KIRITO

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【KIRITO インタビュー】
何から何まで自信を持って
“これだよ!”と言いたい想いがある

“人間というのはそういうものだよね”
という有り様を描いた

3曲目の「BALANCE」もアグレッシブなナンバーですが、ダークな歌中とメロディアスなサビのコントラストが光っています。

「BALANCE」は自分の目から見える世界の有り様がテーマになっています。人の世というのは少数の人間の思惑によって大多数が犠牲になることが多いですよね。それが良いとか悪いとかいうことではなくて、人間というのはもう何千年も前からそうしてきている。そういうところで、“BALANCE”というのは歌詞の中にある“パワーバランス”という意味でもあるし、自分としては本当に張りつめた糸が何本も張り巡らさられていて、それを少数の人間同士がものすごい勢いで引っ張り合っているイメージです。そこで、ちょっとでも力の加減を間違えて糸がプツンと1本切れたら、もう全てがグチャグチャになってしまう。そういう危ういパワーバランスで世界は成り立っていると。そして、人間そのものが、そういうかたちで成り立っていますよね。それこそ何百年前とかは殺し合いをしてなんぼの時代だったし、今はITがどうだとか、AIがどうだとか、それくらい科学や技術が進歩しているにもかかわらず、未だに殺し合いをしているじゃないですか。だから、“人間というのはそういうものだよね”という有り様を描きました。

どれだけ文明が進化しても、結局のところ人間は変わらないというのは私も思っています。もうひとつ、「BALANCE」のサビでは《対岸の悲劇知らず 何も変わらない日常》と歌っていますよね。ロシアの侵攻に続いてイスラエルとガザ地区の紛争が始まっても世界の大多数の人は特に何も変わらない生活を送っているんだなと思った矢先でしたので、ズンッ!と響きました。

そこも昔からそうだったと思うんですよ。それこそ第二次世界大戦で日本が壊滅しそうになって“一億層玉砕”みたいなことを言っている一方で、アメリカでは戦争をしていることすら分からないくらいの日常が続いていた人も多かったと思うんです。インターネットとかもない時代で、今ほどリアルタイムの情報がないだけに、普通に生活していて、普通にご飯を食べて、演劇を観て…みたいな。戦争し合っている国同士ですら、そういう違いがあったじゃないですか。それは良い悪いではなくて、そういうものなんですよね、世の中というのは。

「BALANCE」は反戦を訴えたりしているわけではないんですね。

違います。人の世の有り様を示して、“その先は自分で考えてください”というだけです。“それでいいじゃん”と思うなら別にそれでいいし、“それじゃダメだよな”と思って何かをもっと知ろうとする人がいてもいいし、そういうことは一切関係なく、“自分はロックを楽しみたいだけだから”でもいい。僕が昔から考えていることだけど、人間は生きていく上で、清濁併せ吞むということができなければ生きていけませんよね。何かが正義で、何かが悪で、その悪を排除しないといけない…というのは無理なんですよ。“その中でどうするかは自身で考えてください”ということです。僕はみんなに何かを教えるとか、伝えるといった、そこまでの人間ではないと思っているんです。ただの1ミュージシャンですよね。アーティストの役割というのは自分独自の視点から見える事柄の有り様を作品にするだけであって、そこに思想を入れて何かを教えたりするほど大層なものではない。

“破滅と再生”や“終焉と始まり”などをフラットな視線で描くことで、『NEOSPIRAL』と『ALPHA』は救済感のある作品になっていることが印象的です。続いて、5曲目の「Gene」についてうかがいたいと思います。この曲は少しレトロな雰囲気もあって、今作のいいアクセントになっていますね。

この曲は自分としては珍しく、急に降りてきたんです。唯一と言ってもいいかもしれない。いろんな曲に取りかかっている合間の夜中だったか朝方だったかに、自分の頭の中でリフが突然鳴り始めたんです。その時は自宅にいたので、リフに対するメロディーやリズムだとか全部が一気に頭の中でかたちになったものを急いでスタジオで音にしました。そんなことって今までなかったんですよね。

頑張っているKIRITOさんに、音楽の神様が少し手助けをしてくれたのもしれませんね。そんな「Gene」の歌詞は輪廻転生といいますか、“魂は永遠”ということがテーマになっていますね。

魂や輪廻というよりは、タイトルどおり“Gene=細胞”ということですね。今の自分たちの命が終わっても、細胞や染色体が次につながっていくと。微妙に形態を変えて次の世代につながっていくのは、生物学的な観点ですね。

私は魂というスピリチュアルな観点でとらえたのですが、そうではなくて科学的なことだと。

自分的には、そっちです。

《再びまた巡り逢って/何度でも探し当てるよ》という一節があって、すごくロマンチックだと思うんですが、それも科学的な観点でそういう言葉が出てきたと?

科学にはスピリチュアル的なことと共通してしまうところがあって、それが面白いと思って、僕はあえて科学目線の手法をとっているんです。これも自分の変なところかもしれないけど(笑)、僕の中には両極があるんですよ。宗教や神秘的なものに惹かれると同時に、科学にも惹かれる。歌は聴いた人に想いが伝わるとか、人生を変える可能性があるというふうにすごく観念的なものだけど、科学や生物学だったりを裏づけにして同じことを伝えたとしてもリンクするところがあるんです。そこが面白いと思うし、観念的なところだけで作ってしまうと、自分としてはすごく単純に感じるものになってしまうから、そこは生物学的なことや科学的なことを裏づけにしたい。リンクしてしまう部分は、本当にあるから。魂や輪廻転生といったことも人間の生殖活動だったり、種として次の世代を残すこと…自分たちは死んでいくけど、自分たちの染色体だったりの良い部分を、かたちを変えながら重ね合わせることで進化していく流れは、まさに“永遠の魂”や“輪廻”といった思想とリンクしますよね。

そう言われると、確かにそうですね。

物理学とか科学的なものの行き着く先は、不思議と宗教的なものとリンクするという話はよく聞くんですよね。以前に聞いた話で面白かったのは、宇宙飛行士は何年もかけて科学的な知識を学んだり、宇宙に出ていく上で必要な訓練とかをして、言ってみれば宗教的なこととはまったく違った分野を極めて地球の外に出るわけじゃないですか。つまり、そういう人たちは神や宗教的なものからもっとも遠いというか、それこそ神の存在を否定するようなチャレンジをするんですよね。だけど、実際に地球の外に出た宇宙飛行士たちは、みんな口を揃えて“神の存在を感じた”と言うんですよ。だから、やはりそういうことなのかなって。科学も突き詰めると最終的に観念的なものとつながってしまうから、宗教というのはあながち人間が勝手に作ったファンタジーではなくて、科学を突き詰めた時に答えがリンクするほど、どこか真実を内包していると思う部分もあるんです。

OKMusic編集部

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