©2017「メアリと魔女の花」製作委員会
1.『メアリと魔女の花』
“魔女、ふたたび。”
『借りぐらしのアリエッティ』、『思い出のマーニー』などで、国内外で高い評価を受ける米林宏昌監督。スタジオジブリ退社後の第一作目として、満を持して発表した本作は、かつて師である宮崎駿監督が選んだ題材と同じ「魔女」の物語だった。
米林宏昌監督の描くヒロインの、ブレないタフさが好きだ。
小さなアリエッティも心を閉ざしていたアンナも、自分の感情に素直で、そして勇敢だった。メアリも同じ。間違ってしまうことや、うまくできないことを怖がらず、目の前の試練に立ち向かっていく。
大きなものにも、強いものにも、小さい体と愛らしい魂で。
「この扉を開けるのに魔法なんか使っちゃいけない。どんなに時間がかかっても、自分の力でいつもどおりに開けなきゃ」
この映画ができたきっかけとも言える、原作の台詞だ。  
“魔女”の話でありながら、持ちえた魔法の力に頼らずに歩もうとする等身大の少女の姿は、「今、手の中にある力を信じてみて」と、私たちに直球のエールを打ち込んでくる。
大人になったら色んなことがわかって、人は強くなるんだと思っていたけれど、いざ大人になってみると、先回りや深読みをしすぎて、心の力はむしろ弱くなっている気さえしてしまう。
でも、メアリのタフさは、そんな弱気な大人を真正面から揺さぶってくる。
小さい頃、そう、ちょうど『魔女の宅急便』を初めて観た頃くらいだろうか。
妹と二人、毎日玄関掃き用の箒にまたがって、目をぎゅっとつぶって念じていた。今はまだできないけど、いつか絶対飛べるだろうと本気で信じていた。
自分の手の中に持っていたものなのだから、きっとまだ種はあるはず、と。
あの時の強い心、まるで魔法のように強い心がそう言っている。
▼あらすじ
赤い館村に引っ越してきたメアリは、森で七年に一度しか咲かない不思議な花《夜間飛行》を見つける。 それはかつて、魔女の国から盗み出された 禁断の“魔女の花”だった。 一夜限りの不思議な力を手にいれたメアリは、 雲海にそびえ立つ魔法世界の最高学府“エンドア大学”への 入学を許可されるが、メアリがついた、たったひとつの嘘が、やがて大切な人を巻き込んだ大事件を引き起こしていく。メアリは、魔女の国から逃れるため「呪文の神髄」を手に入れて、すべての魔法を終わらせようとする。 しかしそのとき、メアリはすべての力を失ってしまう——。
▼Information
『メアリと魔女の花』
7月8日(土)全国東宝系にてロードショー
原作:メアリー・スチュアート「The Little Broomstick」
脚本:坂口理子
脚本・監督:米林宏昌
音楽:村松崇継
声の出演:杉咲花、神木隆之介、天海祐希、小日向文世、満島ひかり、佐藤二朗、遠藤憲一、渡辺えり、大竹しのぶ
 
©SF Studios Production & Join Motion Pictures Photo Roxana Reiss
2.『ハートストーン』
セックスがしたくて仕方がない少年の鬱屈や、処女を喪失するまでの少女の揺らぎ。そこにズームをして性のめざめを描く作品は多い。
だけど、この作品は、もっと内側へ誘い、複雑で苦しいところへ連れて行く。
2人の少年の誰にも触れられたくない、壊れやすい扉とやわらかい棘。
持って生まれた体の仕組みではない、心のままの性。それを認識する時。戸惑いと苦悩と願い。そして、いのちを揺らすほどの衝動。
繋がりたい相手と繋がれないこと。触れたい相手に触れるのに、理由を探さなければいけないこと。体の変化についていけない心は、どう育てればいいのか。
求める温度がぴたりと合って、一度だけ泣きながら抱き合った二人。
背を向けて、「少しでも遠くへ」と疾走する後ろ姿。 眠る少女を挟んで静かに手を繋ぐシーンは、美しくて儚くて、叙情詩の最後の一節のような輝きだった。
極端にしか触れ合えない不器用な愛は、友情とも愛情とも言い難くて、その言葉にできない強い気持ちが、胸をぐっと締め付ける。
水の中の聞こえない叫び。聞こえないから叫べる叫び。
本当は聞こえてほしい叫び。
変化や目覚めを何ひとつ飼い慣らせない頃の顔つきは、見ていて痛くて苦しい。
血を流す牛、体が割れても羽根を拡げたままの鳥、水の中へ堕ちゆく中また泳ぎだした魚。時折カットインする、命を奪われる動物たちの姿が、瞬間的に生きていることの意味をも問う。
日常にはすぐそばに絶望があり、孤独があり、死が潜んでいて、その中で私たちは誰かを受容したり、誰かの中に挿入したりする。思春期と呼ばれる時を迎えたあたりから、体も心も自ずとそれらを追い求めてしまう。
放つことも溜め込むこともできない不安定なエネルギーを内に秘め、
いのちと結びつきながら、それぞれの形で性は目覚める。
▼あらすじ
東アイスランドの美しく雄大な自然が広がる小さな漁村、ソールとクリスティアンは幼なじみでいつも一緒の大親友。 ソールは美しい母、そして自由奔放なラケルと芸術家肌のハフディス、対照的な二人の姉妹に囲まれて暮らしている。 思春期にさしかかり、ソールは大人びた美少女ベータのことが気になりはじめる。クリスティアンはそんなソールの気持ちを知り二人が上手くいくよう後押しする。そしてクリスティアン自身もベータの女友だちハンナからの好意を受けとめ、4人は行動を共にするようになる。
自然とソールとベータの距離は縮まり二人は心を通わせ合う。ただそこには二人を見守りつつ複雑な表情を浮かべるクリスティアンがいた…。
▼Information
『ハートストーン』
7月15日(土)よりYEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次ロードショー  
監督・脚本: グズムンドゥル・アルナル・グズムンドソン  
出演: バルドル・エイナルソン、ブラーイル・ヒンリクソン ディルヤゥ・ワルスドッティル、カトラ・ニャルスドッティル、ニーナ・ドッグ・フィリップスドッティル  
配給・宣伝:マジックアワー
公式HP: www.magichour.co.jp/heartstone/  
 
©2017「アリーキャット」製作委員会
3.『アリーキャット』
時代を変え、そして作ったとも言える二人は、私の見てきた、聴いてきた彼らは、いつの日もクールで最高に熱い、憧れの男たちだった。
窪塚洋介×降谷建志。まさに、ミラクルセッション!
この二人で、一体何をやるのか?
「ほとんど同じ時代をサヴァイヴしてきた感覚がある」
窪塚洋介本人がそう語ったように、私たち“世代”にとっても、もうこのタッグだけで、体に走る期待が隠せない!
その印象は、二人が演じる「マル」と「リリィ」にそのままスライドする。
元ボクシングチャンピオン、警備の仕事でその日暮らしを送る男。
その男の行方不明になった猫を、保健所で引き取った整備工の男。
社会の底辺で、過去を捨てた男と、これといった目的を持たない男が出会い、ひょんなことから、一人の女のボディーガードを務めることになる…。
かなぐり捨てた正義と覚悟ほど、未知数のものはない。
何も持たない二人は、何も持たない二人だからこそのやり方で、
その正義を貫き、人を人とも思っていない奴らに一矢報いようとする。
野良猫のように自由に、気ままに、どこまでもタフに、それぞれが別の方向を見ながら、同じところを目指していく。
これは、ちぐはぐな二人が、でこぼこの道を最高速度で併走する映画だ。
真逆を向いて歩き出したからこそ、1周回ってド正面からぶつかるような。
「ああ、こっちじゃないのかよ、じゃああっちから行こうぜ」って言えるような。
今日はここにいるけど、明日にはもういないかもしれない。
それでも、「相棒」と呼びたい奴がいるという頼もしさ。
「人なんて、1人でできないことの方がずっと多いんだ」と、弱さと情けなさに裏打ちされた人の絆と、剥き身でいることの潔い強さを思い知らされた。
▼あらすじ
元ボクシングの東洋チャピンオンで、いまは頭の後遺症に悩みながらも警備員の仕事をしている朝秀晃。ささやかな楽しみは、彼が「マル」と呼ぶ野良猫の世話をすることだった。ところが、そのマルが行方不明に。保護されているかもと、保健所を訪れた秀晃は、入口にひとりの男が猫を抱いて出てくるところに出くわす。
その猫こそ、マルだった。「マル! よかったな! 命拾いしたな、お前!」
ところが、その男、梅津郁巳は無視して歩き出す。
「ちょっと、待って。そいつ、俺の猫なんだよ。ずっと探してて。な、マル!」「リリィだよ」「え?」「リリィ。俺がさっきつけた名前。いま、もらってきたところ」
ふたりの男はそんなふうに出逢ったー。
▼Information
『アリーキャット』 
7月15日(土)より、テアトル新宿ほか全国ロードショー
監督:榊英雄
出演:窪塚洋介、降谷建志、市川由衣、品川祐ほか
配給:アークエンタテイメン
 
 
 
©2017『彼女の人生は間違いじゃない』製作委員会
4.『彼女の人生は間違いじゃない』
あの地震で、あの津波で、昨日まであった家を失い、愛する者を亡くした人たち。その実際の声に耳を傾けながら、震災後6年の今の福島を伝える。
「個人的な心と心のつながりから出来た映画」
ンドロールを後にして、原作の著者でもある廣木監督の言葉が胸にじわじわと拡がっていく。
「高速バスの車窓から、巨人の群れのような鉄塔が見える。
ここで作った電気は東京へ送られる。すべては東京中心だ。」
東日本大震災による津波で母を亡くし、父と仮設住宅に住むみゆきは、
週末になると、毎週高速バスに乗って東京へ行く。
週の2日間だけ、普段は着ない色の服を着て、誰も知らない顔をして、ここでしか呼ばれない、別の名前になって。
何かが分かるかもしれない、何かが変わるかもしれない、何かが見つかるかもしれない。ざわつく心を抱えて、流れ行く景色を見つめるみゆきの心の内を思うと、胸が締め付けられると同時に、その言葉にできない衝動に共感を覚える。
強い気持ちを持っていないと、思っていた場所にはたどり着けない。
ほんの少しでも気を緩めてしまったら、思ってもない場所にたどり着く。
東京の縮図のような渋谷駅前スクランブル交差点。
「これだけの数の価値観が錯綜しているのか」と、目がくらみそうにもなるけれど、その密度の中だからこそ、なれる自分があるのも本当だ。
私たちはいつだって、自分の居場所や目的を探している。
強い意志を持って頷ける何かに、まっすぐ信じられる何かに出会いたくて、
この手でそれに触れてみたくて、矛盾したり、失敗したりしながら、いろんなことをやってみる。 だけど、本当はとても怖がりで寂しがりやだから、「間違いじゃないよ」「こっちでいいんだよ」と言ってくれる誰かに出会いたい。
言葉じゃなくてもいいけれど、そういう人に出会いたいし、そういう人で自分いたい。
明日、どこで何が起こるか本当にわからないからこそ、そんな風に生きていきたい。
▼あらすじ
まだ薄暗い、早朝のいわき駅。東京行きの高速バスに乗り込む、金沢みゆき。同居する父親は、英会話教室に通っていると思っている。
まもなく太陽も昇りきり、田圃に一列に並んだ高圧電線の鉄塔が、車窓を流れてゆく。東京駅のトイレで化粧を終えたみゆきは、渋谷へと向かう。スクランブル交差点を渡り、たどり着いたマンションの一室が、みゆきのアルバイト先の事務所だ。「YUKIちゃん、おはよう」と、ここでの彼女の名前で話しかける三浦。彼が運転する車の後部座席に乗って、出勤したのはラブホテル。彼女の仕事はデリヘルだ。「何年目だっけ?」と帰りの車の中で三浦に聞かれ、「来月でちょうど2年目です」と答えるみゆき。暗くなる前に、今度は鉄塔の表側を見ながら、福島へと帰るみゆきだが…。
▼Information
『彼女の人生は間違いじゃない』
7月15日(土)ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館 他 全国順次ロードショー
監督・原作:廣木隆一
出演:瀧内公美、高良健吾、柄本時生/光石研
配給:ギャガ
5.『いのちのはじまり:子育てが未来をつくる』
保育園に落ちたって、日本は死なないし、子どもは泣くし、私も泣きたい。
他の国のことはたくさん知らないけれど、日本で子育てをしていると、諦めや我慢の連続だ。
小さなことなら、エレベーターもエスカレーターもない駅は地獄だし、
大きいことなら、時間もお金も全然足りない。
だけど、昨日より今日、今日より明日大きくなる子どもの成長。
その歓びには何だって代えられないから、明日も保育園を探すし、どうにかして働いて、眠る前に読む絵本をたくさん買ってあげたい。
というのは、日本で子育てをする、しがないライターの話だが、子育てには、正解も形式もないし、国や地域の文化や習慣、子どもの個性や家庭状況によっても全然違う。
世界中の子育ての現場を通して、見えてくるものってなんだろうか。
このドキュメンタリーを撮ったブラジル出身のエステラ・ヘネル監督は、9つの国に赴き、さまざまな家庭を訪問した。
職場復帰に悩む母、専業主夫となった元研究者、養子をとり育児中の驚きや喜びを語る夫婦、好条件の転職と娘の通学送迎が折り合わず悩んだ末に決断を下した父、子育て中のレズビアンカップル、娘夫婦に代わって孫の面倒をみている祖父母、ドラッグ中毒により子育てもままならない時期を経て立ち直った母、両親を亡くし幼い兄弟の面倒をたった一人でみる少女。
世界中の子育てをめぐって切り取られる、微笑ましく、切実で、愛おしくて、涙ぐましいリアル。
カットインするあらゆるシーンには、それぞれの問題やテーマの中、子どもと生きる人々の日常と、子どもたちの生き生きとした表情があった。
言葉も習慣も個性も違う中、子育てにおいて世界共通のことがあるとするなら、それは「未来」を思う、ということだろう。
昨日より今日、今日より明日大きくなる子どもの未来。
自分の足で立ち、言葉を覚え、この世界を進む、いつか大人になる子どもたちの未来。
▼Information
『いのちのはじまり:子育てが未来をつくる』
6月24日(土)よりアップリンク渋谷、ユジク阿佐ヶ谷、7月1日(土)よりCINEMA Chupki TABATA他にて全国順次公開
監督:エステラ・ヘネル
制作:マリア・ファリナ・フィルムズ
提供:マリア・セシリア・ソート・ビジガル財団、バーナード・バン・リー財団、アラナ協会、ユニセフ
配給・宣伝:アップリンク
協力:日本ユニセフ協会
Text/Miiki Sugita
出典:She magizine

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