反田恭平「水野優也(チェロ)は大き
く活躍していく奏者の一人」 デビュ
ーアルバムリリース記念ロングインタ
ビュー~レコーディング秘話から聴き
どころまで

若手チェリストとして期待を集め、反田恭平率いるジャパン・ナショナル・オーケストラ(JNO)でも活躍する水野優也。デビュー盤となるCDは、反田恭平のピアノとのデュオでショパンのチェロ・ソナタを中心に据え、コダーイの無伴奏チェロ・ソナタと、ショパン若き日のチェロとピアノのためのポロネーズも収めた。
SPICEでは、2023年8月26日(土)のリリースに向け、水野優也と反田恭平の対談を実施。二人にCD制作プロセスや作品について語ってもらった。なお、本作は反田にとってもショパンの室内楽曲は初のリリースとなる。
息の合ったリサイタル共演からレコーディングへ
——水野さんにとってのデビュー盤となるCDリリースおめでとうございます。反田さんとのデュオという形でアルバムを制作するに至ったプロセスを教えてください。
水野:昨年7月、ジャパン・ナショナル・オーケストラ(JNO)のリサイタル・シリーズで、ショパンの「序奏と華麗なるポロネーズ」とチェロ・ソナタを反田くんと共演しました。終演後、反田くんから「CD作ってみる?」と声かけていただいたのがきっかけですね。あまりに楽しい共演でしたので、ぜひ録音を残せたらと思いました。それで、ショパンをメインに選曲しました。このチェロ・ソナタは僕が一番好きなチェロ作品といってもいい曲です。
コダーイの「無伴奏チェロ・ソナタ」は、去年の6月まで4年間ハンガリー国立リスト・フェレンツ音楽大学で勉強してきた集大成として収録したいと思いました。師事したミクローシュ・ペレーニ先生は、実際にこの曲をコダーイから習ったというエピソードがありまして、学校にはコダーイが教えていた部屋もあり、このソナタの自筆譜が飾られていました。ペレーニ先生からは、「楽譜に全てのことが書かれている。いろいろな解釈をする人が多いが、書いてあることを大事にしなさい」と常にアドヴァイスをいただきました。とにかく大作で演奏困難な曲ですが、これを納得いくまで録ってみたいなっていう思いがありました。
——反田さんが演奏会後に声を掛けられたとのことですが、反田さんにとっても、水野さんとの共演は手応えがあったのですね。
反田:水野くんはJNOのメンバーの中でも、大きく活躍していく奏者の一人だと思っています。名刺替わりになるCDを作っておくのは大事かなと、親心みたいな気持ちで提案しました。
僕と水野くんとは、骨格の動かし方が似ているんですよ。体の重心が前か後ろか、外か内かで、4つのタイプに分けて考える「4スタンス理論」という身体理論があって、それによると同じタイプなんですね。だから、水野くんのボウイングの仕方などは、しっくりくる。同じフレーズを演奏するのに、体の使い方に似た傾向があるから、とても弾きやすいんです。一緒にアンサンブルをしても、ストレスがないですね。
水野:そういえばリサイタル・シリーズの時、あまりリハーサルの回数が取れなかったのを思い出しました。それでも自然にスムーズに合わせていくことができましたね。
>ショパンの超難曲、チェロ・ソナタの魅力とは
ショパンの超難曲、チェロ・ソナタの魅力とは
——ショパンの作品にはピアノ独奏曲が圧倒的に多く、ピアノ以外の室内楽には歌曲、ピアノ三重奏曲、そして2つのチェロ作品がありますね。数少ないピアノ以外の作品のうち、2つもチェロのための曲というわけですが、ショパンのチェロへの思いや、書法の特性などはどう感じておられますか?
反田:ショパンがチェロを選んだのは、親しい友人や知り合いにチェリストがいたということもあり、楽器の魅力を知っていたからでしょう。おそらくショパンは、先々にヴァイオリン・ソナタや交響曲なども書きたかったのだと思います。ピアノ以外の器楽作品の先駆けとしてこのチェロソナタを作った。だから本当に綺麗なソナタ形式で書かれていて、ハイドンやベートーヴェンの時代の形式がきちんと取り入れられていますし、4つの楽章すべてのキャラクターもはっきりと分けられています。
ショパンは晩年に対位法的な書き方もしていたし、バッハやモーツァルトへの尊敬も示していました。ソナタ形式に対して、真面目に向き合って作曲したかったのだと思います。このチェロ・ソナタは本当に情報がたっぷりと詰まっていますね。僕が個人的に特に好きなのは、第2楽章の中間部、チェロが歌うところかな。レコーディングはすんなりできてしまったのだけど、もう一度聴きたくて、水野くんに「もう一回弾いて」と言ったりしましたね。
水野:チェロの中音域って本当にいい音が鳴るんです。ショパンの作品には、それを活かしたフレーズが多いです。でもやはり、ピアノの曲をたくさん書いた人なので、何かこう、ピアノっぽいメロディーだなぁと感じる部分はありますね。たとえば、第4楽章の最初のチェロのメロディーは、ピアノ的だと感じます。ピアノだったらもっと良く弾けるのかなぁ、なんて思ったり(笑)。僕はショパンの音楽が持つ幻想的な世界観がとても好きなので、作品全体を通してそれを表現できるので、とても充実感を覚えます。
——ピアノ・パートには、ピアノ独奏曲とは違った特性を感じられますか?
反田:優れたピアニストが書いた作品なので、ラフマニノフのチェロ・ソナタもそうですが、ピアノパートはめちゃくちゃ難しいんですよね。個人的にはラフマニノフよりも難しいと感じます。ラフマニノフはやや勢いでいけたり、和声感を大事に弾けばなんとか形になるのですが、ショパンはそうはいかない。やはりメロディーが主体で、右手主体でメロディーを作るのは古典的でもありますが、左手が指揮者のような役割を果たすというか、左手を基準にしながらメロディーを作らなければならない部分が多々ある。考えなきゃいけないポイントが多いというのが、やはりショパンの難しさですね。
水野くんが言うように、チェロにピアノらしい旋律が出てきたりもしますが、逆にショパンはピアノ一台でチェロやヴァイオリンのような旋律も表現しようとした人ですから、多彩な楽器の音色が要求されます。室内楽で言うと、リヒャルト・シュトラウスのヴァイオリン・ソナタのピアノパートはダントツで難しいですが、このショパンの作品も3本の指には入る難しさかな。
水野:ピアノパートの難しさというのは、僕はこれまでも感じてはいました。でも今回は、音楽的な内容を最優先にして表現を作ることができたと感じています。
デュオの作品では、ピアニストから受ける影響というのは本当に大きいので、特にこうしたピアニスティックな音楽で、ポロネーズ風のリズム感などを反田くんが演奏で示してくれたのは、とても勉強になりました。
反田:「序奏と華麗なるポロネーズ」も、僕がずっと演奏したかった大好きな作品です。ポロネーズのリズムやフレーズの終わり方などは、宮廷舞曲の儀礼的なしきたりを感じさせる演奏がしたいですよね。水野くんもポーランドの音楽のスピリットを理解していて、さらに僕ができることがあれば、ピアノでカバーしたいという気持ちで演奏しました。
——若き日のショパンが書いた「序奏と華麗なるポロネーズ」は、冒頭にピアノの駆け上がるような印象的なパッセージが登場しますね。
反田:あそこは本当に大変で、うまく弾けたらラッキー!的な、「賭け」みたいなフレーズです(笑)。ワルシャワ時代のショパンの作品ですから、小さな頃から馬に乗ったり、駆けっこしたり、彼の元気な少年時代を感じさせますね。
水野: この曲はピアノが主体だと感じます。チェロがピアノに寄り添う音楽です。
>レコーディング秘話を初公開「実は務川くんと…」(反田)「〇〇を替えに走って…」(水野)
レコーディング裏話を初公開!
——今回のレコーディングで、印象に残っているエピソードなどはありますか?
反田:裏話ですけど、実は僕は二つのプロジェクトを同時に進めていました。僕と務川慧悟くんとの2台ピアノのアルバム『Two Pianos 2』と同時収録だったのです。僕が取材で抜けた時間帯に、水野くんがコダーイの無伴奏作品を収録する、といった流れでしたね。務川くんとはルトスワフスキやブラームスの作品を演奏していたので、8曲くらいやっていました。大変ではあったけど、二人とも息が合うので問題はなかったです。
水野:僕も裏話ですが、コダーイの「無伴奏チェロ・ソナタ」は調弦方法が特殊で、とても技巧的で、弾くのが本当に大変な作品なんです。僕にとってレコーディングは初めての経験でしたから、ペース配分が難しくて、左手の指の皮が裂けてしまい、途中から痛すぎて弾けない状態になってしまいました。一部ちょっと納得しきれないままレコーディングが終わりそうになったのですが、最後にもう1回だけ録ろうと、全力を振り絞って演奏しました。そのテイクを採用しています。弓の毛も、1テイクで何本も切れてしまって、空き時間に急いで替えに行くなんていうこともありました(苦笑)。
反田:初めてのレコーディングは、確かに緊張するよね。僕はデビューアルバムのレコーディングの時、形から入ろうと思ってスーツを着て臨んだのを覚えてる。お客さんがいるかのようにランスルーで弾いて、2日目に細かいところを録ったりしたかなぁ。今もレコーディングはまず90点以上のテイクを録って、そこから細かく詰めていく方法を取っていますね。
水野:いや〜なかなか……それをコントロールできるのがすごい。同じエネルギーで弾き続けるのは大変ですから。
反田:場数だと思います。僕はいつでも100%好きな熱量で弾ける。家でも全力で弾いているからかなぁ? あとは、マイク越しに聞こえている音を想像しながら演奏しています。レコーディングのための弾き方というのはありますね。
水野:おお、なるほど……。
>芳醇なサウンドを、ゆったりと聴いてほしい
芳醇なサウンドを、ゆったりと聴いてほしい
——録音はチェロの豊かな倍音まで感じられ、ピアノとチェロのハーモニーも隅々まで美しいバランスで伝えられます。今回の録音のクオリティについてはいかがでしょうか。
反田:いつも信頼しているディレクターさんに入ってもらっているので、安心できるクオリティに仕上がっています。チェロとピアノのバランスや解像度も時代のニーズに合わせたサウンドになっていると思います。
水野:曲によってイメージする響きは異なりますよね。たとえばコダーイの作品などは、2000人のホールの響きというよりは、一人で作品に向き合っているような親密な響きが欲しい。そんな抽象的なリクエストを出させてもらったのですが、納得のいくサウンドに仕上げてくださいました。
——水野さんがお使いになっている楽器についても教えていただけますか?
水野:僕が現在使っているのは、桐朋学園の齋藤秀雄先生がお使いになっていたイタリアのテストーレ1746年製のチェロです。これは著名なチェリストの方々が代々受け継いできた楽器でして、これで録音できたのもとても嬉しいです。僕が貸与を受けて4年が経ちますが、ようやくコントロールができるようになってきたところです。すごく渋い音のする楽器なので、音を前に出そうとすると、力んでしまってうまく鳴らない。いい音色でいい音楽を作るまでは時間がかかりました。
——今回のアルバムをどんなシチュエーションで聴いてほしいですか?
反田:イヤホンでしっかり聴いてもらったり、僕自身は運転しながら音楽を聴くのも好きなので、ドライブ中などにも聴いてほしいですね。水野くんのデビューアルバムでもあり、僕にとってもショパンのチェロ・ソナタはそう簡単に取り組むことのできなかった作品なので、楽しみにしていただきたいです。
水野:僕は音源を聴く時って、一日のやるべきことが全部終わって、お風呂にも入った後、ゆっくりお酒を飲みながらリラックスして聴くことが多いです。一日の終わりにピッタリなアルバムだと思うので、みなさんにもぜひゆっくりと聴いていただけたら嬉しいですね。
取材・文=飯田有抄

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