Gilles de RaisがExtasy Recordsから
発表した『殺意』は
1990年代インディーズを代表する
傑作アルバムのひとつ

意欲を感じるサウンドメイキング

メロディーが優秀なだけでなく、サウンドのバラエティーさも本作『殺意』から如何なく受け取れるところである。ザっと見ていこう。軽快な頭打ちのリズムに乗ったM1「SUICIDE」で印象的なのはエッジーなギターサウンドである。そのドライな音は、それこそBOØWYであったり、REBECCAであったり、Gilles de Raisと同期であるいわゆるヴィジュアル系のバンドでも多用されていたもので、おそらくニューロマ由来だと考えられる。1980年代から1990年代まで脈々と続いてきた日本のギターロックの系譜である。

これは引き続きM2「MOONLIGHT LOVERS」でも聴こえてくるが、M2はシャッフルのリズムというのが面白い。ダンサブルでありつつも、途中、変拍子気味な箇所もあり、ダークな展開を見せるコード進行と相俟って、かなり興味深い構成だ。ひと筋縄ではいかないところに彼らの意志を感じる。

M3「UP TO DATE」はギターのアルペジオのアンサンブルで始まり、スラッシュメタル風に展開する。イントロがアルペジオというのは、当時のヴィジュアル系バンドが多用していたものなので、それ自体は珍しいものではないが、そのギターの音色、コードはギターシンセを使っているのだろうか。バロック音楽風というか、欧州の民族音楽的というか、宗教音楽的というか、他では聴けないものであって、今も新鮮に響く。

M4「殺意」とM5「BRAIN FOR DELIRIUM」は『殺意』でのGilles de Raisの本領発揮のナンバーと言っていいだろうか。ともにキャッチーさは薄いものの(M5は皆無と言っていいか)、サウンド、バンドアンサンブルにおいては奔放にやっている印象が強い。M4は男女のモノローグの掛け合いが乗った妖しいギターの音色から始まって、ハードコアパンク的な高速ブラストビートへと連なっていく。1980年代のポジティブパンクを彷彿させるものの、独特の展開とサウンドメイクからは単なるエピゴーネンに留まっていないこともよく分かる。M5もポジパン風だが、逆回転風から始まることや、印象的なギターリフが引っ張っていることを考えると、こちらはプログレからの影響だろうか。その前半の展開も面白いのだが、圧倒的に注目なのは中盤以降。何とシャッフルのR&Rがやってくる。1割くらいのキャッチーさを残していると前述したのはそこである。しかも、そこからノイジーでどこか実験的なサウンドコラージュ的なパートが訪れるという、こちらが想像だにしない奇妙奇天烈な展開である(これは誉め言葉)。徹底的に自分たちの思うところを形にした印象が強い。そこから、ヘヴィなギターリフものと言っていいM6「K3 NOISE」、メロディーアスなインストナンバー、M7「SLOW LINE」へと続くのだから、アルバム前半だけでも、相当にバラエティー豊かなことは言うまでもなかろう。

M8「CYBER PUNK」は文字通りパンクと言えるナンバー。間奏明けで楽器隊のみで多めにキメを入れてくる辺りもシャープでカッコ良い。M9「崩れ落ちる前に…」は正統派J-ROCKと言える歌メロと前述したが、イントロからAメロにかけてはスラッシュメタル風で、ダイナミズムのあるアンサンブルを伴っており、ことサウンド面には彼ららしさを注入している点を付記しておかなければならないだろう。M10「巴里祭」は三拍子であることもさることながら、全体を貫く異国的かつ郷愁的な空気感の構築がお見事。バンドが幅広い世界観を標榜していたことの証左であろう。M11「FOLLOW ME」はパンク、M12「#19」はハードコアパンクとギアが上がっていきながら、M13「PEOPLE OR PEOPLE」は、これこそがサイバーパンクと言ったほうがいいのではないかと思うような、レトロフューチャー感というか、テクノポップよりのニューロマというようなナンバーでアルバムは締め括られる。こういう要素を取り込んでいたのは、同時期の他バンドにはまったくなかったのではなかろうか。いたとしても極めて少数だろう。今回、最も面白く聴いた。イエロー・マジック・オーケストラの「SOLID STATE SURVIVOR」とThe Beatlesの「Eleanor Rigby」をマッシュアップしたような…とは、語弊も危険もあることは承知だが、とにかくGilles de Raisの先鋭的な指向を如何なく感じるところである。

また、ここまで主にギターサウンドや、ジャンル的な傾向について述べてきたが、忘れてはならないのはリズム隊の存在感である。多様な音楽性でありつつ、ダレることもよれることも飽きることもなく成立させているのは、ベースとドラムの個性も大きいと見る。ギターとのアンサンブルを考え抜いた感のあるベースフレーズと、一曲の中でも緩急を巧みに操りながらフィルインではオリジナリティーを見せるドラミングがあることで、全ての収録曲を芳醇なものにしていることも記しておく。

OKMusic編集部

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