉が出てきたというか。それで携帯で書くようしたんですよ。

だから、歌詞に自分が出ているんでしょうね。

そうなのかなって自分でも思いますね。今回の歌詞は全部そうやって書いているので。

その歌詞を歌う時なのですが、やはり1曲1曲に入り込んで?

ありがたいことに時間に余裕があったので、同じ日に2曲以上録ることがなかったんですよ。歌だけで3カ月ぐらいかかったんですけど、間に2週間休んだりして、1曲録ってまた1週間休むっていう、すごくわがままな録りかたをさせてもらったんですね。そのおかげでテンションがそれぞれの曲だけに向かってました。

満足のいくアルバムが作れたという感じですね。

こんなこと言うのも何なんですけど、自分のやりたいことだけをやれることってなかなかないじゃないですか。特に、大人の世界にいると(笑)。でも、妥協が一切ないっていうか、まったく我慢をしていないんですよ。“あそこ、もうちょっとこうしたかったな”っていうのが1ミリもない。ほんと、やりたいことだけをやれた作品ですね。ジャケ写もすごく気に入っているし…私の大好きなブランドでもあるHYSTERIC GLAMOURさんに全部プロデュースしてもらったんですよ。なかなか、今、こんな格好してるヤツいないじゃないですか。確かに、女の子の間でロックファッションがブームになっていて、ライダースを着ている子とかいるけど、ここまでハードな女はいないだろうって(笑)。でも、昔はいたんですよね。その懐かしいんだけど、それが古臭く思えるんじゃなくて、逆に新しくてカッコ良く思える…実はそういう女性が私の中での憧れだったりするんですよ。なので、髪も黒く染めたんです。夏前だし、真っ黒だと魔女になっちゃうと思ったりもしたんですけど、完成したものを見てみると、“さすが、HYSTERIC GLAMOUR!”と思いました。

このビジュアルを見ただけでもロックだと思いますしね。あと、バンドがバンド名を掲げることはよくあるのですが、ソロのアーティストが自分の名前をタイトルに掲げるのは珍しいかなと。

ハハハ、確かにそうですよね。最初は“H・NEY BUNNY”にしようと自分の中では思ってたんですけど、流れで“YOKO YAZAWA”になったというか…なんか、タイトルも含めて“自分最高!”みたいなアルバムになってますね(笑)。でも、このアルバムを私のことを知ってる友達とかが聴くと、きっと“洋子らしいね”っていう言葉をくれると思います。
矢沢洋子 プロフィール

ヤザワヨウコ:東京出身。12歳の時に家族とともにL.A.に移住。高校卒業後、日本に帰国し、2008年にユニットでデビュー。10年2月から、本名でのアーティスト活動を開始し、同年8月に1stアルバム『YOKO YAZAWA』を発表。12年10月には“矢沢洋子&THE PLASMARS”名義でミニアルバム『ROUTE 405』を、翌年11月には再びソロ名義で、矢沢永吉プロデュースによる『Bad Cat』をリリースした。オフィシャルHP

OKMusic編集部

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