「ささやかなクリスマスプレゼントに
なれば」~PARCO劇場開場50周年記念
シリーズ『海をゆく者』プレスコール
&初日前会見レポート

PARCO劇場開場50周年記念シリーズ『海をゆく者』が2023年12月7日(木)から同劇場で開幕する。
アイルランド演劇界をリードする気鋭の劇作家コナー・マクファーソンの出世作にして、代表作である『海をゆく者』。2006年に自らの演出により、ロンドンのナショナル・シアターにてデビューした本作は、ローレンス・オリヴィエ賞“BEST PLAY”、トニー賞“BEST PLAY”にノミネート、「21世紀のクリスマスキャロル」と評され、世界中で上演されてきた。
日本では、演劇界を牽引する5名の名バイプレイヤーたちが、演出家の栗山民也のもと、丁々発止のセリフの応酬と円熟味あふれる絶妙なアンサンブルを繰り広げ、2009年、14年と上演されてきた。PARCO劇場開場50周年となる今年、平均年齢70歳を目の前にしながら、今もなお第一線で活躍を続ける俳優たちの競演が実現。初日を前にした6日(水)、同劇場でプレスコールと初日前会見が行われた。その様子をレポートする。
『海をゆく者』のプレスコールの様子
舞台はアイルランドのダブリン北部。海沿いの町にある古びた家に、若くはない兄弟が二人で暮らしている。兄のリチャード(高橋克実)は大酒飲みで、最近、目が不自由になり、その世話のために戻ってきたという弟のシャーキー(平田満)は酒癖の悪さで多くのものを失い、今は禁酒中。
陽気で開放的な性格のリチャードは、クリスマス・イヴも朝から近所の友人アイヴァン(浅野和之)と飲んだくれ、シャーキーが顔を合わせたくないであろう男ニッキー(大谷亮介)を「クリスマスだから」とカードに誘って、シャーキーを怒らせる。さらにニッキーが連れてきた一人の男、ロックハート(小日向文世)。彼こそがシャーキーが忘れたくとも忘れられない男だったーー。
『海をゆく者』のプレスコールの様子
『海をゆく者』のプレスコールの様子
この日公開されたのは、二幕冒頭の25分程度のシーン。キャンドルが灯り、クリスマスツリーが飾られながらも、雑然とした薄暗い部屋の中で、シャーキー以外は酒に酔い、ポーカーに興じている。アイヴァンが過去に1回の賭けで4万ポンドもする船1隻を勝ち取ったという話題になると、ロックハートが「アイヴァンは、船を賭けてきた相手に対して、何を賭けたんだ?」と質問する。言いよどむアイヴァンを、シャーキー、ニッキー、リチャードは庇おうとするが、ロックハートの不思議な力で身体に自由が効かなくなり……。
“名バイプレーヤー”と言われる実力派揃いのカンパニー。高橋克実が吉田鋼太郎から役を引き継ぎ初参加だが、それぞれのキャラクターの造形や空気感の運び方が非常巧く、ついつい見入ってしまった。どんな展開になるのか、続きが早く観たい。
『海をゆく者』のプレスコールの様子
続いて記者会見が行われた。
ーーまずは、ご挨拶と初日を迎えるお気持ちを一言ずつお願いいたします。
小日向文世(以下、小日向):ここまでインフルエンザにもコロナにもかからず、無事今日迎えられたこと、とりあえずほっとしてます。みんなそれなりに年がいっているものですから。来年1月末まで続きますので、とにかく健康第一で千穐楽を迎えられるように、体調整えて頑張りたいなと今思っています。
高橋克実(以下、高橋):今コヒさん(※小日向文世さんの愛称)がおっしゃった通り、今いろいろなところでですね、まだインフルエンザが猛威をふるっております。来年1月29日まで(※大阪公演最終日、公演大千穐楽)、完走できればと祈るばかりでございます。よろしくお願いします。
浅野和之(以下、浅野):明日初日ですけど、もう何十回初日を迎えても、初日は毎回同じ気分で、今から少しずつ緊張が高まってきている次第でございます。インフルエンザ、私はもう(予防接種のワクチンを)打ちましたので、多分大丈夫です。とにかく怪我のないように、最後まで来年1月29日の大千穐楽まで完走したいと思います、よろしくお願いします。
大谷亮介(以下、大谷):皆さんおっしゃる通り、12月に東京でやって、1月は地方をまわらせていただきます。みんなほぼ70歳の人間で(高橋)克実さんだけ“若手のホープ”みたいな感じでやってますけど(笑)、健康に留意して、ちょっとでもお客様の心に残るような、思い出になるような芝居になればいいなと思っています。
平田満(以下、平田):暮れの忙しいときにお客様に来ていただけることを願っております。スタッフ・キャスト、本当に信頼できる人たちばかりなので、いいチームワークで最後までいけたらいいなと思っております。
『海をゆく者』のプレスコールの様子
『海をゆく者』のプレスコールの様子
ーー2009年初演、2014年の再演に続き3回目の上演ということで、初演と再演との違いをうかがえますでしょうか? また高橋さんは今回初参加、そしてこのカンパニーでは最年少。リチャードはセリフも多く大変だったとうかがってりますが、稽古場でのエピソードなどを教えてください。
小日向:単純に初演再演との違いはですね……年を取った。もうその一言に尽きますね。再演から10年ーーまぁ正確には9年ですけど、ほぼ10年近いので、体力が落ちています。稽古が終わった後、みんなドッと疲れています。それから物覚えも悪くなっています。そういうやっぱり肉体的な衰えは非常に感じていますけど、逆にみんなが少し角がとれて丸くなったのかな。一緒にいるだけで、その時間が楽しいなと思えるようになったのは非常に今回は嬉しく思っています。
高橋:私のみ初参加ということで……他の4人の先輩方は70歳になられた方、これから70歳なられる方ということで、しかも1ヶ月ごとに70歳を迎えるというね(笑)。このカンパニーですと、私が初めてというのもあるんですが、とにかく若手扱い。62歳なんですが、60歳を超えているように自分でも感じない現場です(笑)。先輩たちはもうずっと体のいろいろなお話をずっとされておりましてですね。「なるほど」という役に立つ話をされています。
私は初演も再演も拝見しておりまして、本当に面白かった。しかし、観ているのとやるのでは大違い。観ているだけの方が良かったかもと思ったこともありますが、もう明日初日なんですね! ここまで来たら逃げ出すわけにいかないので、まな板の上に乗ったつもりで、サバサバと行こうと思います。頑張ります。
小日向文世
高橋克実
浅野:先ほどから言っている通り、もう70歳近くなって、体力・記憶力は確かに少しずつ衰えているという認識がございます。しかし! しかしながら! 芝居の方は円熟味を増して、ますます9年前よりももっと良い作品に仕上がってることと思っております。ちょっと発酵しすぎないように、カビが生える手前でね(笑)、頑張りたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
大谷:もう皆さんと同じ。70歳になると面白いのは、他に何もできないということですね。1日稽古して、ご飯食べたら、すぐ寝る。起きてちょっと復習して、また皆さんと一緒にやる。それの繰り返しです。飲みには行っていないよね? 1回だけカレー行きましたっけ? お酒もうちに帰って寝る前にちょっと飲んだぐらい。その分いつの間にか自分がアイルランド人になったような気持ちです。昔みたいに遊びに行ったり、チャラチャラしたりする余裕は全くないです(笑)。
……皆さんとご一緒して、PARCO劇場に立たせていただいて、お客様に観ていただくのは本当にありがたいこと。何よりもお客様がご覧なっているときにちょっとでも「楽しかったな」と思えるように、そういうお役に立てればと思って、頑張ろうと思います。

平田:70歳は売り物になりませんので、そこをあまり強調なさらないようにね(笑)。それから克実くんはとても素敵です。ご本人はあんな風におっしゃっていますけど。3回目なんですけれども、新たに魅力が増した『海をゆく者』になっているんじゃないかな。多分、僕らにとってはこれが最後の『海をゆく者』になりますので、お見逃しないように、皆さんお願いいたします。
浅野和之
大谷亮介
平田満
ーー今回はPARCO劇場開場50周年記念シリーズの最後を飾る作品ということで、PARCO劇場での思い出を教えてください。
小日向:2011年3月11日、東日本震災があったとき、ちょうどその日は『国民の映画』という舞台の5日目ぐらいだったんですね。PARCOに電話しても全く連絡がつかず、どうなるんだろうと思ってきたら、警備員の方に「劇場にも入れない」と聞かされて、その日は中止に。普段なら30分ぐらいで着くところ、2時間ぐらいかけて帰宅した記憶があります。
翌日は公演中止になりましたが、そういう中でも幕を開けようと。その合間にモニターでテレビを見ていると、福島の原発が爆発して、「日本どうなるんだろう?」なんて共演者と話しながら舞台に立ってました。それがやっぱり強烈な思い出です。
高橋:PARCO劇場は、いろいろ節目節目にお芝居をやらせていただいているなと思います。まだ劇場が新しくなる前ですけど、『ピローマン』(2004)という舞台の稽古中に新潟県中越地震がありまして、初日が開いて、何日か後におふくろが亡くなりまして。もちろん本番中なんで帰れませんでしたけれども。
あとは『おかしな二人』(2002)の男編・女編を交互上演したときに、八嶋(智人)くんとやったスペイン人の兄弟の役がありまして。多分それがハマったんでしょうね、観に来ていたテレビ関係者からお声がけいただき、『トリビアの泉』が始まりました。MCというジャンルの仕事に初めて挑戦できたのも、この『おかしな二人』がきっかけ。このように、私の人生の中で方向が変わっていくきっかけの舞台がPARCOさんであることが多いような気がします。

『海をゆく者』のプレスコールの様子
浅野:私は劇団に入って初めて舞台に立ったのが、かつての西武劇場なんです。でもそれからもう長い間劇場に立たせていただいて、コロナが明けて初めての公演が『大地』(2020)という舞台でしたし、すごく因縁があるなと。これからどういう風な舞台を歩んでいくか分かりませんが、開場50周年のPARCO劇場でお仕事できて……僕にとっては非常に記憶に残る仕事だったと思っています。
大谷:僕は西武劇場でマルセロ・マルソーを観ましたね。それから美輪明宏さんのコンサートも拝見して「こんなすごい人がいるのか」とびっくりした記憶があります。それと『ソング・オブ・サイゴン』という作品を演出させていただいたことがあります。その3つが思い出です。
平田:僕も多分西武劇場だったと思う。まだ紫色のシートだった頃。初めてこの舞台に立ったのが、つかこうへい事務所の『いつも心に太陽を』でした。素舞台で、何の装置もないところで、パンツというか、パンティひとつで踊った覚えがあります(笑)。生涯の中で恥ずかしいこともベスト3に入ることをいたしました。若かりし頃の思い出です。
『海をゆく者』のプレスコールの様子
ーー作品がクリスマスのお話ということにちなみまして、もしご自身がサンタクロースだったら、どなたにどのようなものをプレゼントしたいか教えてください。
小日向:僕は4人に1日だけ若返りの薬を。20代に1日だけ戻る薬をあげる。1日だけだったらいいでしょ?
高橋:私は他の方じゃなくて自分にですね、初日でも何にもうろたえない薬をあげたいです。何の動揺もなく、すらすらセリフが出てくるような、そういう薬。
浅野:妻を温泉にでも連れていってあげたいです。
大谷:介護をしている友達がいるんですけど、その人たちにお金をあげたいなと思います。僕はちょっと無理ですけど……サンタクロースがいてくれたらあげてほしいと思います。
平田:ちょっと格好つけて言うと、世の中の寂しい人たちにお友達をあげたいなと思います。
『海をゆく者』のプレスコールの様子
ーー最後に一言ずつメッセージをお願いします!
小日向:不安なのは、70歳近い俳優たちを若い人が観に来てくれるだろうかと。自分が20代の頃はそんな興味がなかったなという感覚だったので。さっき平田さんが「70歳を売りにするな」と言ったんですけど、逆にそれを売り物してですね。70歳、若くて62歳。この年代が5人も揃っている舞台は多分ないと思うんですよ。そんなに先長くない俳優たちを記憶に収めるという意味でも本当に貴重だと思うので、ぜひ観てもらいたいなと思っております。
高橋:クリスマスイブとクリスマスの1日半ぐらいお話です。今までそんなにクリスマスに思い入れがなくて……街が賑やかになったり、イルミネーションで華やかになったりするんですけど、そんなに浮かれた感じもなかったんですね。
でもこの芝居に出てくるのは、クリスマスが大好きな人間たち。だからクリスマスってこんなに楽しいんだなと今回思いました。私自身も不安はいろいろありますけれども、クリスマスを楽しむ気持ちで向かっていけたらいいんじゃないかな勝手に思っている。12月をより楽しくするためのお芝居だと思いますので、ぜひ観に来ていただきたいと思います。
浅野:初演、再演を経て、僕の周りにこの芝居が大好きだと仰る方が結構いまして。確かに70歳の生態系を見るのも楽しみかもしれませんが(笑)、とにかく期待を裏切らないような舞台に出来上がってます。ぜひ楽しみにしていてください。
大谷:この作品をご覧なったお客様にとって、本当にささやかですが、いいクリスマスプレゼントになればいいなと思っています。
平田:男5人で、何となくみすぼらしい格好してますけれども、作品自体は私たちの想い以上の温かい気持ちが伝わると思いますので、きっとご覧になって損はないお芝居だと思います。ぜひ、いらしていただけるのを楽しみにしてます。
『海をゆく者』のプレスコールの様子
取材・文・撮影=五月女菜穂

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