石井琢磨、夢のスタートラインに!
33回目のバースデーに47都道府県ツア
ーが始動~発表記念コンサートの模様
をレポート

石井琢磨は、ウィーンと日本を拠点に活動を行なうピアニストだ。2016年、ルプーやレオンスカヤら世界最高峰のピアニストも優勝したジョルジュ・エネスク国際コンクールで、石井は日本人初の第2位を受賞。コロナ禍では、YouTubeチャンネル「TAKU-音TV」やストリートピアノなどで人気が爆発し、幅広いファンを獲得。彼の活動は、クラシック音楽を基軸とし、活動の幅を着実に広げている。
2022年4月には、反田恭平や角野隼斗らに続き、株式会社イープラスとエージェント契約を締結(※編集註:反田は、代表を務める株式会社NEXUSとのパートナー契約)。その際、調印式の名目で顔をあわせた同社代表取締役会長 橋本行秀氏に”直談判”した「イープラスとの活動において実現したい“3つの願い”」のひとつが、今回、東京・紀尾井町サロンホールを皮切りにスタートした「47都道府県ツアー」だ。『発表記念コンサート』として行われたコンサートの模様をお届けする。
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11月17日(火)午後2時。東京の紀尾井町サロンホールにて『石井琢磨47都道府県ツアー発表記念コンサート』が開演した。石井は、全47都道府県で演奏するこのツアーについて、「夢でした」とステージ上で語った。このリサイタルは、ツアーを記念して行われるもので、この日は、石井の33回目の誕生日でもある。会場は華やいだ雰囲気に包まれていた。
プログラムには、ワルツやリート(歌)をベースとした作品が多くとり入れられていた。石井は、東京藝術大学を卒業したのち、ウィーンに長く暮らし、その地で研鑽を積んだ。彼のウィーンへの強い思いがみっちりと詰まったリサイタルである。
まず、ショパン「華麗なる円舞曲」作品34を3曲続けて演奏した。第1番(変イ長調)では、響きを巧みにコントロールし、繊細なリズムをほどこしたメロディを奏でていく。重なり合う音の綾を美しく共鳴させ、典雅な情を醸し出す。淡いメランコリーを静かに浮かび上がらせた第2番(イ短調)。対照的に、第3番(ヘ長調)では、急速なテンポのなかで右手の粒立ちをクリアに際立たせる。3曲ともに絶妙な色合いが生み出され、また、左手の生き生きとしたワルツのリズムと右手のデリケートなテンポの緩急を見事に融合していた。
演奏の合間には、石井のトークが入る。リスト「愛の夢第3番」とシューマン=リスト「献呈」、そして後半に演奏されるグリュンフェルト「ウィーンの夜会」(ヨハンシュトラウスのワルツ主題による演奏会用パラフレーズ)、石井の大好きな作品だそうで、このツアーのどの公演にも必ず入れていきたいという。
「愛の夢第3番」は、この公演の4日前に行われた『豊島区制施行90周年記念事業 イープラス presents STAND UP! CLASSIC FESTIVAL’ 22 in TOSHIMA』にて演奏した、自由学園明日館の講堂よりもステージと客席との距離が近いためか、音楽の息づかいがより伝わってくる。和音の変化が醸し出す音色のグラデーションもきめ細やかに表わし、メロディを引き立てる。シューマン=リスト「献呈」でも、メロディラインを丁寧に描き上げる。感情の起伏は大きいが、これら2曲が歌曲出ることを十分に汲みとり、歌のニュアンスを絶妙に描き出す彼の卓抜な感性は光っている。
「無名の作品もみなさんに知っていただきたい」との思いで、石井のコンサートではレアな作品もとり上げられている。
ツェルニー「ベートーヴェンの歌曲『私を思い出して』による幻想曲」は、ウィーン国立音楽大学修士課程の修了試験で演奏した彼にとって重要なレパートリーのひとつ。ツェルニーと言えば、ベートーヴェンの弟子。ツェルニー自身の弟子にはリストもいる。この作品にはさまざまな表現や技巧が盛り込まれ、音楽は自由に展開している。石井の卓越した演奏のテクニックもさることながら、細やかな音楽の呼吸によってロマンティックな情趣や気品あふれる雰囲気を漂わせる。
休憩をはさみ、プログラム後半の冒頭は石井の十八番、グリュンフェルト「ウィーンの夜会」。「ワルツという伝統舞踊を身近に感じながら演奏することを嬉しく思います」と、石井は述べる。
フレーズの息づかいは、いかにもウィーンを思わせる。さまざまな表情を大胆に、しかしそれらを自然に結びつけていく手腕は見事である。
このツアーで、石井は「(ツアーの)時期ごとに、弾きたい曲をプログラムにとり入れたいと思っている」という。今回のリサイタルにとり入れたのは、北欧の作品。
グリーグ「抒情小曲集第1集」より「アリエッタ」は、この曲集の第1曲で、曲集の最後の曲にも「アリエッタ」がやや変奏されて用いられている。石井はツアー最初にこの曲、そして最終日に「抒情小曲集」の最後の曲を弾きたいと語る。
長い音の響きを活かしたほどよい緊張感と、彼の醸し出すあたたかな情感は、親密な空間を生み出している。
フィンランドの作曲家、パルムグレンからは「3つの承継による夜想曲」より「星はきらめく」。北欧の音楽特有の、透き通るようなリリシズムを美しく漂わせていく。
そして、シベリウス 5つの小品「樹木の組曲」より「もみの木」では、テンポの緩急によってファンタジー豊かな音楽を作り上げた。
プログラム最後はグノー=リスト「歌劇『ファウスト』のワルツ」。音楽を華やかに始めた石井。この作品では、情熱的でダイナミックな演奏が行なわれるが、彼は会場の音響も考慮に入れ、響きを抑制して楽器を鳴り響かせ、引き締まった音楽に仕上げた。
アンコールは、サティの「ピカデリー」そして、グリーグの「アリエッタ」を再び演奏し、石井は静かにピアノの蓋を閉じた。
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終演後には、スタッフからバースデーケーキのサプライズが。新たな一年のはじまりと同時に立った夢のスタートライン。東京に続き群馬(18日)、岐阜(19日)、和歌山(23日)での公演も終了。次回2022年12月に広島での開催を控えている。今後の予定は随時更新。
取材・文=道下京子 撮影=iwa

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