ヴァイオリン・島方瞭、オール・ラヴ
ェル・プログラムで挑む3度目のプロ
デュース公演への想いとは ミュンヘ
ンでの生活、JNOの活動までロングイ
ンタビュー

島方瞭は、ジャパン・ナショナル・オーケストラ(JNO)の前身となるMLMダブル・カルテットからのメンバー。当初、JNOではヴィオラを弾いていたが、現在はヴァイオリン奏者として活躍。ミュンヘンン音楽大学で学んだ後、この春までミュンヘン・フィルのアカデミーで研鑽を積んだ。そして秋からは、バンベルク交響楽団の一員となる。そんな彼が、3回目の登場となる「反田恭平プロデュース JNO presentsリサイタルシリーズ」でオール・ラヴェル・プログラムを披露。近況や演奏会への抱負などをきいた。
―ー大学からミュンヘンに留学され、現在もミュンヘンにお住まいだそうですね。
父がオーケストラ奏者で、僕も小さい頃からオーケストラ奏者になりたいと思っていました。ドイツにはオーケストラのアカデミーがたくさんありますので、オーケストラを勉強するならドイツでと、ミュンヘン音楽大学に留学しました。
ミュンヘンには、バイエルン放送交響楽団、ミュンヘン・フィル、バイエルン州立歌劇場管弦楽団があって、また、同じバイエルン州にはバンベルク交響楽団などのすごいオーケストラが集まっています。ミュンヘンに来てからは、毎日のように演奏会やオペラに行き、感動して涙していました。そしてブルックナーやリヒャルト・シュトラウスなどの後期ロマン派の魅力に気づかされて、どハマりしましたね。

ミュンヘンの友人たちとの一枚(島方提供)

―ーミュンヘンでの近況を教えていただけますか?
この3月まで、2年間、ミュンヘン・フィルのアカデミー(ミュンヘン・フィルの演奏会に出演しながら研鑽を積む、若手奏者養成機関)に在籍していました。アカデミー生は、1年間に12プロジェクト(1つにつき、2,3公演かツアー)に取り組み、年間、30公演くらい出演します。
今年の11月からは、バンベルク交響楽団の第1ヴァイオリン奏者としての試用期間に入ります。
―ードイツの名門オーケストラに入団ですか! おめでとうございます。
バンベルク交響楽団はオーケストラの水準が高く、素晴らしい指揮者がたくさん来ます。現在の首席指揮者は、チェコの若手を代表する、ヤクブ・フルシャ。日本でも知られている、ブロムシュテットやノットもよく来ています。楽しみです。
―ーミュンヘン・フィルのアカデミーに在籍していたときの思い出の公演は?
僕がアカデミーに入ったばかりの頃は、ゲルギエフがミュンヘン・フィルの首席指揮者をしていたのですが、彼が指揮するときは、アカデミー生やエキストラはほとんど出られなかったんです。でも、偶然にその演奏会に出ることができたことがありました。その時のブルックナーの交響曲第6番が強く印象に残っています。集まっているプレイヤーたちがみんな本気で、気合いがすごく、衝撃を受けました。
それから、今年3月、アカデミーでの最後の演奏会も記憶に残っています。その日は、反田恭平くんがソリストとしてミュンヘン・フィルに招かれ、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番を弾きました。憧れていたミュンヘン・フィルのアカデミーでの僕の最後の演奏会にまさか(反田)社長が来るなんて信じられませんでした。演奏も本当に素晴らしく、ものすごく盛り上がりました。オーケストラのみなさんも「今シーズンで1番のソリストだね」と言っていて、それは心からうれしかったですね。反田くんはヨーロッパでもファンが増えています。彼のこれからの活躍に一人のファンとしても期待しています。

ミュンヘンにて、反田と(提供:島方)

―ーJNOに参加したきっかけは?
僕はJNOの前身となるMLMダブル・カルテット(弦楽八重奏団)からの参加です。留学する直前の2018年、反田くんから電話がかかってきて誘いを受けました。最初の頃はヴィオラを弾いていたんですよ。桐朋学園では、ヴァイオリンの学生は、ヴィオラに持ち替えることも学び、僕は、カルテットでよくヴィオラを弾いていましたから。
僕と反田くんは3つ違いで、僕が高校に入学する頃には既に反田君は大学生でしたが、桐朋は大学も高校も同じ校舎で学んでいたので、会う機会はありました。ただ、彼は既にデビューして忙しくしていていましたから、当時はあまり関わることはなかったですね。
―ー音楽仲間であり、JNOプロジェクトを率いる株式会社NEXUS社長でもある反田恭平さんについてお話ししていただけますか?
反田くんは演奏家としてものすごく体力がありますし、実業家としても優秀で、彼には野望というか計画がある。彼のスタミナは計り知れません。将来のヴィジョンを常に更新しながら考えているので、それに僕たちがついていって、何ができるか、どういう演奏ができるかが、これから大事になってきます。反田くんには全幅の信頼を置いています。
>(NEXT)オール・ラヴェル・プログラムで挑むプロデュース公演
―ー今回の演奏会は、オール・ラヴェル・プログラムですね。
「ヴァイオリンとチェロのためのソナタ」、「ヴァイオリン・ソナタ第2番 ト長調」、「ツィガーヌ」、「ピアノトリオ イ短調」の4曲を取り上げます。ラヴェルの弦楽器の作品はあまり多くなく、今回の4曲と、弦楽四重奏曲、そしてオーケストラ曲があるくらいですが、ラヴェルは、僕にとってとても特別な作曲家です。今回の演奏会で、僕の中でのラヴェルに対する理解度を深めて、極めたいと思っています。ラヴェルの音楽は、僕のパーソナルな部分にマッチして理解できると思っていて、それをもっと肥やしていろんな表現につなげていきたい、という思いがあります。
ラヴェルにとって、第一次世界大戦はすごく大きな出来事で、特にピアノトリオは、ラヴェルの一つの境目、転機となった作品です。それ以降、彼の考えや興味が変わっていきますが、そのことをその後の作品を通してお伝えできればと思って、このプログラムを組みました。
―ーまずは、ピアノトリオですね。
ラヴェルは第一次世界大戦が勃発していたときにピアノトリオを書いていましたが、自ら兵役を志願して行かなければならなかったので、もの凄いスピードでこの作品を作曲し、5週間で書き上げました。たぶん、自分の最後の作品になるかもしれないという覚悟のなか、集大成のつもりで書いた渾身の一作です。僕は、このピアノトリオは最も演奏の難しい室内楽曲の一つだと思います。ラヴェルの音楽は、弦楽器の音色のキャパシティが広く、左手のピッツィカートを使ったり、フラジオレットの響きを入れたりいろいろな音色が求められています。
―ーそして、ヴァイオリン・ソナタとツィガーヌに続きます。
「ツィガーヌ」は弾いたことがありますが、ヴァイオリン・ソナタは初めてのチャレンジです。今は、いろいろアイデアを自分のなかで模索して準備を進めています。
ラヴェルは、第一次世界大戦での兵役から帰還後、心が難しい状態になり、母親を亡くしたこともあって、作曲できなくなります。数年間、作曲意欲がわかず、苦しい状態が続くんです。作曲家業の再開後、ヴァイオリン・ソナタの依頼があったものの、すぐには書けず、代わりに作曲したのが「ツィガーヌ」。そして、そこから4年を経て書き上げたのがヴァイオリン・ソナタです。
ヴァイオリン・ソナタは、それだけの時間をかけて、大切に大切に作ったのが楽譜を見るとわかります。本当に無駄が一つもなく、シンプルかつ、素晴らしく、美しいという印象です。超傑作で、ラヴェルの中でも非常に完成度の高い作品なのではないかと思います。第1楽章は、教会旋法が響いて、なんとなく旧いヨーロッパ的なのですが、ラヴェルは旧い音楽に思いを寄せて書いたと思います。第2楽章はブルース。彼は第2楽章でアメリカのジャズを取り入れました。そして第3楽章で第1楽章と第2楽章をコンビネーションすることで旧いヨーロッパとアメリカを合わせました。これは僕の推測ですが、ラヴェルの平和への願いが表れていると思います。
―ー最後は、ヴァイオリンとチェロのためのソナタですね。
このデュオは、ラヴェルの晩年の作品です。ドビュッシーの追悼のため書かれました。ドビュッシーはラヴェルにとって、フランス音楽界の大先輩であり、彼はドビュッシーの作品からいろいろな影響を受けていました。彼らは信頼し合っていたと思います。この二重奏を弾いてみると、ドビュッシーが使っていた音型や彼が好んでいた世界観を大切にして作曲しているのがわかります。ヴァイオリンとチェロだけというすごくシンプルな楽器編成。2つの旋律楽器で曲線を描く、そういう作曲の仕方は、当時すごく新しい音楽であって、それにチャレンジしたかったのではと思います。すごく難解な曲で、プレイヤーにもプレッシャーがかかる曲です。
―ー共演者を紹介していただけますか?
チェロに水野優也くん、ピアノは吉見友貴くんにお願いしています。
水野くんは高校1年から同じクラスでした。カルテットを組んでいたこともあるし、留学した時期も同じですし、ずっと一緒に頑張ってきました。それから、僕たちは、18世紀イタリアのテストーレという同じ楽器製作者の作った楽器を使っています。同一人物の作った2つの楽器を弾くというのは、奇跡みたいなことです。10年くらいの仲間と同じ楽器で演奏できることに結構感動しています。ホールでどう響くのか、本当に本番が楽しみです。
吉見くんは僕より3歳下。僕は7年前、大学1年生のときに霧島国際音楽祭のマスタークラスに参加したのですが、その音楽祭で吉見くんが演奏しているのを初めて聴いて、もの凄く感動して、直接彼に会いに行って、感動を伝えました。そのとき、僕の中で一緒に弾いてみたいと思ったのです。そこから、よく一緒に弾くようになりました。彼はアンサンブルに長けたピアニストで、僕のリサイタルでの共演を頼んだこともあります。今回は、4、5年ぶりの共演です。
今回の演奏会で、室内楽で水野くんや吉見くんに再会して、お互いに成長を見られるのはうれしいですね。
―ー会場の浜離宮朝日ホールについてはいかがですか?
素晴らしい響きのホールです。JNOのリサイタルシリーズでのリサイタルは、3回目になりますが、1回目(2022年3月)はヴァイオリンとヴィオラを弾き、2回目(2022年8月)はヴィオラだけを弾く室内楽の演奏会でした。今回、初めてヴァイオリンだけを弾く演奏になります。演奏会ごとにチャレンジがあるのがうれしいです。
―ー最後にメッセージをお願いいたします。
一人の作曲家にフォーカスした演奏会ということで、ラヴェルの生涯や残された楽譜を研究して、彼の思想や好みに僕なりにマッチできるか、僕の中では、それが試されている演奏会だと思います。お客様もラヴェルの魅力にどっぷりと浸かっていただきたいですね。彼の感性に会場全体で思いを寄せることができればいいなと思っています。特別な響きを持つラヴェルを、素晴らしいホールで、素晴らしいソリストたちと一緒に演奏できるのは夢のような時間だと思います。
取材・文=山田治生

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