ショパン・コンクールから今後の目標
まで 19歳の若きピアニスト・進藤実
優にきく

ピアノのファンの間で人気急上昇中の進藤実優は、現在19歳。2021年10月に開催されたショパン国際ピアノコンクール(ポーランド)で、第3次予選まで進んだ。その直前に行なわれた第45回ピティナ・ピアノ・コンペティション特級部門では第2位を受賞した。2022年2月と3月には、それぞれ『ピアノの祭典2021 特級ガラコンサート』と『第45回ピティナ・ピアノ・コンペティション ソロ・デュオ部門入賞者記念コンサート』への出演が決まっている。
――進藤さんは4歳ごろからピアノを習い始めたそうですが、ピアニストを目指すようになったのはいつですか。
何かきっかけがあって自分の意思が変わったということはなく、小さなころからピアノは自然に続けていました。職業としては、違う職業、特に医師にも憧れていました。中学卒業の際に進路の選択を迫られ、ピアノを選んだんです。(ロシアの)音楽高校に入学すると同時に、私はピアニストを目指していくのだとようやく決心がつきました。
――医師にもなりたかったのですね。
小さいころから人を助ける仕事をしたいとずっと考えていたので、ピアノを弾いて患者さんを癒せるお医者さまに、と思っていました。
進藤実優
――中学卒業と同時に留学しましたが、その留学先はなぜロシアだったのですか?
日本ではない場所で勉強したくて、最初はアメリカを考えていました。けれど、中学3年生の夏に霧島国際音楽祭のマスタークラスを受講し、ダン・タイ・ソン先生と出会いました。進路の相談をしたところ、「アメリカよりも僕が学んでいたモスクワへ行った方がいいのではないか」と言ってくださり、先生から薦められたロシアのヴァレリー・ピアセツキー先生のもとへ留学しました。
――ダンさんはショパン・コンクール優勝経験者ですよね。霧島の音楽祭のマスタークラスではどのようなことを教わりましたか?
(霧島でのマスタークラスは)中学3年生と高校1年生の時に受講したのですが、ダン先生はとても歌心を大切にされていると、私は感じています。私の受けたレッスンでは、自然な流れのなかでどのように歌うかを教えていただいたように思います。
――今年(2020)は、ショパン・コンクールにも参加されました。コンクールを受けようと思ったのは?
2019年です。直前まで悩み、申し込みの締切2日か3日前に準備し始めた記憶があるので、ギリギリの決断でした。
ショパン・コンクールへの参加をなぜ躊躇していたかですが、2019年に海外のジュニアのコンクールにいくつか参加したものの、そこで思う結果がまったく出せなかったのです。「あぁ、ピアノ向いていないかも」と思いながら、ショパンの曲を練習し始めたころ、北京のショパン・コンクールで第3位をいただきました。そこで、ワルシャワのコンクールのことを考え始めました。
申し込みの締切直前に、母から「もし受けたいという気持ちが少しでもあるのならば受けてみれば」「私はあなたのショパンが好きよ」と言われ、受けてみようと決めました。でも、自信がなかったので、受けなくてもいいかとも思っていました。私にとって夢の舞台でしたので、これから戦うぞという実感はまったくありませんでした。
三次予選の様子(C)Wojciech Grzedzinski Darek Golik (NIFC)(ピティナ広報部より提供)
――実際、第3次予選までワルシャワの舞台で演奏しました。コンクールを終えての感想をお聞かせください。
ショパンが生まれ、彼が生涯愛した土地(ポーランド)で彼の作品をたくさん演奏することができ、幸せでしかないです。それまでYouTubeやテレビなどを通してショパン・コンクールのドキュメンタリーなどを見ていましたが、まさかあの舞台に自分も出たことが、今でも想像できないのです。
予備予選と第1次予選ではものすごく緊張しました。第2次予選以降は、自分の演奏に期待することがまったくなくなっていたので、リラックスして本番前から臨めました。
――コンクールも終わり、ショパンの音楽から解放されたというコンテスタントもいますが……
いま、なぜかショパン・コンクールで弾いていないショパンの作品を引っぱり出して、弾いています(笑)。あとシューマンも始めてみたいな。
――2月に開催されるすべてショパン作品による『ピアノの祭典2021 特級ガラコンサート』では、今年の特級ファイナリスト4人が出演します。進藤さんは「ワルツ」作品64-2や「幻想即興曲」を初めて演奏するそうですね。
そうなんです、念願叶って! 小さいころにみんなが弾いていたのをずっと聴いていたので。
――コンサートは3パートに分かれてて、最初は「4人が贈る珠玉のショパン名曲集」。ここでの進藤さんのプログラムは、嬰ハ短調でつながっていますね。
「名曲集」ということで、「小犬のワルツ」などいろいろ思い浮かんだのですが、嬰ハ短調は私も好きな調ということと、この2曲のキャラクターは違いつつも嬰ハ短調の共通するものを感じ、その対比が面白いかなと思って選びました。
進藤実優
――続く「リレー競演 バラード全曲!」のパートでは、「バラード第4番」を演奏。これも初めてだそうですね。ほかの人から「曲目替えて」とお願いされたとか……
最初は第3番というお話をいただいていたのです。ショパン・コンクールでも弾いていましたし、好きな作品でしたので。でも、「バラード第4番」も憧れていた作品ですので、弾いてみたいとお引き受けしました。
――最後に「コンチェルト」では、ショパンの「ピアノ協奏曲第1番」から第1楽章を演奏します。初めてこの曲を弾いたのは、いつですか?
本番で演奏したのは、ジーナバッカウア国際ジュニアピアノコンクールのファイナルで、14歳だったかと思います。2台ピアノで演奏しました。
――それから、『第45回ピティナ・ピアノ・コンペティション ソロ・デュオ部門入賞者記念コンサート』では、リストの「ハンガリー狂詩曲第12番」をとり上げます。
制限時間内で演奏できる曲ということで、ハンガリー狂詩曲を弾きたいなと思いました。12歳で一度この曲を取り上げたことがありますが、いま弾いたらまったく違う曲になるだろうと思い、最近また弾き始めました。
――コンサートにかける思いをお聞かせください。
オール・ショパン・プログラムは、私はたくさんの新曲を、今まで演奏したことのない新曲を演奏させていただけるので、とてもワクワクしています、2月25日は遠そうでもうすぐ来そうなので、頑張りたいと思います。
3月の「ハンガリー狂詩曲第12番」も、私が幼いころに見た世界とは違うものを感じ取り、それを表現できればいいなと思っています。
進藤実優
――いまから2年前に進藤さんの演奏を聴いた時もそうでしたが、今回のコンクールでも、内側から湧き上がってくるようなパッションが強く伝わってきました。ロシアへ留学する前から、そのようなスタイルの演奏だったのでしょうか。
昔の自分の音源を聴いても、やはり変わったなと思います。留学前はサラッと言いますか……ロシアへ留学してから内面の表現が少しずつ身についてきたのではないかと考えています。
――先生からのアドヴァイスがあったのですか?
違いますね。先生が弾いてくださる音楽がそうだったのかもしれないですし、まわりのロシア人たちの演奏を聴いていてもそういう感じであったり、自分の憧れのピアニストだったり、私の好きな弾き方がそのような弾き方でもあるのです。
――憧れのピアニスト……どんなピアニストがお好きですか?
曲や作曲家にもよりますが、ロシア人でしたらプレトニョフとかホロヴィッツ。それから、ヨッフェ先生の昔の音源!燃え上がるようなものを感じますね。
――来年4月からハノーファーへ留学し、ヴァルディ先生に師事されるそうですね。
まずはロシア人の先生に習いたかったのですが、ピアセツキー先生に「モスクワ音楽院ではなく、他のところで学びなさい」と言われました。ちょうど、ショパンの曲をメインに取り組み、生涯ショパンの曲を学び続けていきたいと思っていたころでした。アリエ・ヴァルディ先生のマズルカに感銘を受けて、先生のもとで学びたいと考えました。
――ところで、ピアノ以外で楽しみにしていることはありますか?
そうだなぁ……クラシック音楽も聴きますが、シャンソンも聴きます。越路吹雪さんとか、昔から活動している日本人のシャンソン歌手が好きです。美輪明宏さんも好きです。YouTubeなどで知り、そこからハマりました(笑)。
――現在19歳の進藤さん。目指すピアニスト像を教えてください。
まずは、レパートリーを増やしたい。ショパンだけではなく、他の作品も弾けるピアニストになりたい。それから、作曲家が文字や言葉にできなかった世界を楽譜に音符として込めたわけなので、その言葉で表せない世界を感じ取ってそれを聴いてくださる方に伝えられたらいいなと思っています。
進藤実優
取材・文=道下京子 撮影=福岡諒祠

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