INTERVIEW | 音楽の街・沖縄が目指
すシーンの活性化『おきなわ音楽月間
』『Music Lane Okinawa』中心人物が
語るこの先の展望 『おきなわ音楽月
間』『Music Lane Okinawa』中心人物
が語るこの先の展望

沖縄から世界への繋がりを作ろうとする流れが起こっているのをご存知だろうか。10月から12月の3ヶ月間にわたって開催される『おきなわ音楽月間』、その締めくくりとして行われる『Music Power 2023』、そしてアジアを中心に、世界中から音楽関係者が集まるショーケース/複合型フェスティバル『Music Lane Festival Okinawa』。これら一連のイベントはいずれも沖縄の音楽シーンの底上げ、活性化を目標のひとつとして掲げている。
特にショーケースだけでなく、カンファレンスや1on1ミーティングも実施するなど、まるで“沖縄版SXSW”と喩えたくなるような『Music Lane Festival Okinawa』への出演を機に、国内の新鋭アーティストが海外フェスへと招聘されるという話もよく聞くようになった。沖縄在住アーティスト、TOSHは9月にX(旧Twitter)にて下記のようなポストを投稿している。
今回はそんな『おきなわ音楽月間』の運営にも携わるほか、『Music Lane Festival Okinawa』創設者でもある野田隆司氏にインタビュー。複数のイベント、施策を跨いだ展望や今後のヴィジョンについて語ってもらった。(編集部)
Interview & Text by Naoya Koike
Photo by 野田隆司氏提供
「先に繋がっていく道筋を示す」
――野田さんは大学進学を機に沖縄に移住されたそうですね。
野田隆司(以下、野田):佐世保から沖縄に来て40年になります。ライターや編集業と並行しながら音楽イベントの仕事を始めました。雑誌の編集長をしていたこともあります。フェスは2007年に始めた『Sakurazaka ASYLUM』が最初です。映画館の桜坂劇場にも2005年のオープン当時から関わっています。
――今年も10月から3カ月間『おきなわ音楽月間 2023』が開催されました。こちらの企画について、改めて成り立ちや概要を教えていただけますか。
野田:コロナ禍前から毎年行われている沖縄市主催のイベントです。沖縄市は「コザ」と呼ばれ、琉球古典音楽から「島唄」と呼ばれる沖縄民謡がとても盛んで、伝統芸能「エイサー」の本場です。さらに基地の街ですから、ベトナム戦争の頃からロックが栄えた歴史もあるんですね。今もゲート通りにはクラブやバー、ライブハウスが並んでいますし、沖縄市自体も音楽の街としての側面を意識的に強く打ち出しています。また「ミュージックタウン音市場」はスタンディングで1,100人収容のライブハウスなのですが、ここは沖縄市の施設でもあります。
――昔から沖縄は音楽の街として知られている印象もあります。
野田:ところが数年前に市が実施した「コザが音楽の街という認識はあるか?」というアンケート調査の結果、若い人にはそういう意識があまりないことがわかったんです。ORANGE RANGEが注目を集め始めた頃とは違い、今はバスケットボールの「琉球ゴールデンキングス」やサッカーの「FC琉球」が人気で、スポーツの街というイメージが先行しています。
だから単純にイベントをやるだけでは足りなくて、もっと新しい世代のアーティストに意識的に目を向けて、先に繋がっていく道筋を示すことが大切だと考えていました。
――具体的に『おきなわ音楽月間 2023』ではどのようなことに取り組んでいるのでしょうか。
野田:10月~11月は金曜日の夜に市街地で『まちなかLIVE』を行いました。出演者はこちらでブッキングすることもありますが、基本的には公募。1日に8バンドが出演し、それが8週間続くので、64組が出演した計算です。
そのなかから専門家によって選出された2バンドには、『おきなわ音楽月間』の締めくくりのイベント『MUSIC POWER』、さらに『Music Lane Festival Okinawa』への出演、「ミュージックタウン音市場」で行っている、デモ音源制作やプロモーションの支援を手伝う若手育成事業の対象になるチャンスもあります。ただイベントに出演してもらうだけではなく、その先に繋がるような機会を創出し、音楽シーンの底上げを目指しています。
――『おきなわ音楽月間 2023』の最後に行われるイベント『MUSIC POWER』はKiroroの金城綾乃さん、沖縄民謡の仲宗根創さん、ラッパーのRude-αさん、台湾の緩緩(Huan Huan)など、多様なアーティストがラインナップされています。
野田:基本的には沖縄出身のアーティストを軸にブッキングしています。緩緩については、「沖縄の近所である台湾にはこういうクールな音楽もある」ということで提案しました。また、『まちなかLIVE』からはWEST CASTLEとLqilqh.が選ばれました。
『MUSIC POWER2023』は短いステージが早いペースで展開していく、音楽バラエティ番組のようなイメージですね。音楽ファンだけでなく、市民の方々も老若男女多く集まるので、なるべく皆さんが楽しめるライブにできればと思っています。チャンプルー(ごちゃまぜ)なラインナップも沖縄らしいのかなと。
国内外のアーティスト、音楽関係者を繋ぐ仕組み
――その音楽における“沖縄らしさ”について、野田さんはどのように考えていますか。
野田:独特のメロディやリズム、スケール、楽器がある点。そして日本本土や中国、東南アジア、戦後はアメリカの影響も受けたミクスチャーな音楽だということ。そのユニークな音楽の背景には沖縄ならではのライフスタイルや辛い戦争の経験、米軍基地をめぐる闘いの歴史などがあるはずです。
80年代後半~90年代は喜納昌吉さんやネーネーズりんけんバンドといった沖縄民謡とポップスやロックを掛け合わせた独特な音楽が出てきて、海外に紹介されていたんです。それもあって、沖縄音楽を発信していくときに当初のターゲットにしていたのはワールド・ミュージックのマーケットでした。
それで私は2014年頃から県の助成を得て、ヨーロッパやアジアで開かれる音楽の見本市やフェスに沖縄のアーティストと出向いて、ショーケースに出演してもらうという仕事に取り組んでいたんです。
――それが『Music Lane Festival Okinawa』の前身となる『Trans Asia Music Meeting(以下、TAMM)』の開催に繋がっていくのですね。
野田:そうですね。海外フェスへの参加を続けているうちに各国の参加者とも話すようになり、知り合いも増えていきました。そんな中で、私自身も海外のフェスに呼ばれたり、カンファレンスに登壇するような機会が増えてきました。
野田:そのうちに、この仕組みを日本でもやったらおもしろそうだなと思って、“海外見本市(ショーケース)の報告会”という形でカンファレンス+ショーケース・ライブのイベントを始めたのが原型です。過去にはAwichさんがバンドとダンサーを入れた編成で出演したこともありました。これは後に桜坂劇場で企画している街フェス『Sakurazaka ASYLUM』のなかで『TAMM』と銘打つようになります。
「デリゲイツ」と呼ばれる海外プロデューサーやレーベルのプロデューサーも招いて、アーティストと1対1のミーティングをしてもらったり、ネットワーキングの場も用意していました。そこで少しずつ沖縄のアーティストも海外に招かれるようになっていきました。
――興味深いです。そして『Music Lane Festival Okinawa』のスタートの経緯についても聞かせください。
野田: 『TAMM』の初回は海外アーティストの公募をしておらず、国内アーティストが9割でした。ただ、沖縄でも海外のバンドを含んだショーケースをやることを考えていたんです。『Music Lane Festival Okinawa』は、コロナ禍で始めました。私たちが2020年から、ミュージックタウン音市場の指定管理者になったので、コザ発信でやることにして。2023年2月に開催する際に初めて海外向けにも募集をかけました。2022年秋に東京・渋谷で開催された『Tokyo Beyond Festival 2022』も海外から多くの応募があったと聞いていたので、そこそこ来るかなとは予想していましたが、沖縄でも50~60組の応募がありました。
ショーケースなので、こちらからは出演料や旅費は出せないのですが、海外の音楽関係者を集めて、主にインディーズのアーティストとマッチングしてもらう、ネットワーキングの機会を設けています。要するにアメリカの『SXSW』とまったく同じシステムですね。
――金銭的コストを考慮した上で、メリットがあると判断されているからこそ多数の応募がくるわけですよね。
野田:『SXSW』はアメリカのビザ取得費用の課題もあるし、会場の設備が十分に用意されていない場合もあって、そのときは自前で楽器や音響を手配しなければいけないらしく、なかなかに過酷と聞きます。それなのに世界中から参加したいグループが殺到する。その理由をオーガナイザーに尋ねたら、答えは「投資だからね」の一言でした(笑)。
それとインディペンデントの海外アーティストからは日本の音楽マーケットへアプローチするのが難しいと聞きます。ショーケースをきっかけに音楽関係者と繋がれば、何かしらのチャンスを掴みやすい。自分でツアーをブッキングするよりメリットもあるし、きっかけにするのはとてもいいと思っています。
――日本勢も『Music Lane Festival Okinawa』への出演がきっかけで海外フェス出演に繋がったと聞いています。
野田:そうですね。2019年の『TAMM』出演をきっかけにして、折坂悠太さんが台南の『LUCfest』に出演、今年は沖縄のアーティスト・TOSHがモンゴルの『PLAYTIME FESTIVAL』に招かれ、そのTOSHと一緒に同じく沖縄の3人組・HOMEが韓国の『Zndari Festa』に出演しています。HOMEはさらにシンガポールの『AXEAN FESTIVAL』でも演奏しました。
また、さらささんは韓国の『ASIA SONG FESTIVAL 2023』や台南の『LUCfest』にも招聘されています。さらささんの例をみてもわかるように、沖縄だけでなく本土のアーティストにも同じようにチャンスがあるんです。
今後は並行して国内にも目を向けていく
――他に影響を受けた海外フェスはありますか。
野田:今、名前を挙げた『Zandari Festa』、『LUCfest』はもちろん、シンガポールの『AXEAN festival』、北京『Sound of the City』など、アジアのショーケースから多くを勉強させてもらいました。当初はワールド・ミュージックからアプローチをしていたので、ヨーロッパで開かれている『WOMEX(the World Music Expo)』の影響は大きいと思います。
『Music Lane Festival Okinawa 2024』は50組のアーティストが出演予定なのですが、これを2日間でやると時間が限られてしまうんです。本当はカンファレンスなどを増やしたいのですが……。次回以降はもう1日、2日ほど日程を増やすことになるかもしれません。
――『Music Lane Festival Okinawa 2024』は多様なアーティストがラインナップされていますが、出演者はどのように選出しているのでしょう。
野田:国内外同様に審査の方針をスタッフ全員で共有し、送られてきた音源を聴いて比較して決定します。クオリティはもちろん、なるべく多くの国から呼べるようなバランス、そしてジャンルなどは配慮しています。今回は前回にも増して豪華な顔ぶれで、かつポップスやロック、ヒップホップ、ワールド・ミュージックなどバラエティに富んだ内容になったかと。
――DYGLの秋山信樹さんをゲスト・キュレーターに起用されていますが、それについても教えていただけますか。
野田:秋山さんはルーツが半分沖縄で、我々がやっている事業に賛同してくださり、自分からキュレーションを引き受けてくれたんです。自分たちだけでなく外の視点を入れることも大切だと思うので、相談しながらアーティストを選出していただきました。
今回はデリゲイツも12カ国ほどから来日します。台湾、韓国、中国、やベトナム、モンゴル、インド、アメリカ、チェコなど、かなり増えています。可能な限り皆さんをお繋ぎできればと思っています。
――つまり『おきなわ音楽月間 2023』から『MUSIC POWER』が県内の音楽シーンの底上げ、『TAMM』や『Music Lane Festival Okinawa』は海外とのハブとして機能しているということですね。その相互作用で沖縄の音楽シーンが活性化していくような気がします。
野田:『まちなかLIVE』から『MUSIC POWER』、そして『Music Lane Festival Okinawa』、そしてさらに次のステップを示して、より具体的な出口を考えることが重要だと思います。招いているデリゲイツも、基本的に自分のフェスを持っているような方がほとんどです。やはり、新しい機会を創出できる人に繋いでいくことが大切ですから。
世界でもこうしたショーケースでから出てきた才能のあるアーティストを、アジアで増えているインディ寄りの大きな型フェスなどに繋ぐ仕組みが求められているんだと思います。先日、『LUCfest』で行われたクローズドの会議では、香港の『Clockenflap』やタイ・バンコクの『Maho Rasop』といった大型フェスの主催者に対して、ショーケースのオーガナイザーが「(自分たちが選ぶ)アーティストの枠を設けては」という話になりました。音楽業界にとっても、ショーケースから出てくる新しいアーティストをコマーシャルなフェスに繋ぐことはとても重要だと思います。この話は『Music Lane Festival Okinawa』でも継続していく予定です。
――日本の『FUJI ROCK FESTIVAL』や『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』などの大型フェスに『Music Lane Festival Okinawa』から選ばれたアーティスト枠、もしくはステージが用意されるような未来、夢もありえそうです。
野田:これまではアジアのフェスばかり見ていたので、今後は並行して国内にも目を向けたいですね。『Music Lane Festival Okinawa』が沖縄をハブに、国内外のアーティストと音楽関係者を繋ぐ場所になってくれたら嬉しいです。
【イベント情報】
問い合わせ/電話予約:ミュージックタウン音市場 098-932-1949
主催:沖縄市・ミュージックタウン音市場
※Main Visual:渡久地菜生(BALCOLONY)
■ 「Music Lane Okinawa」 オフィシャル・サイト(https://musiclaneokinawa.com/)
沖縄から世界への繋がりを作ろうとする流れが起こっているのをご存知だろうか。10月から12月の3ヶ月間にわたって開催される『おきなわ音楽月間』、その締めくくりとして行われる『Music Power 2023』、そしてアジアを中心に、世界中から音楽関係者が集まるショーケース/複合型フェスティバル『Music Lane Festival Okinawa』。これら一連のイベントはいずれも沖縄の音楽シーンの底上げ、活性化を目標のひとつとして掲げている。
特にショーケースだけでなく、カンファレンスや1on1ミーティングも実施するなど、まるで“沖縄版SXSW”と喩えたくなるような『Music Lane Festival Okinawa』への出演を機に、国内の新鋭アーティストが海外フェスへと招聘されるという話もよく聞くようになった。沖縄在住アーティスト、TOSHは9月にX(旧Twitter)にて下記のようなポストを投稿している。
"僕の周りのアーティストの方や音楽に関わってるみんなマジちょっと見てほしい" pic.twitter.com/CsRpOyaxZ1(https://t.co/CsRpOyaxZ1)
— TOSH (@_ku_gai_) September 1, 2023(https://twitter.com/_ku_gai_/status/1697548818806669684?ref_src=twsrc%5Etfw)
今回はそんな『おきなわ音楽月間』の運営にも携わるほか、『Music Lane Festival Okinawa』創設者でもある野田隆司氏にインタビュー。複数のイベント、施策を跨いだ展望や今後のヴィジョンについて語ってもらった。(編集部)
Interview & Text by Naoya Koike
Photo by 野田隆司氏提供
「先に繋がっていく道筋を示す」
――野田さんは大学進学を機に沖縄に移住されたそうですね。
野田隆司(以下、野田):佐世保から沖縄に来て40年になります。ライターや編集業と並行しながら音楽イベントの仕事を始めました。雑誌の編集長をしていたこともあります。フェスは2007年に始めた『Sakurazaka ASYLUM』が最初です。映画館の桜坂劇場にも2005年のオープン当時から関わっています。
――今年も10月から3カ月間『おきなわ音楽月間 2023』が開催されました。こちらの企画について、改めて成り立ちや概要を教えていただけますか。
野田:コロナ禍前から毎年行われている沖縄市主催のイベントです。沖縄市は「コザ」と呼ばれ、琉球古典音楽から「島唄」と呼ばれる沖縄民謡がとても盛んで、伝統芸能「エイサー」の本場です。さらに基地の街ですから、ベトナム戦争の頃からロックが栄えた歴史もあるんですね。今もゲート通りにはクラブやバー、ライブハウスが並んでいますし、沖縄市自体も音楽の街としての側面を意識的に強く打ち出しています。また「ミュージックタウン音市場」はスタンディングで1,100人収容のライブハウスなのですが、ここは沖縄市の施設でもあります。
――昔から沖縄は音楽の街として知られている印象もあります。
野田:ところが数年前に市が実施した「コザが音楽の街という認識はあるか?」というアンケート調査の結果、若い人にはそういう意識があまりないことがわかったんです。ORANGE RANGEが注目を集め始めた頃とは違い、今はバスケットボールの「琉球ゴールデンキングス」やサッカーの「FC琉球」が人気で、スポーツの街というイメージが先行しています。
だから単純にイベントをやるだけでは足りなくて、もっと新しい世代のアーティストに意識的に目を向けて、先に繋がっていく道筋を示すことが大切だと考えていました。
――具体的に『おきなわ音楽月間 2023』ではどのようなことに取り組んでいるのでしょうか。
野田:10月~11月は金曜日の夜に市街地で『まちなかLIVE』を行いました。出演者はこちらでブッキングすることもありますが、基本的には公募。1日に8バンドが出演し、それが8週間続くので、64組が出演した計算です。
そのなかから専門家によって選出された2バンドには、『おきなわ音楽月間』の締めくくりのイベント『MUSIC POWER』、さらに『Music Lane Festival Okinawa』への出演、「ミュージックタウン音市場」で行っている、デモ音源制作やプロモーションの支援を手伝う若手育成事業の対象になるチャンスもあります。ただイベントに出演してもらうだけではなく、その先に繋がるような機会を創出し、音楽シーンの底上げを目指しています。
――『おきなわ音楽月間 2023』の最後に行われるイベント『MUSIC POWER』はKiroroの金城綾乃さん、沖縄民謡の仲宗根創さん、ラッパーのRude-αさん、台湾の緩緩(Huan Huan)など、多様なアーティストがラインナップされています。
野田:基本的には沖縄出身のアーティストを軸にブッキングしています。緩緩については、「沖縄の近所である台湾にはこういうクールな音楽もある」ということで提案しました。また、『まちなかLIVE』からはWEST CASTLEとLqilqh.が選ばれました。
『MUSIC POWER2023』は短いステージが早いペースで展開していく、音楽バラエティ番組のようなイメージですね。音楽ファンだけでなく、市民の方々も老若男女多く集まるので、なるべく皆さんが楽しめるライブにできればと思っています。チャンプルー(ごちゃまぜ)なラインナップも沖縄らしいのかなと。
国内外のアーティスト、音楽関係者を繋ぐ仕組み
――その音楽における“沖縄らしさ”について、野田さんはどのように考えていますか。
野田:独特のメロディやリズム、スケール、楽器がある点。そして日本本土や中国、東南アジア、戦後はアメリカの影響も受けたミクスチャーな音楽だということ。そのユニークな音楽の背景には沖縄ならではのライフスタイルや辛い戦争の経験、米軍基地をめぐる闘いの歴史などがあるはずです。
80年代後半~90年代は喜納昌吉さんやネーネーズ、りんけんバンドといった沖縄民謡とポップスやロックを掛け合わせた独特な音楽が出てきて、海外に紹介されていたんです。それもあって、沖縄音楽を発信していくときに当初のターゲットにしていたのはワールド・ミュージックのマーケットでした。
それで私は2014年頃から県の助成を得て、ヨーロッパやアジアで開かれる音楽の見本市やフェスに沖縄のアーティストと出向いて、ショーケースに出演してもらうという仕事に取り組んでいたんです。
――それが『Music Lane Festival Okinawa』の前身となる『Trans Asia Music Meeting(以下、TAMM)』の開催に繋がっていくのですね。
野田:そうですね。海外フェスへの参加を続けているうちに各国の参加者とも話すようになり、知り合いも増えていきました。そんな中で、私自身も海外のフェスに呼ばれたり、カンファレンスに登壇するような機会が増えてきました。
野田:そのうちに、この仕組みを日本でもやったらおもしろそうだなと思って、“海外見本市(ショーケース)の報告会”という形でカンファレンス+ショーケース・ライブのイベントを始めたのが原型です。過去にはAwichさんがバンドとダンサーを入れた編成で出演したこともありました。これは後に桜坂劇場で企画している街フェス『Sakurazaka ASYLUM』のなかで『TAMM』と銘打つようになります。
「デリゲイツ」と呼ばれる海外プロデューサーやレーベルのプロデューサーも招いて、アーティストと1対1のミーティングをしてもらったり、ネットワーキングの場も用意していました。そこで少しずつ沖縄のアーティストも海外に招かれるようになっていきました。
――興味深いです。そして『Music Lane Festival Okinawa』のスタートの経緯についても聞かせください。
野田: 『TAMM』の初回は海外アーティストの公募をしておらず、国内アーティストが9割でした。ただ、沖縄でも海外のバンドを含んだショーケースをやることを考えていたんです。『Music Lane Festival Okinawa』は、コロナ禍で始めました。私たちが2020年から、ミュージックタウン音市場の指定管理者になったので、コザ発信でやることにして。2023年2月に開催する際に初めて海外向けにも募集をかけました。2022年秋に東京・渋谷で開催された『Tokyo Beyond Festival 2022』も海外から多くの応募があったと聞いていたので、そこそこ来るかなとは予想していましたが、沖縄でも50~60組の応募がありました。
ショーケースなので、こちらからは出演料や旅費は出せないのですが、海外の音楽関係者を集めて、主にインディーズのアーティストとマッチングしてもらう、ネットワーキングの機会を設けています。要するにアメリカの『SXSW』とまったく同じシステムですね。
――金銭的コストを考慮した上で、メリットがあると判断されているからこそ多数の応募がくるわけですよね。
野田:『SXSW』はアメリカのビザ取得費用の課題もあるし、会場の設備が十分に用意されていない場合もあって、そのときは自前で楽器や音響を手配しなければいけないらしく、なかなかに過酷と聞きます。それなのに世界中から参加したいグループが殺到する。その理由をオーガナイザーに尋ねたら、答えは「投資だからね」の一言でした(笑)。
それとインディペンデントの海外アーティストからは日本の音楽マーケットへアプローチするのが難しいと聞きます。ショーケースをきっかけに音楽関係者と繋がれば、何かしらのチャンスを掴みやすい。自分でツアーをブッキングするよりメリットもあるし、きっかけにするのはとてもいいと思っています。
――日本勢も『Music Lane Festival Okinawa』への出演がきっかけで海外フェス出演に繋がったと聞いています。
野田:そうですね。2019年の『TAMM』出演をきっかけにして、折坂悠太さんが台南の『LUCfest』に出演、今年は沖縄のアーティスト・TOSHがモンゴルの『PLAYTIME FESTIVAL』に招かれ、そのTOSHと一緒に同じく沖縄の3人組・HOMEが韓国の『Zndari Festa』に出演しています。HOMEはさらにシンガポールの『AXEAN FESTIVAL』でも演奏しました。
また、さらささんは韓国の『ASIA SONG FESTIVAL 2023』や台南の『LUCfest』にも招聘されています。さらささんの例をみてもわかるように、沖縄だけでなく本土のアーティストにも同じようにチャンスがあるんです。
今後は並行して国内にも目を向けていく
――他に影響を受けた海外フェスはありますか。
野田:今、名前を挙げた『Zandari Festa』、『LUCfest』はもちろん、シンガポールの『AXEAN festival』、北京『Sound of the City』など、アジアのショーケースから多くを勉強させてもらいました。当初はワールド・ミュージックからアプローチをしていたので、ヨーロッパで開かれている『WOMEX(the World Music Expo)』の影響は大きいと思います。
『Music Lane Festival Okinawa 2024』は50組のアーティストが出演予定なのですが、これを2日間でやると時間が限られてしまうんです。本当はカンファレンスなどを増やしたいのですが……。次回以降はもう1日、2日ほど日程を増やすことになるかもしれません。
――『Music Lane Festival Okinawa 2024』は多様なアーティストがラインナップされていますが、出演者はどのように選出しているのでしょう。
野田:国内外同様に審査の方針をスタッフ全員で共有し、送られてきた音源を聴いて比較して決定します。クオリティはもちろん、なるべく多くの国から呼べるようなバランス、そしてジャンルなどは配慮しています。今回は前回にも増して豪華な顔ぶれで、かつポップスやロック、ヒップホップ、ワールド・ミュージックなどバラエティに富んだ内容になったかと。
――DYGLの秋山信樹さんをゲスト・キュレーターに起用されていますが、それについても教えていただけますか。
野田:秋山さんはルーツが半分沖縄で、我々がやっている事業に賛同してくださり、自分からキュレーションを引き受けてくれたんです。自分たちだけでなく外の視点を入れることも大切だと思うので、相談しながらアーティストを選出していただきました。
今回はデリゲイツも12カ国ほどから来日します。台湾、韓国、中国、やベトナム、モンゴル、インド、アメリカ、チェコなど、かなり増えています。可能な限り皆さんをお繋ぎできればと思っています。
――つまり『おきなわ音楽月間 2023』から『MUSIC POWER』が県内の音楽シーンの底上げ、『TAMM』や『Music Lane Festival Okinawa』は海外とのハブとして機能しているということですね。その相互作用で沖縄の音楽シーンが活性化していくような気がします。
野田:『まちなかLIVE』から『MUSIC POWER』、そして『Music Lane Festival Okinawa』、そしてさらに次のステップを示して、より具体的な出口を考えることが重要だと思います。招いているデリゲイツも、基本的に自分のフェスを持っているような方がほとんどです。やはり、新しい機会を創出できる人に繋いでいくことが大切ですから。
世界でもこうしたショーケースでから出てきた才能のあるアーティストを、アジアで増えているインディ寄りの大きな型フェスなどに繋ぐ仕組みが求められているんだと思います。先日、『LUCfest』で行われたクローズドの会議では、香港の『Clockenflap』やタイ・バンコクの『Maho Rasop』といった大型フェスの主催者に対して、ショーケースのオーガナイザーが「(自分たちが選ぶ)アーティストの枠を設けては」という話になりました。音楽業界にとっても、ショーケースから出てくる新しいアーティストをコマーシャルなフェスに繋ぐことはとても重要だと思います。この話は『Music Lane Festival Okinawa』でも継続していく予定です。
――日本の『FUJI ROCK FESTIVAL』や『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』などの大型フェスに『Music Lane Festival Okinawa』から選ばれたアーティスト枠、もしくはステージが用意されるような未来、夢もありえそうです。
野田:これまではアジアのフェスばかり見ていたので、今後は並行して国内にも目を向けたいですね。『Music Lane Festival Okinawa』が沖縄をハブに、国内外のアーティストと音楽関係者を繋ぐ場所になってくれたら嬉しいです。
【イベント情報】
問い合わせ/電話予約:ミュージックタウン音市場 098-932-1949
主催:沖縄市・ミュージックタウン音市場
※Main Visual:渡久地菜生(BALCOLONY)
■ 「Music Lane Okinawa」 オフィシャル・サイト(https://musiclaneokinawa.com/)

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