新国立劇場オペラ『ワルキューレ』全
貌を現す~ゲネプロ・レポート【シリ
ーズ『ワルキューレ』#5】(動画あり



新国立劇場『ワルキューレ』』ゲネプロ(撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場)

新国立劇場『ワルキューレ』』ゲネプロ(撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場)

悲劇的なジークリンデ(ジョゼフィ―ネ・ウェーバー)と、刹那の命を生きるジークムント(ステファン・グールド)の濃密な掛け合いは劇的で、歌手たちの磨き抜かれた歌唱が圧倒的。グールドは『ライン黄金』で見せた飄々としたローゲ役とは打って変わって、暗鬱で悲劇的な表現力が際立つ。フンディング役のアルベルト・ペーゼンドルファーも大柄な山男といった風貌で、迫力のある悪漢を余裕の声で演じた。

新国立劇場『ワルキューレ』』ゲネプロ(撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場)

新国立劇場『ワルキューレ』』ゲネプロ(撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場)

しかし『ワルキューレ』の物語で大きな鍵となる演技を見せたのは、ヴォータン役のグリア・グリムスレイかも知れない。2幕の冒頭から「人間的で矛盾に満ちた」神の役を意気揚々と歌い上げ、フリッカの怒りをなだめる恐妻家の芝居も見事だった。海賊船のキャプテン風の衣装がよく似合い、微かな悲哀を帯びたバス・バリトンが、新国立劇場の空間が小さく感じられるほどダイナミックに響き渡る。グリムスレイはこの役を10年以上歌い続けているそうだが、歌手自身が深く掘り下げて準備していたことを伺わせた。

新国立劇場『ワルキューレ』』ゲネプロ(撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場)

ブリュンヒルデ役はこの役で世界的な評価を得ているイレーネ・テオリン。ニュアンスに富んだ透明感をもつ発声の美しさに、ブリュンヒルデ役に抱いていた先入観を書き換えられる心地がした。重々しさとは無縁の若々しい声で、ミステリアスな響きが耳に心地よい。グリムスレイとの相性は抜群で、フリードリヒ演出が荒唐無稽なアヴァンギャルドではなく、あくまで人間関係を軸に構築されていることがうかがえた。

新国立劇場『ワルキューレ』』ゲネプロ(撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場)

新国立劇場『ワルキューレ』』ゲネプロ(撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場)

度肝を抜かれるのは、3幕の『ワルキューレの騎行』。主役級の日本の女声歌手たち~佐藤路子、増田のり子、増田弥生、小野美咲、日比野幸、松浦麗、金子美香、田村由貴絵~がセクシーな8人のワルキューレに変身し、男性の死体を乗せた担架を「乗りこなし」ながら、姉妹同士で戯れる。声楽的に厳密なアンサンブルを要求されるシーンだが、豊かな声がぴったりと合い、舞台姿も妖艶だった。傾斜した床が点滅するキッチュな仕掛けも面白く、ラストでこの電飾はブリュンヒルデを囲む岩山の炎になるのだが、それが実に美しい舞台効果を上げていた。

新国立劇場『ワルキューレ』』ゲネプロ(撮影:安藤光夫)

新国立劇場『ワルキューレ』』ゲネプロ(撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場)

新国立劇場『ワルキューレ』』ゲネプロ(撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場)

ヴォータンが自分に背いたブルュンヒルデを罰し、岩山に娘を置いて去るラストシーンは、凄まじい感興に襲われる。グリムスレイはヴォータンを「人間として演じる」と語っていたが、その一貫したポリシーがここでいよいよ冴え冴えと輝き出したのだ。彼の歌唱と演技は「娘を愛さぬ父はいない」という人間の真実を伝え、権力をもつ者の矛盾を暴いた。ワーグナーのスコアと向き合い、歌手が自己の人生を賭けて辿り着いた境地だろう。

新国立劇場『ワルキューレ』』ゲネプロ(撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場)

新国立劇場『ワルキューレ』』ゲネプロ(撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場)

新国立劇場『ワルキューレ』』ゲネプロ(撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場)

歌手全員のクオリティが非常に高く、ゲネプロでも精一杯力を出していたことに大きな好感を持った。飯守監督率いる東京フィルハーモニー交響楽団は5時間の長丁場で健闘し、とくに後半ではドラマ性を加速させ、オペラに強いこのオケの美質が次々と引き出された。本番が待ちきれない、と言わんばかりの、スーパー・キャストによるエンジン全開のゲネプロであった。

(文:小田島久恵)

『ワルキューレ』ゲネプロのダイジェスト動画もご覧ください↓公演情報新国立劇場オペラ
リヒャルト・ワーグナー 楽劇『ニーベルングの指環』第1日<新制作>『ワルキューレ』
(全3幕/ドイツ語上演/字幕付)
【会場】新国立劇場 オペラパレス (東京都)【公演日時】
2016年10月02日(日)14:00
2016年10月05日(水)17:00
2016年10月08日(土)14:00
2016年10月12日(水)14:00
2016年10月15日(土)14:00
2016年10月18日(火)17:00
【指揮】飯守泰次郎
【演出】ゲッツ・フリードリヒ
【美術・衣裳】ゴットフリート・ピルツ
【照明】キンモ・ルスケラ
【ジークムント】ステファン・グールド
【フンディング】アルベルト・ペーゼンドルファー
【ヴォータン】グリア・グリムスレイ
【ジークリンデ】ジョゼフィーネ・ウェーバー
【ブリュンヒルデ】イレーネ・テオリン
【フリッカ】エレナ・ツィトコーワ
【ゲルヒルデ】佐藤 路子
【オルトリンデ】増田 のり子
【ヴァルトラウテ】増田 弥生
【シュヴェルトライテ】小野美咲
【ヘルムヴィーゲ】日比野 幸
【ジークルーネ】松浦 麗
【グリムゲルデ】金子 美香
【ロスヴァイセ】田村由貴絵
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団

本公演は、フィンランド国立歌劇場(ヘルシンキ)の協力により上演されます

■公式サイト:http://www.nntt.jac.go.jp/opera/walkure/index.html
※「ニーベルングの指環」要約コンクールの結果が発表されました↓
http://eplus.jp/sys/web/s/opera_ring_concours/index.html​

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